2023.05.12 ZEBRAS NEWS
「リスク」と「意思決定スタイル」で考えるゼブラ企業のファイナンスデザイン
こんにちは。
Zebras and Company 共同創業者の田淵です。今日は2年ほど活動してきた中で見えてきた、ゼブラ企業経営にとって重要な基盤であるファイナンスとガバナンス。それらを経営者の隣でサポートしていくための経営支援サービスを考えました。その内容についてご紹介したいと思います。
スタートアップに限らず企業が成長していくために避けて通れないのが資金調達。いつ、どのような方法で、どのような色(資金の出し手の種類や意図)の資金を調達していくのかを成長や会社の体制を変える初期の段階でしっかりと計画しておくことが極めて重要です。調達方法はただ活動のために必要なお金を集めるというだけではなく、会社の意思決定体制のあり方にも関わってきます。後々になって「こうすればよかった」と思っても取り返しのつかないことも多いです。
しかし、事業を作るのに必死な会社の初期段階に数ある調達方法のメリット、デメリットを把握し、長期的に見て自分たちに最も合った設計を行うことは容易ではありません。実際に我々ゼブラアンドカンパニーのもとにもこれまで、お付き合いのある企業からこうした相談が多数寄せられていました。
そこで、ゼブラ経営のためのガバナンス面も含んだファイナンスの設計を支援する新サービス『ゼブラファイナンスデザイン』を始めることにしました。ここからその概要と、ファイナンスをデザインする上で必要な考え方を概説していきます。
「あの時に知っておけばよかった」をなくしたい
多くの場合、起業家、経営者はファイナンスの専門家ではありません。また、起業してしばらくは事業を作ることが最優先事項になるので、ファイナンスの設計にまで頭が回らないというのが実情ではないでしょうか。
けれども、会社の初期段階から長期的な視点に立って資本計画を作ることは極めて重要です。というのも、どういうお金をどうやって調達するかは、どんな人と意思決定していくかというガバナンスの問題とも密接に関わってくるからです。
たとえば、一般的な資金調達の方法に株式発行がありますが、一度株式を発行してしまえば、株主が自分の意思で売らない限り、永遠に会社の意思決定に関わり続けます。「やっぱりこうしておけばよかった」「最初からやり直したい」と思っても、基本的には後戻りできません。実際にそういうことで苦しんでいる企業を過去にも見てきました。
一方で、ゼブラ企業の事業は、共感性の高いものであることが多いです。そのため、一般によく知られる株式発行と銀行借入以外にも、寄付や助成金といった方法で資金を調達することができます。取り得る選択肢は実は幅広く、一定の知識を持って視野を広げることで、自分たちに本当に合ったファイナンスのデザインができるのです。
そうやって自分たちの事業の性質や経営の仕方に合った資金調達方法を選び取れる企業が増えることは、投資する側にとっても大きな意味があります。なぜなら、どういう企業に投資をするかが、投資家にとっての自己表現であり、意思表示を意味するからです。
我々としてはこういうことができる企業が世の中に増えてほしいと思っています。その一助、始まりになればというのが、新サービス立ち上げの背景にある考えです。
融資・投資・インパクト投資・フィランソロピー
多様なファイナンスに関わる経験から見える視点
これからお伝えする考え方には、多様な立場で、その時々の新しいファイナンスの形に関わってきた私のキャリアが影響を与えています。
新卒では総合商社に入社し、航空機ファイナンスや再生可能エネルギー投資の領域で、投資性の資金、融資性の資金を扱うファイナンス事業に携わりました。その後、海外でインパクト投資の草分け的存在であるLGT VP、国内ではソーシャル・インベストメント・パートナーズに籍を置き、日本は初めてとなる、寄付を原資に投融資を行うベンチャー・フィランソロピーにも携わってきました。資金調達にはエクイティ、デット、フィランソロピーなどさまざまな方法がありますが、そのいずれをも扱ってきた経験があることになります。
また、そうした投資活動の中では、出資者や取締役構成を含めた企業の意思決定プロセスの設計などにも関わってきました。『ゼブラファイナンスデザイン』では、こうした幅広い経験を活かして企業を支援していきます。
冒頭で「成長や会社の体制を変える初期段階に計画することが重要」と言いましたが、資本計画の策定には最適なタイミングがやはりあります。どのような会社にどのようなタイミングでサービスを利用してもらえばいいのか。大きくは次の二つのタイプの企業を想定しています。
一つは、起業からしばらく経ってプロダクトやサービスの売上が安定し、これから事業や社会的インパクトを大きくしていきたいタイミングにある企業です。逆に、本当の創業期にある企業には、まずはプロダクトやサービスが市場に安定することを優先していただき、その後、ご相談いただくのが良いかと思います。
もう一つは、事業承継を検討している企業です。たとえば、家業を継ぎ、いまいる社員やステークホルダーを大事にしつつも次の成長を目指している、あるいは、自分の経営する会社をより公に開かれたものとするため新しい経営のあり方を模索している、といったケースが該当します。
我々が過去に見てきた範囲では、地域の老舗企業にこうした例が多い印象です。若くして家業を継ぎ、新しいことに取り組みたい野心がある。けれどもそのための資本計画を含めた具体的なやり方がわからず、地方銀行や信用金庫に相談するものの、取り得る選択肢が銀行融資などに限られている、など。こうした状況にある企業に対しても、お力になれると考えています。
ファイナンスの種類と特徴、その考え方
では、実際にどのように資本計画をデザインしていけばいいでしょうか。その解説の前に、そもそも取り得る資金調達の方法にはどのようなものがあるのかを整理します。
ファイナンスの方法は、大きく分けると、エクイティ、デット、シェア型、フィランソロピーの四つに整理できるかと思います。
- エクイティ:企業が新株発行を通じて、事業のために資金を調達する行為。エクイティによる調達にはいくつかの方法があり、①市場規模が十分にある、②大きな利益規模が見込まれる、③一定の成長スピードが見込まれる--の三つの条件全てに当てはまる場合は、第三者から一括還元する普通株、どれか一つでも当てはまらない場合は買戻型優先株によって調達し、自社利益から徐々に還元する方法が適している。
- デット:有利子負債(利子を付けて返済しなければならない負債)による資金調達方法。公的融資、銀行融資、社債など。
- シェア型:収益分配型の成果報酬型契約であるレベニューシェア、収益から経費を差し引いた利益を分配するプロフィットシェアなど。出資者はエグジット時のキャピタルゲインを期待して出資するのではなく、収益(利益)の一部をリターンとして受け取る。
- フィランソロピー:助成金、寄付など。
四つの方法にはそれぞれ異なる特徴があります。自分たちがどのような意思決定体制を望んでいるか、自分たちの事業がどれくらいリスクを限定できているか。この二つによって、どの資金調達方法を選ぶべきかは変わってきます。
たとえば、経営に関して相談できるパートナーが欲しい。あるいは、プロダクトを広める上でさまざまな人のネットワークが欲しい。こういった理由で他者を経営の意思決定に巻き込みたいのであれば、エクイティによる資金調達が向いています。力を貸してほしい人に株主になってもらい、意思決定に関わってもらうのです。
その逆に、経営の意思決定に他者を巻き込みたくない、しばらくは自分たちだけで事業を作り込みたいというのであれば、デット、フィランソロピー、シェア型が向いています。
リスクが限定できている、すなわち、事業がある程度回っていて、借りたお金を返す目処が立つのであれば、デットによる調達がしやすくなります。逆に見通しがまだ不透明なのであれば、デットという選択肢は非現実的です。その場合はレベニューシェアやプロフィットシェア、意思決定に他者を巻き込んでもいいのであれば、エクイティによる調達を検討することになります。
また、事業が社会課題と結びついているなど、共感性の高いものであれば、返済の必要がない助成金や寄付による調達も視野に入ってきます。
このように「意思決定体制」と「リスク」の掛け合わせで検討するというのが大まかな考え方です。そして当然ですが、資金調達はすぐには成立しません。準備期間の短い融資であっても数週間から1〜2カ月はかかりますから、前もって計画する必要があります。
こうしたファイナンスの方法が、企業の成長ステージによりどのように変化するかも見てみましょう。
起業した直後は担保も実績もないのでリスクが高いです。この状況で現実的なのはエクイティによる資金調達。事業の共感性が高ければ助成金もあり得ます。
少しずつ実績が出てきて、売上がある程度推測できるようになると、レベニューシェアやプロフィットシェアも視野に入ってきます。
デットはリスクが低いことが前提になります。一般的には損益分岐点を超えて以降にデットによる調達がしやすくなっていきます。
ファイナンスデザインを始める時に向き合うべき問い
以上のようなファイナンスの種類と特徴を把握した上で、ここからは、実際にどのように計画をデザインしていくのかを見ていきます。
まず行うのは自社事業の現状に関する整理です。以下の質問に答えるかたちで、自社の事業と、生み出したい社会的インパクトを整理していきます。
●自社事業に関する整理
ファイナンスの方法は、大きく分けると、エクイティ、デット、シェア型、フィランソロピーの四つに整理できるかと思います。
- どういったビジネスモデルで解決しようとしているか?
- 市場の大きさはどの程度か?
- 優位性は何か?
- 事業計画でどのような成長性が見込まれるか?
- どのような資金ニーズがあるか?
- 意思決定体制をどうしていきたいか?
- どういった財務体質か?
●自社が生み出したい社会的インパクトについての整理
- なぜその事業を始めようと思ったのか?
- ビジョン、ミッション、社会的インパクトは何か?
- 社会的インパクトを与えようとしているステークホルダーは誰か/何か?
- 与えようとしている社会的インパクトは事業成長によってどの程度広がるか?
これは我々が企業に投資する際の検討事項でもあります。中でも特に重視しているのが後半の社会的インパクトに関する四つの質問です。ここで言う社会的インパクトは必ずしもサービスを通じて追求するものに限りません。従業員、サプライヤー、地域、産業、あるいは地球環境そのものがステークホルダーというケースもあり得ます。
以上の問いに答えることで自社の状況を整理できたら、前項で触れた「リスク」と「意思決定の仕組み」をクリアにし、その組み合わせにより、最適なファイナンスの方法を見つけていきます。
●リスクを知る
- 担保はあるか?
- 営業利益率は高いか?
- 見込収益の確度は高いか(実績があるか)?
- 資金使途は変動費か(先行投資ではないか)?
●経営体制/意思決定の仕組みを知る
- 現在どのような経営チームか?
- 今後、他者を意思決定体制に巻き込んでいきたいか?
- どんな人を巻き込んでいきたいか?
ゼブラ企業と資金調達の具体事例
私たちが支援した、もしくは関わりのある企業がどのようにファイナンスをデザインしていったのか、事例をご紹介します。
●ラストマイルワークス
業態:デジタル制作
実施したファイナンス方法:デット
望むガバナンスの姿:社会的インパクトを生むために意思決定者の志向が統一された体制
(リスク:低 意思決定:他者を巻き込まない)
当初寄せられたのは「事業を伸ばすためにエクイティで調達がしたい」という相談だったが、話を聞いていくと、急成長よりも雇用や従業員育成に重きを置いていたこと、一定数の初期株主がすでにいたことから意思決定にそれ以上他者を巻き込まないことを選択。また、すでに数年の実績、数億円の売上がありリスクが限定されていたことから。融資による調達を行った。
●マルゴト
業態:採用活動支援
実施したファイナンス方法:デット+社債
望むガバナンスの姿:社会的インパクトを生むためにも自由なお金の使い方ができる
(リスク:低 意思決定:他者を巻き込まない)
経営者は過去に経営していた別の会社でエクイティによる調達を実施。株主が倒産したことで意思決定体制が崩れ、思うような経営ができなくなった経験をしていた。そのため、今回の起業では意思決定に他者を巻き込まないことを選択。なおかつリスクはある程度限定されていたことから、融資による調達を行った。
●陽と人
業態:農産物の販売、及び女性の健康課題を解決する商品の企画/販売
実施したファイナンス方法:エクイティ
望むガバナンスの姿:多様なステークホルダーのために、多様な意思決定者を巻き込む
(リスク:高 意思決定:他者を巻き込む)
女性を取り巻く課題と福島県の農業課題の両方の解決をシナジーを生み出しながら進める難易度の高いビジネスを一定の規模まで拡大していくためには、人材の採用やマーケティングに先行投資をする必要があったため、exitの形を限定せずかつリスクある資金にも対応できる投資スキーム「LIFE」をZ&Cと一緒に設計した。
多様なゼブラ経営とそれに合ったファイナンスの形がある世界を目指して
以上見てきたように、ゼブラ企業のファイナンスにはさまざまな方法があります。けれどもそれらを体系的にまとめた情報はこれまであまりありませんでした。我々は今回のサービスを通じてノウハウを広くシェアし、多くのゼブラ企業の成長に寄与していきたいと考えています。
すでにCFOのいる企業にアドバイザーとしてライトに関わることもできますし、CFOのいない会社に関しては外部CFOのようなかたちで関わることもできます。興味を持たれた方はお気軽にお問合せください。また、お金の出し手となる金融機関や行政とも連携していきたいので、一緒に考えてくれる仲間も随時募集しています。
PROFILE
ゼブラ編集部
「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。