2024.04.08 ZEBRAS

オランダ的サステナを再利用可能な小瓶にぎゅっと詰めて。国民的バス&スキンケアブランドブランド「Rituals」


オランダ的サステナを再利用可能な小瓶にぎゅっと詰めて。国民的バス&スキンケアブランドブランド「Rituals」のイメージ

20年足らずで「国民的バス&スキンケアブランドブランド」になったRituals

突然、サステイナビリティとは関係ない話を少々して恐縮ですが、同じ国や土地を何度も訪れる環境にいる人ならば、「今回はお土産何にしようか問題」に覚えがあるのではないでしょうか。

コレは好き嫌いが分かれるし、アレは小分けにしづらいし、結局いつもソレなんだけどなんかちょっと飽きちゃったなあ、と。オランダに住んで10年の私も帰省のたびに「コーヒー、チョコ、キャラメルワッフル」のルーティーンにげんなりしていましたが、数年前からそこに新しい常連が加わりました。

それが現在36か国に1000店舗以上の支店を持つオランダの国民的バス&スキンケアブランド「Rituals」のプロダクトです。

シャワーを浴びたりスキンケアをしたりといった日々の何気ないルーティンを、自分を大切にするための「Rituals(儀式)」のような特別な時間にすることで、人々の日常生活におけるウェルビーイングの向上を目指す、というのがミッションかつ社名の由来です。

2000年創業と歴史は比較的浅いながらも、先述の通り現在1000店舗以上を持ち、オランダ発の化粧品ブランド代表として欧州各国の空港にも出店するなど、国民的バス&スキンケアブランドブランドとしての地位を固めています。

2023年、初のアウトレット店舗オープン時間には既に長蛇の列。外壁は「サクラ」(筆者撮影)

個人的にRitualsがお土産として推せる理由は、まず香りやデザインに「マインドフル」と切っても切れない日本やアジアのモチーフがふんだんに取り入れられていながら、そこにオランダらしいツイストが効いていること。

シグネチャーモデルの「サクラ」シリーズのバス用品や、アムステルダム国立美術館とのコラボで開発されKLMの機内アメニティにも採用された「チューリップ×柚子」のハンドソープなど、日本人にとって親しみを感じる製品も日本国内では手に入りづらいので、新鮮に楽しんでもらえるのです。

しかしもっとも大きな理由は、同社が非常にオランダらしい包括的で地に足の着いたサステイナビリティに熱心に取り組んでおり、小さな瓶ひとつとっても地球と人への配慮がぎゅっと詰まっていることです。

創業者は「バリバリのやり手」

同社のサステイナビリティの話は壮大なので後でゆっくりするとして、ざっくり同社のプロフィールをご紹介します。

スピリチュアルなブランドイメージから自然派の女性創業者をイメージされがちですが、実は同社の創業者Raymond Cloosterman氏はあのユニリーバで副社長を務めたこともあるバリバリの「やり手ビジネスマン」。

1964年生まれの同氏は、文武両道の優秀な学生としてロッテルダムのエラスムス大学でビジネス経済学を学んでいる間に「青田買い」され、卒業後の1988年からユニリーバに勤めます。10年ほど輝かしいキャリアを築いた末に新規事業担当上級副社長に就任し、ホームケアとパーソナルケアの分野でビジネスアイディアを探すための数か月にわたる世界旅行を会社からオファーされました。

様々な国を旅した同氏が最も感銘を受けたのが、日本や中国といった極東の国における「儀式(rituals)」の美しさでした。お風呂の準備をして入浴する、お茶を入れて飲むといった日常の何気ない習慣の中にも、東アジアの国には古代から続く形式化された「儀式」があり、同氏はそれに衝撃を受けたと言います。

同時に世界中の消費者の購買行動を調査した彼はまた、「消費者が求めているのは技術革新ではなく、ストーリーである」という結論に達します。

そこで彼が得た『夢』が、「本格的な古代東洋の伝統とストーリーを纏った、ヨーロッパ品質の贅沢なバス&スキンケアブランドを、誰もが買える価格で提供することで、消費者の日常にお楽しみの時間をもたらすこと」。

旅を終え、本社でこのビジネスアイディアをプレゼンした同氏はその場では拍手喝さいを浴びますが、結局この案は採用されませんでした。手短に言って手間とお金がかかりすぎ、リスクが大きすぎるため、同社のプロジェクトとしては現実的でないと見なされたのです。

オランダで「ミスター・パーフェクト」の異名を持つCloosterman氏(公式サイトより)

結局、2000年に独立して「Rituals」を立ち上げますが、最初の数年は「会社がクリスマスまでもつかどうかと不安な日々」が続いたと言います。2000年当時、「マインドフルネス」「日常のささいなことを意識して楽しむ」といった概念はあまり知られておらず、消費者の理解が追い付きませんでした。

「どんなにいい製品を作っても、口コミが広がるには時間がかかる」「最初の10年は辛かった」「業界の中で、『みにくいアヒルの子』のような気持ちだった」と同氏は振り返ります。

そんな同社の転機は3つ。第一に、「古巣」のユニリーバが2年だけ投資してくれることが決まったこと。次に、「昼も夜も働いているのに、ビジネスに全く進展がない」ことに気づき、「製品の品質を一新せねばならず、かつ購入者に特別な体験をしてもらうために、委託販売ではなく自社の店舗が必要であること=ほぼゼロからやり直し」を決定したこと。最後に、コンセプトに親和性の高かったスウェーデンとドイツで人気を博したことでした。

「高品質の製品を低価格で」にこだわったため、その利益率の低さが会社の負担になっていましたが、ある程度事業規模が大きくなりそれが可能になると、本当にうれしかったとCloosterman氏は語っています。

その後の同社は2005年に初の海外店舗開店、2021年に売り上げ10億ユーロ(約1560億円)達成、2022年にB-corp認定と躍進を続けています。

包括的で着実、実験を重ねて進化し続ける同社のサステイナビリティ 

さてそんな同社ですが、ブランドが成長する過程には常に「サステイナブル」のイメージを纏っていました。野心的で有能な創業者は彼がいかに「贅沢な化粧品とサステイナブルの両立」という当時珍しかった(B-corp認定を受けている大手化粧品会社の少なさを見るに、それは今でも珍しいのでしょう)野望を到達することに夢中だったかをあちこちで語っています。

しかしそれだけではなく、同氏は起業当時から「業界で消費者の幸福をリードする会社になりたければ、ビジネスの運営も含めバリューチェーン全てのウェルビーイングに総合的にアプローチしなければならない」という信念があったと言います。

そのマイルストーンとしてB-corp認定を目指しましたが、その過程で同氏は、Ritualsの愛用者が同社のサステイナビリティを高く評価していることを知り、消費者は商品を利用することによる贅沢や幸福と同時に、企業の環境への配慮にも注目していることに気づきました。

「その期待を上回る結果を出そうとすることが、私たちがサステイナビリティに取り組む大きな原動力になりました。長期的に期待に応えられないとそれは危険だからです」

チューリップと柚子の「アムステルダム・コレクション」(筆者撮影)

同社の取り組むサステイナビリティは包括的で現実的です。

オランダで信頼を得ているサステイナビリティ理論「SiD」は、サステイナビリティを実現するには「資源・エネルギー」「自然環境」「社会(経済・文化)」「個人(健康・幸福)」の4つの領域でよい状態が持続できることが必要としていますが、同社はそのすべての領域にアプローチしています。

1. 資源・エネルギー:国内全てのオフィス・店舗・輸送業者でグリーンエネルギーを利用。梱包に関しては「ラグジュアリー」とのバランスを取りながら、パッケージングのLCA(ライフサイクルアセスメント)の専門機関と提携して常に模索中。2025年までにパッケージの廃棄物ゼロ、消費者の手元に届くまでのCO2排出ゼロ、2050年までにいわゆる「ネットゼロ」を目指しています。

天然由来・生分解性・生態毒性・二酸化炭素排出量などに関して原材料を評価するアセスメントツールを導入し、責任ある原料調達に取り組む一方、「100%天然由来」は安定性や保存性に問題が出るので目指さない(目標は90%)ことや、近年問題視されているパーム油は肌への効果が高く、他の油よりも環境負荷が低いのでRSPO認証を受けたものを利用していることを明言するなど、「今できる範囲で最良の選択をしているが、常に模索中」であることを透明に公開している点も現実的で信頼がおけます。

マイクロプラスチックやその他環境に毒性のある原料は使用していない他、「リサイクルよりもリユーズ」と、オランダのバス&スキンケアブランド(特にラグジュアリー路線)では非常に珍しい「詰め替え用」をほぼ全てのバス・スキンケア製品で導入しています。また、輸送による環境負荷を最小限に抑えるため、製品の90%を欧州で生産しています。

2. 自然環境:先述の通り生態毒性のある原材料は使用しない他、詰め替え用が一点売れるごとに一本の木を植樹。動物実験にも反対しています。

3. 社会:インドの貧困地域で女性の就業支援などを行うThe Tiny Miracles Foundationとの提携、透明で責任ある綿花やパーム油の調達などにより、社会にもポジティブなインパクトを。

4. 個人:先述の通りユーザーの満足度のためにはバリューチェーン全体のウェルビーイングに包括的に取り組む必要があるという前提のもと、ショップ・オフィス問わず従業員には定期的な満足度調査、ボランティアデー、ウェルネスプログラム、キャリアアップコースなどを提供。各人材派遣会社のレビューでもスタッフから高評価を得ています。

ルームフレグランスなども充実(筆者撮影)

本当の「持続可能性」は?Cloosterman 氏にとって「ビジネスよりも大切なこと」

さてそんな同社、先ほどもお話したCEOのCloosterman氏はプライベートではオランダ2番手のスーパーマーケットチェーンCEOと結婚し4人の子どもがいます。

「夜中の12時に思い立って妻と25kmジョギングした」などという逸話もあるスーパーマンですが、サステイナビリティ=持続可能性に関してちょっと考えさせられるようなコメントもしているので最後にご紹介します。

「色々やっていればうまくいかないこともあります。でもそれも今や想定内なので、例えば新店舗の開店が1カ月遅れたりしてもショックは受けません。それから平凡に聞こえるかもしれませんが本当なので言います。自分の健康、家族や友人と大切なものを共有すること、週末のお出かけ。これらはビジネスの成功よりも重要なものです」

そしてこの稿を書き上げたちょうど今、会員限定で春の新作のニュースが入りました。新ラインはソメイヨシノと黒米のエキスをフィーチャーした「Yozakura(夜桜)」シリーズ。春ですね。


(Rituals公式サイトより)

文:ウルセム幸子

編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。