2025.04.22 ZEBRAS
地域から未来を照らす、ローカル・ゼブラたちの挑戦 〜「令和6年度 地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証事業)」成果報告会ダイジェストレポート〜

「地域の課題を解決しながら、稼げるビジネスは成り立つのか?」
人口減少や気候変動など、地域が抱える課題はより複雑になっていますが、地域に根ざし、社会課題の解決と経済性の両立をめざす「ローカル・ゼブラ」と呼ばれる企業が、少しずつ現れ始めています。
地域の課題や人の営みに寄り添いながら、じっくりと持続可能な価値を育てていこうとする企業を、をどう地域で支え、活動をどう広げていくことができるのか。
そんな問いに向き合ったのが、令和7年2月18日に中小企業庁が実施した「令和6年度地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証事業)」の成果報告会でした。
この記事では、報告会で話された内容のダイジェストをお届けします。
4つのセッションから見えてきた、地域の実践から立ち上がる風景
「令和6年度地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証事業)」では、地域課題の構造分析や社会的インパクトの可視化等に取り組むことで、地域課題解決事業に取り組む先行事例を創出するため、2024年には20の実証事業が実施されました。
この事業にはZ&Cの田淵さんが検討段階から有識者として参画し、事業が始まってからはアドバイザーとして採択者に関わり、複数地域のメンタリングをおこなってきました。
報告会の冒頭では、中小企業庁商業課の伊奈友子さんが、「ローカル・ゼブラという考え方を通じて、地域の中で人・もの・お金が循環し、域外ともつながっていく未来を目指したい」と語りました。
また、金融庁サステナブルファイナンス推進室の髙岡文訓さんからも、インパクトファイナンスの重要性について、「地域のインパクト創出に向けた連携が今後ますます重要になる」とのメッセージが寄せられました。
ここからは、4つのセッションに分けて活発な議論が行われた報告会について、その内容をレポートします。
トークセッション1:ものを創る ——自然と共にある産業のかたち
トークセッション1では、「地域で“もの”をつくるとはどういうことか?」をテーマに、農業、水産業、工芸、文化といった一次産業や地域資源に根ざした事業に取り組む5名が登壇。自然や文化との共生を前提に、どうすれば経済性と社会的意義を両立できるかが議論されました。
山内さん「北海道十勝地方の浦幌町でリジェネラティブ農業に取り組んでいます。土を育てることにより、収益を上げながら気候変動対策にもなる農業のやり方を十勝の大規模農業に普及させるチャレンジです。北海道は原料作物を供給する役割を担っていますので、品質がいいものを安定供給するのが大前提です。そのうえで、リジェネラティブ農業に移行ができると、肥料を使う量も減り省力化も進んで経費が下がり、安い値段でいいものを安定供給できるんです。」
名里さん「福井県高浜町で、海の6次産業化と関係人口創出に取り組んでいます。水産加工では、どれだけ鮮度を保って美味しく届けるかをテーマに掲げていますが、魚は産地で食べるのがいちばん美味しいと思っています。ですので、自分たちの商品を売り込むよりも、高浜町の地の物を食べてもらえる場を増やすことを第一に考え、数多くの宿と話をして、地の魚を使った料理を出してもらい、その魅力を発信することで関係人口を増やす取り組みをしてきました。」
岩本さん「私は静岡で、お茶産業の活性化のため仕組みづくりや、お茶の需要を増やす取り組みをしています。その一つとして、例えば新茶時期に来ていただいて、自分で茶摘みしたお茶を飲んでもらい、地域に関与する関係人口を増やそうとしています。
お茶で有名なエピソードで、落とし穴に落として、風呂に入らせてからお茶を出したお茶会というのがあるんですが、これはただ普通に飲むお茶とわざわざ風呂に入らせて気持ちよくなってから飲むお茶とでは全く価値が変わってくるという話です。このように、文脈や『体験』の背景を変えることで価値を出せたらいいなと思っています。」
風間さん「私たちは京都市でビジネス支援や伴走を行っています。今回のゼブラ事業では、関係人口を育む取り組みとして、農業から工芸まですべてをつなげる和食文化から、自然資本や文化資本を減らさない経営のあり方を学ぶラーニングジャーニーを実施しました。コロナによって観光で成り立ってきた京都に危機感が生まれ、地域企業が町の経営を自分たちで考えようと自主的に議論が始まったんです。中長期的な町の財政を考えたとき、例えば職人さんを育てるのに5年、10年とかかるように、自然や文化はすぐには結果が出ません。
そこで、視点や文脈を変える必要があると考えました。例えば、漆の器を塗る体験をした後に漆の器でご飯をいただく経験をしてもらうと、普段払っているお金は、ご飯だけでなく器にも払われているし、漆塗り職人を育てることを考えると等価交換になっていないかもしれないという気付きにつながります。文化を消費するだけではなく次世代へ継承していくために、企業単位ではなく事業単位で応援する仕組みができないかと考えています。」
米村さん「私は宮古島で森とともに行う農業『森林再生型アグロフォレストリー』に取り組んでいます。宮古島は農地化によって森林率が著しく低下して、生態系の破壊や水質汚染が起きています。その解決のために、コーヒーなどの栽培を通じて、地域を巻き込む仕組みづくりを進めています。
商品に付加価値をつけることが大事ですし、地元の人たちが参入してくれなければ実現できません。地元でアンケートを取ったところ、宮古島の人たちは、島づくりや地域に貢献できることにモチベーションが高いことがわかったので、地元の酒造に声をかけて、栽培したコーヒーを発酵させて価値を高める取り組みを始めました。商品を買うことが森づくり、島づくりにつながるという付加価値をつけることで、観光客の島に寄与したいという思いに訴求できるかなと考えています。」
セッション1で出てきたキーワードは、「体験」や「長い時間軸」。価値を“伝える”だけでなく、“ともに感じる”設計が重要だという認識が共有されました。
トークセッション2:人を呼ぶ/場を創る ——地域の魅力の伝え方
トークセッション2では、「人を地域に呼び込み、関係性を育てるには?」をテーマに、移住支援や旅、地域ツーリズムなど、人の動きに注目して事業を展開する5名が登壇。受け入れる側の地域の意思や構えをどうつくるか、深い議論が展開されました。
曽さん「私たちは京都市の京北地域でリジェネラティブツーリズム、旅を通じた地域デザインを行っています。世界に日本の里山の知恵を伝え、里山の循環型社会のあり方を現代にアップデートした地域デザインを生み出すため、海外の学生や大きな企業の研修を受け入れてきました。活動を通して感じているのは、海外の方たちに、アニミズムやスピリチュアリティとも重なる里山の循環型の暮らしや生き方を学びたいニーズがあることです。フランス、デンマーク、香港などでは地方創生のサステナブルモデルをお互いに参照し合いたいという方たちが増えていることもあり、X-WISDOM JAPANというプラットフォームをつくりました。」
松葉さん「私は石見銀山周辺で、空き家を整備して最初は宿として投資を回収し、その後、賃貸住宅にするモデルを展開しています。これによって移住のボトルネックとなっている住宅不足を解消し、楽しい地域づくりと新しい社会のつながりを生みだす計画です。石見銀山には世界遺産になったタイミングで多くの人が来ましたが、オーバーツーリズムによって暮らしが壊れかけ、地域デザインの必要性が明らかになりました。私たちは、外から来た人に褒めてもらうことで、自分たちの魅力を把握し、地域の残すべき価値や、世界に伝えたい生活文化に気づく事ができます。そういう気づきを与えてくれる人と深い関係性を結ぶことが、地域デザインにとって重要だと思っています。」
石田さん「野沢温泉村で、移住者の住宅不足を解決するための取り組みを行っています。一つは空き家のマッチング、もう一つは村の助成により民間が提供する住宅を安価にする施策です。それらを実行することで移住者やUターン希望者を増やすことを目指しています。野沢温泉村にはたくさんの人が来てくれますが、キャパシティの問題で移住につながらないことも多いため、地域側が意思を持って次につなげていくことが重要だと思っています。
そこで大切になるのは、関わりしろをどうつくるかだと考えています。関わり方には、知恵を出す、お金を出す、時間を出す、ネットワークを出すなどいろいろありますが、事例をつくり、関わり方を提示するのが重要です。細かくデザインしなくても、事例がロールモデルとなって関わってくれる人が増えていくんじゃないかと思っています。」
関わりしろをどのようにつくるか、また、地域のキャパシティを考えることも大切になりそうです。
青山さん「必要以上の人が来ると、住居はもちろん、雇用面でも地域で抱えきれなくなってしまうので、そのバランス感覚も必要だと思います。
海士町では大人の島留学という取り組みを行っていて、20代の若者が年に100人ほど滞在しています。希望者はその何倍もいますが、抱えきれないのでお断りしている状況なんです。この取り組みを横展開して、地域貢献したい若者が全国で活躍できるようなプラットフォームをつくれたら人手不足の解消につながるはずと考え、取り組みを始めました。」
地域を超えたプラットフォームづくりは曽さんとも共通する発想です。プラットフォームをつくることで地域のキャパシティを超えた人々を他地域で受け入れることもできます。
山下さん「みなさんと少し違う角度で、なぜ人を呼び込まなければならないのかから考えています。私は、鹿児島の22市町村28島で、縦割りの行政を飛び越えた新しい自治について民間で考える取り組みをしています。小さな島でチャレンジする人を支える鹿児島アイランドファンドを立ち上げ、お金を出すだけでなく伴走支援を行うことで、島の人が互いに支え合う島互扶助を実現していきたいと思っています。
鹿児島の島は沖縄同様、外から来た人に支配され、暮らしが何度も変わってきた歴史があります。そのため、人を選びたいという意識が強く、たくさんの人に来て欲しいけれども、誰でもいいというわけではないという考え方の人が多くいます。
人口減少社会の今、ビジネスを成り立たせるためには、交流人口を拡大して経済をうまく循環させることで、生まれたり帰ってくる人が減ることを否定しようという議論になると思います。でも、人が少なくても経済が成り立つ社会のシステムをつくっていくほうが、100年先の未来への近道なんじゃないかと思うんです。そのためには、外とつながることよりも、内側からつながり方を考えるほうが重要で、私たちはそこを議論しています。」
セッションの冒頭から、「人を呼び込むことが目的化していないか?」という視点が共有され、登壇者たちは「地域側の意思」と「持続可能な関係性の設計」の重要性を強調しました。
会場全体に、「人の動きをつくるとは何か」「関わりしろをどう設計するか」という問いが残るセッションとなりました。
トークセッション3:人と企業を育てる/暮らしを支える ——地域の土台をどうつくるか
トークセッション3では、「地域で暮らす・働く・育つ」ことを支えるために必要な仕組みについて、雇用・人材育成・福祉・教育の視点から実践する5名が登壇。
どのように関係者を巻き込み、事業として展開してくのか、ローカル・ゼブラのエコシステムが形成されるステップの、どこがポイントなのかを話しました。そして、個人と地域、企業と社会の関係性をいかに育てていくかについて話が発展していきました。
――ローカル・ゼブラのエコシステムは、地域全体が漠然とした危機感を抱いている状態(1)から、解決策を見つけた人や組織を中心に(2)、関係者を巻き込みながら(3)地域が目指す大きな方向性、ビジョンについて合意形成が図られ(4)、関係者が役割を見つけ(5)、ビジネスによる解決に向けた行動をとる(6)という過程で形成されています。この6つのステージの中で一番のポイントはどこでしょうか。
竹川さん「一番のポイントは、巻き込むところだと思っています。地域の中小企業のデジタル人材育成が地域を元気にしているのかを仙台で調査し、20年分のデータを集めて定量分析を行った結果、実際に因果関係が証明され、これだけ増やしたら、税収もこれだけ増えるという数値を可視化できました。一方で、IT人材が増えることと営業利益率の因果関係は証明できなかったので、いかに地域を巻き込むかが重要だということもわかりました。特に、最初に巻き込まれる人たちを自分の周りでみつけた後、そこに巻き込まれる人たちをどうつくっていくかが問われるのではないでしょうか。」
濱野さん「私たちも仙台でジェンダーギャップをテーマに、ITのリスキリングなどを通じて、女性が好きなところで働ける状況をつくるとともに、保育士の派遣を通じて、子どもを地域でみんなで育てていく仕組みづくりをしています。重要なのは、立てた地域ビジョンの実現のために、地域内のプレイヤーがそれをどう役割分担するかだと思っています。」
森山さん「能登の人事部として、人が育ち事業が育つ好循環をつくるために、人材育成の仕組みづくりなどに加え、実証ラボとして地域の経営者たちと人をどう育てるかをテーマに勉強会を繰り返してきました。事業者同士で、自社の課題をつまびらかにしてお互いに相談をすることで、それぞれが課題の解決に励み、私たちが中間支援としてサポートする仕組みです。重要だと思うのは、外からの力をいかに自分たちのプロジェクトに巻き込んでいくかです。
実際に今、どんどん若者が入ってきています。それは、整っていない、何があるかわからないことに何かワクワクするという人たちで、すべてが可視化されている都市部はつまらないと思って集まってきている。巻き込むときの軸は、この可視化されていない部分に兆しがあると感じています。」
宮野さん「私たちも巻き込みが課題と考えています。熊本県で流域治水に取り組んでいます。大雨が降った際に、ダムだけでなく、流域の山、農地、住宅、道路にグリーンインフラを整備して地下に水を浸透させ、川に水をゆっくり流す仕組みです。熊本県の白川流域は半導体関連産業の集積地になっていてウォーターネガティブの懸念があがっているので、流域治水によってウォーターポジティブに変えていくことも目指しています。それを実践するためには地域の多くのプレイヤーを巻き込む必要があります。」
岡本さん「重要なのはコミュニティだと思っています。名古屋の中心部から近い部屋を安い価格で提供し、収益性も確保することで、シングルマザーの母子の尊厳を取り戻す取り組みに取り組んでいます。住まいだけでは解決できない問題に対応するためNPOを設立し、母子の生活に伴走する体制も整えました。シングルマザーの可能性を見出し、包摂していく事業を通じて、誰もが可能性を信じて生きられる社会を目指しています。
このNPOの活動の中で、いかに支援のコミュニティをつくっていくかの重要性に気づきました。株式会社として投資家のコミュニティをつくっているので、それを地域支援のコミュニティとつなげることで地域のビジョンを共有できたらと思っています。」
――竹川さんは、デジタル人材の必要性だけでなく、インパクトの因果関係まで明らかにしたということですが、ローカル・ゼブラにおいて、インパクト・マネジメントは大きなテーマの一つです。分析でどのようなことがわかりましたか。
竹川さん「もともとの課題は、若手人材が東北大学を卒業したらみんな東京に行ってしまう「源泉かけ流し」という現象を避けることでした。そのためには、魅力ある中小企業が増えて、そこで雇用が生まれなくてはいけない。どうしたらそこにつながるか、実際にデータ使って分析しました。わかったことは、例えばハイレベルなAIエンジニアの資格の取得者を増やすと、ITの基礎的な資格を取る人も増えるということ。これは、優秀なエンジニアが増えるとそれを使う側もレベルも上げなければならないからです。ITのリスキリングは、基礎的な資格の取得者を増やして底上げする発想になりがちですが、逆のほうが効果的だとわかったんです。」
宮野さん「インパクト・マネジメントについて、自分たちがひと手間かけて社会課題解決に取り組んでいる、そのエビデンスが必要だと思っています。熊本県立大学やアカデミアと連携し、それを可視化するを支援してもらう仕組みづくりを今してるところです。」
岡本さん「インパクトって、探求し続けるプロセスそのものが大事なんじゃないかと思います。投資家に現場に来てもらったときに、スタッフが生き生きとしているのを見て感動したと言ってくれることがあって。インパクトを外向きに考えるのではなく、内部が生き生きしている状態が結果としてインパクトを生むと考えるようになりました。」
セッション4:コミュニティを創る ——つながりが生む、新たな価値
トークセッション4では、コミュニティの育成や企業間の連携に取り組む6人の方々が登壇。コミュニティにおけるゼブラとは何か、コミュニティが単なる人の集まりではなく、価値を生み出し、経済や文化の土台となっていく可能性が語られました。

野崎さん「鹿児島で薩摩会議やカンファレンスをやってきましたが、今回インパクトに置いたのは人です。若者の県外流出を課題とすると、地域のステークホルダーが絡み合ってその課題が生まれているので、事業、金融から教育まで俯瞰することでインパクトを起こす方法を見出してきました。
コミュニティとは、人の集いですね。今回の半年間の実証の中で、僕らは地域の土壌を耕してきました。その土壌の成分は関係性です。年に1回、地域の経営者を集めた合宿をやっていて、寝食をともにして鹿児島の課題や日本の未来を探求するんですが、そこで生まれた腹を割って話せる関係性が、僕らの土壌、コミュニティの土台になっています。」
藤岡さん「三豊では、欲しい日常を先に考えてプロジェクトを立て、そのあと事業性があるかを考える取り組みによって、ここ数年で約100の事業ができています。それは量のコミュニケーションによって三豊にコミュニティという土壌が育ったことで、そこから芽が出たと考えていて、だから私たちは三豊というエリア自体がローカル・ゼブラだと思っています。
境界線がないのもコミュニティの条件の一つだと思います。会費を払ったらコミュニティに入れるということではない。また、ヒエラルキーがないのも重要な要素の一つかと思います。」
佐藤さん「僕にとって人とお金を集めてくる企業や団体がゼブラです。僕らがやりたいのは、スポーツの人の巻き込む力を活用しながら、地域の人々に社会課題解決の当事者になってもらうことです。サポーターの人たちも肩書き、年齢、性別など異なりますが、共通意識のあるところでコミュニティができています。スポーツがそれを醸成しやすいのは間違いないです。」
――何かの共通項があり、ヒエラルキーがなく、フラットに意見が言える土壌が必要であると。そのコミュニティがゼブラ化するには、何が必要なのでしょうか。
岡村さん「私たちにとっては、地域に普通にある企業の中から、素晴らしいところを発掘していくことがローカル・ゼブラとしての活動です。当事者が気づいてないような価値を見出していくことに重きを置いています。
多様な人が混ざらないとインパクトは起こせないと思います。シマウマはバラバラな縞模様があって、それが群れることによって肉食獣の攻撃から身を守る。ゼブラもばらばらな人が集まる形にしないと成立しません。」
佐藤さん「今回わかったのが、例えば女性の活躍や貧困のような社会課題をスコープするにしても、その課題と関係のない人も巻き込むことで、さらに活動が大きくなっていくということでした。スポーツクラブはすごく横串で、教育現場も、高齢者も、自治体も、経済界も巻き込むことができます。さまざまなコミュニティが一体化したものが地域であると考えると、僕らは横串であることを活かして地域づくりができるはずです。」
藤岡さん「私たちは、自分たちがやりたかったり町に欲しいと思うものをどう事業化できるか考えることから始めています。歴史や伝統が地盤としてあって、土壌が乗って、そこを5年とか、中長期の時間を費やして耕すと、土の中の微生物が育ってきて、何かの種が飛んできたらすぐ芽が出る環境ができます。三豊ではこの数年でたくさんのプロジェクトが実を結んでいますが、持続できなかったものが枯れて土壌の肥やしになることを繰り返して、今の土壌ができ上がったんです。土壌をもっと肥やしていくことが地域での僕らの役割だと思っています。」
――インパクトを測るとき、プロジェクトの数に着目しがちですが、本当に重要なのはそれを生む土壌の豊かさということですね。コミュニティという土壌がふかふかになるまで5年ぐらいかかる中で、コミュニティには予算がつけにくいという話もあると思います。コミュニティが重要だと言いながら、大企業はなかなかコミュニティにお金を出さない。なぜなら数字で評価できないからですが、コミュニティのファイナンス的な価値について、どう思いますか。
脇さん「私たちは社会課題を解決する事業者を認証していて、3年間見てきましたが、ほとんどの企業の中にゼブラの要素があると感じました。なので、ほとんどの企業に内在するものがゼブラだと思っています。
コーポレートファイナンスをつけていくとき、財務データも重要なんですが、もう一つ重要なのが情報です。その情報を得るのに、コミュニティは糸口になる気がします。ファイナンスをつける側が、コミュニティを使って情報を得れば、そのコミュニティの価値がファイナンスに反映されるのかなと。」
比屋根さん「沖縄を良くしていくために株式会社沖縄県をつくろうと活動しています。我々にとってゼブラは株式会社沖縄県そのものです。
2年前にインパクト投資ファンドを沖縄で立ち上げて、県内の企業に長い時間軸で一緒に土壌を耕しましょうというアプローチで出資してもらっています。今後は、県民ファンドをつくって県民一人ひとりが例えば100円ずつ毎月寄付したものを投資していく、そんなプロジェクトをやりたいと思っています。県民一人ひとりが土壌を育みながら自分自身も頑張ろうと思えるようなつながりづくりに意識的に取り組んでいるところです。」
佐藤さん「スポーツには人をつなげる力があると思いますが、経済界の人たちにそのつなげる力も売っていった方がいいというアドバイスもらったことで、少し突破口が見えた感じがしています。例えば、大企業向けにPoCの実証実験を請け負い始めています。ローカルで製品やサービスを実証実験する場合、根回しや地ならしにかなり時間がかかるのですが、僕らは普通なら1年かかる作業を2週間くらいでできたりするので、それを業務委託で受けています。それがコミュニティの価値を貨幣に換算する糸口になるかもしれません。」
最後に、地域のコミュニティの核になるキーワードとして、佐藤さんからは「歓迎ムードの醸成」、岡村さんからは「DAO的な要素を入れて仕掛けること」、野崎さんからは「総力戦と集合知」などの言葉が寄せられました。
4つのセッション後には、実証事業を支えた有識者たちがそれぞれの視点からまとめを行いました。
伴走支援者として参加したREADYFOR株式会社の樋浦直樹さんは、ローカル・ゼブラは、「課題を解決するという意味においてマイナスを0にするもののように見えて、実は知用の豊かさを提示することで、プラスをつくっていくもの」であり、「社会性をブランドにして経済性に変えていけるところが面白いところ」だと感じたと語りました。
Z&C田淵さんは、「ゼブラはすでにみなさんの実践の中にある。このムーブメントは、皆さん自身のものになっている」と言い、今後は“意思のあるお金”を地域から生み出していく必要があると示唆しました。
社会変革推進財団の工藤七子さんは、「地域を俯瞰する力は、行政だけでなく、民間にも求められている。その役割をゼブラ企業が担う時代になった」と話しました。
最後に、中小企業庁商業課の伊奈友子さんが「ローカル・ゼブラとは何であるかはまだ発展途上の概念だが、今回生まれたローカル・ゼブラのコミュニティを広げていきながら、大きな流れにしていくように取り組んでいきたい」と締めくくり大盛況の中、報告会が終了しました。
今回の報告会は、全国でそれぞれ活動してきたローカル・ゼブラ企業やその関係者が一同に介し、採択企業だけではない新たなコミュニティが創られる契機となったように思います。“インパクト”とは、単なる外向きの評価指標ではなく、現場で生まれる関係性や気づき、実感から生まれ、その後に指標化されるものです。ローカル・ゼブラたちの実践は、そうした指標化される前の新しい“豊かさ”の輪郭を浮かび上がらせてくれました。
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最後に蛇足ですがオリジナルTシャツを作るという遊びもしました。
せっかく素敵な企業/地域が集まってくれたのでZ&Cが自主的にオリジナルTシャツのデザインを企画して関係者間に共有し、各自で発注して着てもらいました。
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関連リンク
中小企業庁「地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業」概要ページ:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki_kigyou_kyousei/2024/ecosystem_overview.html

PROFILE
ゼブラ編集部
「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。