2023.06.02 ZEBRAS

融資と社債で1.3億調達——エクイティに頼らない、マルゴト株式会社の資金調達から考える、ゼブラ企業のあり方


融資と社債で1.3億調達——エクイティに頼らない、マルゴト株式会社の資金調達から考える、ゼブラ企業のあり方のイメージ

昨今、米国上場市況の悪化や戦争などの影響から、大型資金調達がしにくい時期が続いています。スタートアップ資金調達の主流であった「エクイティ」によるファイナンスが難しくなり、「デット」によるファイナンスに注目が集まっています。

一般的にエクイティは、返済義務がない代わりに大きなリターンを求められる資金調達であり、より多くの市場を獲得できるビジネスモデルと相性がいいものです。それに対して、デットは、大きく成長しなくとも、一定の売り上げと利益が見込めるビジネスモデルと相性がいい。長期的に堅実な成長を目指す「ゼブラ企業」に向いたファイナンス方法のひとつとも言えます。

そうしたなか、2023年4月に、ベンチャー企業向け採用代行「まるごと人事」などのオンライン業務代行サービスを提供する「マルゴト株式会社」は、融資と社債のみで1.3億円の資金調達を実施しました。

負債を抱えることとなるデットファイナンスを避けるスタートアップ経営者も多いなか、同社代表取締役社長の今 啓亮(こん けいすけ)さんは、「長期的な成長を目指す経営者に知って欲しい選択肢だ」と語ります。なぜ、今さんはデットファイナンスによる資金調達をしたのか。その背景にある想いと、今氏が考える、ゼブラ企業的な経営方針を紐解きます。

*1・・・デットファイナンス:金融機関からの借入や社債の発行などを通じて資金調達を行う方法。

お客さまと同じ目線で採用成功を喜び合いたい

マルゴト株式会社 代表取締役社長 今 啓亮さん
北嶺中高等学校、北海道大学卒。大学在学中に家庭教師仲介サービスで起業。
新卒で東京のベンチャー企業に入社し3年間勤務。
2013年にカンボジアで人材紹介会社を創業し、登録者15,000人のサービスに成長させて2年で会社譲渡。
2015年に東京でマルゴト株式会社(旧社名:株式会社ビーグローバル)を創業。
スタートアップから大手企業まで幅広く採用関連のプロジェクトに携わった後、2017年に月額制の採用代行”まるごと人事”の提供を開始。
2021年にバックオフィス代行”まるごと管理部”も開始。
「理想のサービスと理想の職場を同時実現する」を経営理念に掲げ、全員がフルリモートで働くユニークな組織運営を行う。
2022年に本社住所を東京から札幌に移転し、自身も関東から札幌に移住。

——資金調達、おめでとうございます。はじめに、マルゴト株式会社の事業やビジネスモデルについて教えて下さい。

ベンチャー企業に特化した採用支援をメイン事業とし、「まるごと人事」という採用代行サービスを運営しています。ビジネスモデルの大きな特徴は主に2つです。1つ目は「自社の社員による採用チーム」がサービス提供していること。一般的な採用代行では、業務委託でメンバーを抱え、クライアントとマッチングさせるスタイルをとっていますが、マルゴトは社員がチームとなり、お客さまの会社の業務をリモートで代行しています。

2つ目は継続課金のストック型のビジネスモデルであること。採用ができたらフィーをいただく成果報酬ではなく、稼働時間にもとづく月額固定制での報酬を頂いています。

——「採用チーム」の提供、面白いですね。採用支援にも人材紹介など様々な手法があるかと思いますが、採用代行を提供しているのは何故でしょうか。

大前提にあるのは「お客さんと同じ立場で、同じ方向を向いて、一緒に採用成功を喜び合いたい」という想いです。創業期に人材紹介をしようかと検討したこともありました。報酬のみを考えたら、利益率が高くて魅力的ですからね。でも、良くも悪くも「企業にどうにか採用させること」がゴールになってしまうことに違和感を感じたんです。「本当は良い人をきちんと採用したい」「採用コストはなるべく安い方が良い」「採用工数を削減したい」など、お客さまが求めていることは他にもあるはずです。本当の意味でお客さまと一緒に喜び合えるのは、採用代行という形なんじゃないかと思いました。

採用代行を選んだもうひとつの理由は、社員が「ピュアでクリーンな気持ち」で働ける環境を用意したかったからです。マルゴトでは、どんなにベテランの社員でも、1人あたりの顧客数は最大2社までにしています。顧客数を増やせば利益もあがりますが、1社との関わりが希薄になってしまうからです。過度に売上に追われることなく、きちんとお客さまと向き合いながら仕事をするやりがいを、社員には感じて欲しいと思っています。

「利益の使い方」に会社のカラーが表れる

——お客さまと社員、双方を考えた上での事業モデルなのですね。マルゴトは「理想のサービスと理想の職場を同時実現する」という経営理念を掲げています。「同時実現」にはどのような意味が込められているのでしょうか。

理想のサービス作りと理想の職場づくりは循環していると思います。理想の職場を作れば自然応募が増え、また社員流出が減るので、採用広告費を抑えることができる。その分サービス作りに予算を投下できます。

良いサービスができれば、広告費をかけずとも顧客に選ばれるので、その分社員へ利益還元することが可能です。社員が理想のサービスを顧客に提供し、僕たち経営陣は理想の職場を社員に提供していく。そんな意識で経営を行っています。

——サービスと職場のどちらも欠かせない要素なんですね。では、どのように理想の職場作りをされているのか教えてください。

まず、ライフスタイルや家族も大切にしながら自由に働けるよう、全社員がフルリモート勤務をしています。151名(2023年5月現在)在籍している社員の8割は東京以外に住んでいて、会社から支給されたデュアルディスプレイまで使って働いているんです。

その上で、例えば育児中の社員向けの制度として、午前午後の有給を分けて取れる制度や、病児保育のベビーシッター代を経費で使用できる制度を用意しています。これによって看病のために会社を休む際に発生する引き継ぎ業務に対しても、きちんと給与が出せるようにしました。

——金銭的な面を含めてサポートを行っているんですね。

そうですね。会社を経営する上で、利益の使い方をとても重視しています。企業経営というと、「どのように世の中に価値を作るか」「どう売り上げを上げるか」にフォーカスされることが多いですが、「使い方にこそ会社のカラーが出る」と思っているんです。利益が出たら、すべてを役員報酬にすることも、すべてを事業に投資することも可能ですが、まずは社員にとって働きやすい職場づくりに使いたい。それが良いサービスを広げていくことにつながると信じています。

「経営方針がブレない」デットファイナンス最大のメリット

——利益だけを求めるのではなく、社員にとって理想の職場を作り、それを無理のないスピードで広げていく様が、まさに「ゼブラ的」じゃないかと思います。そんなマルゴト社が、なぜ融資と社債での資金調達を実行したのでしょうか。

デットファイナンスなら、理想とする経営方針をぶらすことなく、事業・組織成長に取り組めると思ったからです。これは、自分の過去の体験から学んだことでもあります。

実は昔、1社目の会社をカンボジアで起業をした際、事業会社2社より出資を受けたことがあるんです。当時は、一気に成長させて売却しようと考えていました。しかし、出資いただいた企業のうち1社が倒産状態に。そのあたりから、株主と経営の間に、経営方針のズレを感じるようになったんです。「いますぐ会社を売却すべきでは」「もっとアクセル踏んだ方が良いんじゃないか」など様々な意見が出るようになりました。

株主含め当時のメンバーは大切な仲間だったので、どの意見も尊重したい気持ちもありましたが、一方で自分の会社なのに自分で意思決定ができず、コントロールがきかない会社を経営しているようなもどかしさも感じていました。

——株主との間に事業をやる目的や成長速度の認識にズレがあり、思うように経営できなかったんですね。

僕が一般的な資本主義の考え方に乗っかり、営利目的のみで企業経営をしていれば、当時の結果も変わっていたかもしれません。ただ、色んなことを差しおいてでも、利益を残せば残すほど良い、会社の成長スピードが速ければ速いほど良い、という考えに確信が持てませんでした。

サービス品質を崩してまで、会社を大きくする意義が感じられませんでしたし、社員に対しても同様で、寝る間も惜しんで働かせて実現する事業成長ってなんだろうと。そこまでして10倍成長みたいなものを目指さなくていいと思っていたんです。

——なぜ、そのような価値観を持つようになったんですか?

実はカンボジアでの経験が大きいと思います。カンボジア人って、弟や母が風邪ひいている、という理由で会社を休むんです。正直、最初は「嘘をついているのでは?」と思ったんですが、ちゃんと話を聞くと嘘ではないらしい。仕事よりも家族が大事だと、本気で思ってるみたいなんです。

日本人としての価値観では「ビジネスマンとしてどうなのか」とも感じたのですが、一緒に働く中で「間違っているのは僕の方かもしれない」と思うようになりました。だって、家族を大事にするって、当たり前に大事なことですよね。そうした経験から、仕事も家庭も大事にできるような会社を作りたいと思うようになりました。

——商習慣の違う場所でした経験が、いまのマルゴトの経営方針に生かされているんですね。一方、その価値観をビジネスで実現するのは難しさもあると思うのですが、迷わずに続けられるのはなぜでしょうか。

なんだろう……。身近な人からの反応が道標になっているのかもしれないですね。先日ある女性社員が「わたしが以前、会社員をしていた時なんてこうだったんですよ〜」と、話しているのを耳にしたんです。いまも当社の会社員なのにですよ(笑)。会社員でいることすら忘れて伸び伸びと働いているんだとわかり、すごく嬉しくなりました。また、お客さまからマルゴトの社員を褒めていただくことも多々あります。

一般的な資本主義のルールに従っていなくても、社員とお客さまが喜んでくれるなら「間違ってない」と思えるんです。もちろん、ベンチャーとして社会的インパクトのある事業を作りたい想いもあります。ですから、僕にとってデットファイナンスによる資金調達は、大切な価値観をぶらすことなく、社会的インパクトを追求するためのベストな選択肢だったんです。

融資は信頼を貯める手段。借りるのは早ければ早いほどいい

——今回、デットファイナンスによる資金調達を経ての学びはありますか。

僕のように、長期的な成長を目指している経営者と、融資・社債による資金調達は、相性がいいということを学びました。たしかに負債を負うことの心理的ハードルは大きいと思いますが、経営方針をぶらしたくない経営者にとって検討に値する選択肢だと思います。

また、融資は「長期的に銀行からの信頼を貯める方法」でもあることを再確認しました。例えば1000万円借りたとして期限内に返済したら、次も1000万円を簡単に借りられる信用ができていきます。また、返済期間中に追加で資金が必要となれば、さらに借入して過去の返済分に相当する金額を借り入れできる「折り返し融資」という仕組みもある。

いますぐ資金が必要ではない状態でも、早いうちに借りて完済しておけば、将来どこかでグッと資金が必要になるタイミングで借りやすくなります。上場や売却をしなきゃならないという焦りを感じることなく、自分自身で経営スピードを調整したい方には、デットファイナンスをおすすめしたいですね。

——ゼブラ企業にとっても、「融資を軸とした企業経営」はひとつの選択肢になりそうです。最後に今後の事業の展望を教えてください。

採用以外の職種でも、マルゴトらしい働き方を実現していけるようにしたいと考えています。第二事業である「まるごと管理部」も、そんな思いで始めました。

経理経験のある知人がパートナーの転勤で、駅も電車も近くにない地域に引っ越したのですが、自分の経験を活かせる求人が見つからないと困っていたんです。一方で、都内のベンチャー企業は、労務や経理の経営者を採用できないと困っている。両者を繋ぐことができれば、お互いに幸せになると思い、経理と労務の代行サービスを始めました。

このように、僕らのビジネスは特定の人の困りごとから発想を得ることが多いんです。いくつかの困りごとを一緒に解決できる方法が見つかったら、そこに投資をして事業として伸ばしていこうと思っています。ですから、いつでもアクセルを踏めるように、安定した資金繰りが今後も必要です。融資を軸とした企業経営を続けながら、新しい価値提供の方法を模索していきたいと思います。

撮影:北川陽稔(haptics)
撮影協力:poool -Espresso&Work-

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。