2022.04.15 ZEBRAS

万博初の女性を称えるパビリオンも開設。Cartierが15年続ける世界的な女性起業家支援プログラム「Cartier Women’s Initiative」とは


万博初の女性を称えるパビリオンも開設。Cartierが15年続ける世界的な女性起業家支援プログラム「Cartier Women’s Initiative」とはのイメージ

「女性起業家」という言葉に馴染みのある方も多いと思います。日本では、近年女性の社会進出が謳われ、「起業」に興味を持つ女性やそれを支援する企業や団体が見られるようになりました。しかし海外では女性起業家支援を15年以上前から続けている企業があります。フランス発の宝飾品ブランド「カルティエ」です。カルティエは、「Cartier Women’s Initiative」、通称「CWI」という世界の女性起業家を支援するプログラムを毎年実施。2021年には15周年を迎え、今年ドバイにて記念イベントが開催されました。

本イベントには、CWIの「東アジア審査員長」を務めるゼブラアンドカンパニー代表の田淵良敬さん(以下、「田淵さん」)も招待されています。女性を対象にした展示館やフェロー(過去CWIに選出された女性起業家)へのアワードの贈呈などを通して、世界中の「女性」を称え、より充実したプログラムを作るためのマイルストーンが議論された、歴史的イベントだったそうです。

本記事では、田淵さんに質問する形式も織り込んで、CWIの概要やイベントの様子などをレポートします。

 

CWI -女性社会起業家をエンパワメント-

CWIは、社会変革に取り組む女性起業家が最大限、力を発揮できることを目的とし、これまでの15年間で62カ国262人の女性起業家にスポットライトを当て、600万ドルを超える金銭的支援と事業サポートをしてきました。(詳細はこちら

ーCWIの概要を教えてもらっても良いですか?

©ゼブラ編集部

田淵さん:
国内・海外でいくつかの起業家支援やアクセラレータープログラムと呼ばれるものに関わらせていただいてきていますが、CWIはおそらく私が見てきた中で最も手厚いサポートと関係者のコミュニティが創られているプログラムだと思います。

CWIは毎年、世界7地域から起業家を公募します。公募時にはピッチ資料に加え、経営陣の履歴書や財務情報、法的な書類など投資を受ける際に必要となるような書類が要求されます。

上記書類を基に、Saganaというインパクト投資を行う会社、によってスクリーニングが行われ、選ばれた起業家に関するレポートが作成されます。

投資家や経営者、フェローなどから構成される各地域5名の審査員はレポートをもとにファイナリストを選出、一人一人の起業家に合わせたサポートプログラム(e.g. 「事業計画の作り方」、「財務モデルの作り方」)やメンター(e.g. パリのBain & Companyの戦略コンサルタント)とのマッチングを行います。(その他の詳細はこちらから)

ー「グランプリ」発表後も、参加した女性起業家同士のつながりはあるのでしょうか。

田淵さん:
フェローや審査員、メンターが在籍していたり、ウェビナーなどで先進的な知識を教えてくれる「CWIコミュニティ」があり、現在320名超が在籍しています。(内、3名の起業家を後ほどご紹介します。)

特に、CWIとフェローの結びつきは強く、例えば、2007年にCWIのファイナリストの一人、Angel Chang氏(中国農村部の伝統的な技術を用いてフルハンドメイドで作られた服飾を販売している)は、約15年経った今でも、メンターについてもらっていたり、パリに出張に行くとCWIのオフィスに行き情報交換をしたりしているようです。

起業家にとってCWIコミュニティは、伴走支援終了後もサポートしてくれる、まさに味方のような存在ですね!

 

CWI同窓会 in ドバイ

ー次に今回、田淵さんが参加されたCWIの15周年イベントについて教えてください。

田淵さん:
今回の15周年イベントはドバイで開催されました。ドバイで開催された理由は色々あると思いますが、ドバイで2021年10月から開催されていた万博において、万博とカルティエのコラボレーションによる、万博史上初となる女性を対象とした展示館「Womens’Pavilion」が創られました。2015年9月にSDGsが採択され、「#Metoo運動」など、世界的に男女平等の重要性が見直されて以来、初めての大規模な万博だったんですよね(前回:2015年5月ミラノ万博)。CWIは「ジェンダー平等と女性の社会的支援がSDGs達成の鍵」(全編英語)とも考えており、5年に1度の万博で、女性を称える展示館を共創したことは、CWIないしはカルティエの「女性の地位向上に向けた覚悟」ともいえるでしょうね。

展示館の中は、「When women thrive,  humanity thrives」と題して、世界の女性たちがこれまでに積み上げてきた偉大な功績やそれにまつわる展示品が紹介されていました。カルティエのデザイン力が活かされたレイアウトや色合い、その他展示館の雰囲気は非常に洗礼されており、女性に対する敬意が感じられて圧巻でした。

そのクロージングセレモニーが同時期にあったこと、またCWIには世界中から参加者がいたため比較的皆が集まりやすい国際都市であるドバイが選ばれたのではないかと思います。コミュニティメンバーが一堂に会する”Global Reunion”、いわば「同窓会」のようなイベントであり、カルティエの関係者が世界各国から300名以上参加していました。今回は、その中でもCWIのウェブサイトなどでも公開されている「インパクトアワードセレモニー」に加えて、参加者(=現役審査員)だから話せる2日間にかけて行われたセッションで出会った起業家たちについてお話します。

 

秀でたインパクトを残した女性起業家を表彰

ー15周年を記念した本イベントですが、特別なアワードが授与されたという話を聞きました。「インパクトアワードセレモニー」とは何でしょうか?

田淵さん:
今回、ドバイで行われた15周年イベントは、”15 YEARS OF IMPACT”というテーマがあり、秀でたインパクトを残してきたフェローを対象に、アワードが授与されました。アワードは、SDGsに基づく「生活の向上」、「地球保全」、「機会創造」の3カテゴリーで構成されています。出産による大量出血で、アフリカの妊婦の命が失われていることに着目し、短時間で病院に血液を届けるサービス”LifeBank”を運営しているTemie Giwa-Tubosun氏を始めとする、計9名(各カテゴリーごと3名)がインパクトアワードを受賞しました。

©Cartier Women’s Initiative

 

社会の変革を目指すフェローたち

ーイベントのその他アジェンダを教えてください!

田淵さん:
実は1日目には、プレナリーセッションと称して、Cartier International CEOであるCyrille Vigneron氏(登壇者中央)やCWIグローバルプログラムディレクター(左)、Cartier Philanthropyのストラテジック・アドバイザー(右)によるパネルディスカッション、世界初のインパクトボンドなどで注目を集めたインドのEducate Girlsの創業者、世界最大のNGOであるBRACによるパネルディスカッションなどがありました。

©Cartier Women’s Initiative

また、1日目、2日目を通じて、「Meet & Learnセッション」としてCWIコミュニティ内の専門家を講師として「資金調達:ジェンダーレンズ投資を受ける意義」、「社会的インパクトのための融資」、「社会的インパクトと経済的持続性の両立」などをテーマとしたワークショップや、私もファシリテーターの一人を務めることになったCWIコミュニティ内のネットワーキングやコラボレーションの発生を目的としたセッションなどが多数開催されました。

それらを通じて、出会った中で特に興味深い起業家(過去のフェロー)3名を紹介します。

1:「Flare」

テクノロジーを駆使して発展途上国に貢献する「Flare」のアメリカ人共同創業者の一人、Caitlin氏はプレナリーセッションのパネリストの一人でした。一般的に、救急患者には最初の約1時間が「ゴールデンアワー」と呼ばれその間に治療を受けることができるかが非常に重要ですが、サービスを始めたケニアのナイロビでは、救急車が到着するまでの平均時間が162分かかっていました。この背景には、ナイロビでは50種類以上の救急電話番号があるほど救急サービスが異なっており、患者が利用可能な救急車を探すまでに莫大な時間がかかるという問題がありました。Caitlinは、テクノロジーを使って、これらの救急サービスを繋げ一元管理できるUberの救急車版とも呼べるようなサービスを構築・展開し、救急車到着までの平均時間を69分まで縮めました。現在は、ケニア一帯にサービスを広げ東アフリカへの拡充を目標としています。

2:Birth Beat

公式サイトより

女性ならではの視点から作られたビジネスで興味深かったのは、プレナリーセッションのテーブルで隣同士になったオーストラリアのBirthBeatの創業者Edwina 氏です。Edwinaは助産師として活躍していましたが、自身が妊娠した際に、妊娠時に関わる情報はいろんな思想や方法が混在していて、頼れる情報がわからないといった経験から、妊婦向けの教室を始めました。その後、口コミで噂が広がり、遠方からの問い合わせも増えオンライン化し、今ではオーストラリア国内の病院とも提携しています。

3:Snooze shade

公式サイトより

また、イギリスのSnoozeShadeの創業者Caraともネットワーキングのワークショップで一緒になりました。Caraは自分の子どもが中々ベビーカーで寝てくれなかったので、紫外線だけでなく遮光をできる製品を探したが見つからなかった、またあるレストランでベビーカーにおくるみなどがかけられていたのを見たという経験から、ビジネス機会を見出し自ら製品を作りました。

ー起業家自身の体験に基づいて社会課題の解決へチャレンジされている点は特に興味深いですね。

また、現在は一般公開されていないため、詳細は割愛しますが、こうした直接話を聞いた起業家の中にはM&Aや既存投資家からの買取といった形でExitをしている方もいたり、現在M&Aのオファーを受けておりExit経験済の起業家と話したいということで、私の友人の起業家を紹介しているケースなどもあります。

Exitするような話も出てきているのですね!

田淵さん:
また、CWIコミュニティ内でゼブラ企業やZ&Cに対する認知度も非常に上がっています。2021年度から審査員に配られるCWIの選考時のクライテリア(基準)の中にユニコーン型だけでなく「ゼブラ企業」型も含まれると記載されています。

今回の「資金調達」セッションでは、ゼブラ企業型投資のエキスパートとして私のことを紹介していただいたこともあり、滞在中に多数の方から話しかけていただいたり質問を頂きました。偶然だったのは、アメリカの我々のパートナーでもあるZebras Uniteのヨルダン支部のリーダーがCWIの中東地区の審査員を務めていたことです。CWIの関係者が紹介してくれカクテルパーティー中に彼女と話す機会がありましたが、Zebras Uniteを通じてZ&Cのことを知ってくれていました。

こういった現状を踏まえて、短期的な利益ではなく長期的な社会的・経済的利益を求める「ゼブラ的経営」を目指す(している)女性起業家支援を充実させるため、「CWI×Z&C」で企画してCWIの支援の幅を拡げていく話も出てきています。

ー カルティエが「洗練された高級宝飾品のメーカーである」というイメージを持つ方は多いと思いますが、真摯に「女性の課題解決」にも取り組んでいるのですね。
カルティエの顧客になるような所得も高く社会的影響力も高い方々が、「ジェンダーギャップに立ち向かい、社会に根付く課題の解決を目指す女性起業家が多くいる」という事実を知ってもらうことに価値がある、と考えているからこそ、カルティエは15年間もCWIを運営しているのだと思いました。

 

そして日本・東京へ 

ー今後益々、CWIは注目されていくと思われますが、参加を検討している日本の女性起業家はどうすれば良いのでしょうか?

田淵さん:
2022年4月19日12:00から、日本のカルティエが主催する”Cartier Women’s Conference”が東京都の国際文化会館(ライブ配信あり)で開催されます。

「Join us to Cross All Borders」というキーメッセージを掲げ、これまでの女性起業家を手本として次世代の女性起業家につないでいく目的が本イベントにはあり、大きな4つのカテゴリーごとにセッションが行われる予定です。私は. 「Women in Society & Policy」 (13:15-14:15)に、女性活躍担当大臣の野田聖子さんたちとパネリストとして登壇する予定です。(詳細はこちらから)

本イベントには、Cartier International CEOのCyrille氏もオンラインで参加される予定で、ご参加いただければ、カルティエが行う女性へのエンパワメントなどについて感じていただけるのではないかと思います。

PROFILE

ゼブラ編集部

「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。