2025.12.18 ZEBRAS

長く続けることに価値を見出す。新アドバイザー・佐々木さんが共鳴するゼブラの思想と、地域共創のビジョン


長く続けることに価値を見出す。新アドバイザー・佐々木さんが共鳴するゼブラの思想と、地域共創のビジョンのイメージ

「実は、一番興味があるのは“自然”なんです。」

そう語るのは、2025年10月に株式会社Zebras and Company(以下、Z&C)のアドバイザーに就任した佐々木久美子さん。量子コンピュータやAIを用いた企業と地域の支援、子どもが先端技術に触れられる教育事業の立ち上げなど、テクノロジーと地域共創の最前線を走ってきた方です。

そんな佐々木さんは、長年経営に携わるなかで、スタートアップに求められるスピード感と、自分自身が大切にしたい価値観との間で葛藤を抱えてきました。その思いが、Z&Cの「地域共創テクノロジースペシャリスト」への就任につながっていきます。

佐々木さんが感じてきた違和感とは。そして、「ゼブラ」というコンセプトのどこに共鳴したのか。ご自身の人生の歩みや、株式会社グルーヴノーツを創業するに至った軌跡を振り返りながら、これから地域や自然とどう向き合い、どんな未来を描いていきたいのかを伺いました。

遊びの延長でのめり込んだプログラミング

——アドバイザー就任おめでとうございます。今回は、ささくみさん(佐々木さんの通称)のこれまでと、今後の意気込みをお伺いします。まず、キャリアについて、プログラミングに関わるようになった原体験から教えてください。

プログラミングに興味を持ったのは、小学5年生の頃です。当時は『ゲームブック』というゲームに夢中でした。プレイヤーの選択でストーリーが変わる仕組みが斬新で、手元で計算する必要がありましたが、ヒットポイント(HP)などの概念もありました。

そうしたなか、さらに衝撃を受けたのが、ファミリーコンピューターの『ドラゴンクエスト』。ダンジョンを進むと敵が現れ、攻撃されてHPが減る——この流れがすべて自動で処理されていたんです。アナログからデジタルへの変化を目の当たりにし、「画面の中で何が起きてるんだろう」と心惹かれました。

——ゲームをきっかけに、仕組みの裏側に興味を持ったんですね。

そうなんです。ちょうどその頃、父の会社にコンピューターが導入されました。社内のエンジニアがデモを見せてくれたり、『マイコンBASICマガジン』という雑誌を貸してくれたりして。それからは、巻末に載っていたゲームのソースコードを手打ちすることに夢中になりました。

知識は全くなかったので、雑誌の通りに記号を入力するだけ。でも、数百行あるコードは、どこかで必ず間違えて、うまく動かない。何度もやり直して、やっとゲームが動いたときの達成感は鮮明に覚えています。今思えば、エンジニアでいうところの“写経”をしていたんです。ゲームをすると怒る父が、プログラミングは褒めてくれたのもあり、とにかく夢中になっていました。

——そこから就職するまで、ずっとプログラミングにはまっていたんですか?

はい。中学生の頃は雑誌で知識を学び、高校では情報処理系の学校へ。大学も情報系でしたが、当時はすでに先生より知識があったので、授業がつまらなくなって辞めてしまいました(笑)。

ちょうどインターネットが登場した頃だったので、独学で掲示板をつくったり、Web系のプログラミングにのめり込みました。その経験が評価され、大手IT企業の子会社に就職。Webや通信分野でプログラマーとして働き始めました。

「誰も損をさせず、小さくとも完結させる」地域と向き合うスタンス

——ささくみさんといえば、2011年創業のグルーヴノーツが有名です。プログラマーとしてキャリアをスタートされた後、どのように起業という選択に至ったのでしょうか?

最初はいちプログラマーとして、システムの一部をつくる仕事をしていました。でも、次第に仕様書通りに動くだけの作業にモヤモヤしてきて。クライアントの全体的な状況や、ニーズをきちんと知れる仕事をしたいと思うようになりました。

そこで、上流の設計を担うシステムエンジニアへと職種を変更。お客様の要望を聞き、納期やリソースを踏まえ「何をする/しないか」を決めていく役割です。この経験を通じて、コードを書くより全体を見てマネジメントする方が自分に向いていると感じました。

さらに、お客様の課題に対し「こうすれば良くなるかも」と考える瞬間が楽しくて。未来志向の自分にぴったりだったんです。「得意」と「好き」が重なり、自然とプロダクトの立ち上げやマネジメントに関わるようになり、その流れで起業しました。

——今回、「地域共創テクノロジースペシャリスト」に就任されましたが、起業されてからどのように地域やテクノロジーと関わってきたのか教えてください。

グルーヴノーツでは、量子コンピュータや機械学習、ビッグデータなどの技術を、企業が簡単に活用できるプラットフォームを提供していました。物流や生産の最適化という企業課題の解決だけでなく、地域の人々の行動を分析し、より良い暮らしや事業活動を実現するための支援も実施。

また、子育てと起業を両立していた経験から、子どもがテクノロジーを学べるアフタースクール「TECH PARK」も運営していました。

地域の仕事を通じて感じていたのは、大企業や都市部のプレイヤーが地域に入ってきても、取り組みが中途半端に終わることも多いということです。原因の多くは費用面にあります。特にスマートシティやソサエティ5.0構想に向けた取り組みのように、テクノロジーの力が必要なものの場合は膨大な資金がかかる。結果、途中で資金が尽きて撤退してしまう事例も少なくありません。

だからこそ、地域に関わるときは、足元で人材育成のサービスと組み合わせて費用を捻出したり、地域の人にも持続的に関わってもらえるような仕組みづくりを工夫してきました。こちらの理想を押しつけるのではなく、地域を俯瞰してビジョンを共有し、納得してもらうこと。私たちも地域も、関係者すべてが損をしない構造をつくること。そして、両者の緩衝材になるような人をアサインしつつ、小さくてもかならず完結させること。そうした姿勢を大切にしてきました。

スタートアップの世界と、自身の価値観のはざまで

——企業と地域を広く支援してきたささくみさんですが、2025年7月にはグルーヴノーツ取締役会長を退任されました。

はい。今年、15年間経営してきた会社を、優秀なメンバーたちに任せる決断をしました。理由を一言で説明するのは難しいのですが、ひとつ挙げるなら、「自分のしていることと、本当にやりたいこと」の間にズレを感じていたからです。

私はこれまで、「広く、長く使われるものをつくりたい」という思いでプロダクトに取り組んできました。会社や事業も同じで、速い成長より、時間をかけて多くの人に愛されることを大事にしてきたんです。そういう意味では、いわゆるスタートアップ的な志向とは反対の感覚を持っていたと思います。

メンバーや投資家の方々が、私の考えに理解を示してくれたのは前提ですが、それでも現実にはいろいろな力学が働きます。そのなかで、事業をゆっくり育てていくのは難しそうだと感じるようになりました。頭では理解できても、気持ちの面で違和感が大きくなっていったんです。

特に教育事業であるTECH PARKについては、急成長させるべきではないと強く思っていました。もちろん、赤字を出さないように経営しますが、子どもたちの命を預かる仕事です。保育の質を保てないまま広げることは、絶対にすべきではないと考えていました。

——一般的な経営セオリーと、ご自身の気持ちとの間に葛藤があった。

はい。そんな中、病気を患いました。病床で、会社や家族、自分がいる世界と、もし自分がいなくなった世界のことをたくさん考えたんです。

経営というのは、誰かがいなくなっても続いていくのがセオリーだと思います。でも、自分の内側では、やっぱり「自分がいるからこそ実現できること」を持っていたいという気持ちも強くありました。社員についても、辞めたら代わりを探せばいいといった考え方はしたくないと。

私だからできること。私だから役に立てること。グルーヴノーツを退任した今は、そんな手触り感を大切に生きていきたいと思っています。

——その後、Z&Cと出会ったんですね。

辞めた直後は、燃え尽き症候群になっていたんです。ありがたいことにいろいろお声がけもいただいたのですが、なかなか応える気持ちになれなくて。ただ、自分が経営者として経験してきたことや、葛藤してきたことを、もっと多くの人に還元したいとは思っていました。

これからやりたいことを考えていた時に、ゼブラというコンセプトを思い出しました。急成長を目指すユニコーンスタートアップとは違う企業の在り方に、改めて、共感できるところがたくさんあると感じたんです。しかもそれが、昔からの知り合いである阿座上さん(Z&C共同創業者)だったこともあって、お話を聞かせてもらうことにしました。

何度か対話を重ねるなかで、ゼブラという考え方が、自分がこれまで資本主義のなかで抱えてきた違和感や、望んでいた世界観と重なっていくのを感じました。

——ゼブラのどこに共感したのか。そして、どのような思いでアドバイザーに就任されたのか教えてください。

ユニコーンの世界では、事業規模100億、1000億を目指すのが当たり前で、それ以外は認められないような空気もあります。でも、ゼブラは必ずしもそうではない。1億円の事業を着実に続けることも大切だと認められる世界です。「利益を出しながら、長く続ける」ことに価値を見出す。その世界観に強く共感しています。

地域経営や教育事業など、この考え方で取り組むべき領域はたくさんあるはずです。ゼブラというコンセプトやZ&Cは、これまでスタートアップの流れのなかであまり注目されてこなかった分野に、光を当ててくれる存在だと思います。

もちろん、スタートアップの方々も長く続けることは大事だと考えています。ただ、ファンドの信託期間など、構造的に「ゆるやかな成長」を掲げづらい事情もある。そういう意味でも、出資のスキームをより柔軟に、より多様なものにしようとしているZ&Cの実践には、大きな意味があると思います。

それともうひとつ。これまで立場的に、富裕層の人たちが「お金の使い道がない」と言いながら、あまり社会的意義のないことにお金を使っている場面をたくさん見てきました。もしそのお金が、志を持って、社会や未来のためになる事業に循環していけば、本当にいいことだと思います。

ゼブラ企業が増えていくことに加えて、社会や人のためにお金を使う人が増えていく。そこに対しても、自分が少しでも貢献できればと思い、関わらせていただくことになりました。

相反する感性を活かして、自然とテクノロジーを融合する

——今後の具体的な活動内容は検討中とのことですが、地域やテクノロジーに関する個人的なビジョンがあれば教えてください。

「日本全体の地産地消システム」をつくることには興味があります。ご存じのとおり、地方の一次産業は深刻な人手不足に直面しています。収穫ができなければ、昨日まであった野菜や魚が、スーパーの棚から消える可能性もある。輸入頼みになることで、価格が高騰してしまうかもしれない。これは命に関わる問題です。

地産地消とは、地域で採れたものをその地域で消費することですが、今必要なのは「日本で採れたものを日本で消費する」仕組み。そのためには、各地域だけで解決しようとしても限界があります。都市との連携も踏まえて、日本全体で考えていくべき問題です。

——そこにテクノロジーはどう関わるのでしょうか?

人口が減っていくなかで、人が担う部分とテクノロジーが補う部分を切り分け、日本全体の地産地消システムを構築する必要があると思います。需要と供給のバランスをとりながら、収穫・加工・出荷といった一連のエコシステムを再設計していく。同時に、地域の暮らしや文化をどう守り、一次産業にどうお金を循環させるかも、都市側と地域の方々と一緒に議論しながら、答えを見つけていきたいと思います。

——最後に、Z&Cでのこれからの取り組みについて、意気込みをお願いします。

経営やテクノロジーの話を中心にしてきましたが、実は一番興味があるのは「自然」なんです。人がコントロールできないもの、むしろしないほうがいいものに惹かれます。経営やテクノロジーは再現性の世界ですが、自然には再現性がない。その両方に触れ、そして悩んできた自分だからこそ、感じられることがあると思います。両者を融合していくような取り組みをしていきたいです。

まだZ&Cでの具体的な活動内容は決まっていませんが、たとえば農業や漁業の資源管理のような分野には可能性を感じています。最近では、人手不足に悩む農業組合や漁業組合をまとめて、センター的な拠点をつくる動きがある。そうした拠点の運営を代行したり、アナログ作業の自動化を支援したり、ファイナンス面でサポートすることもできるかもしれません。

これから、Z&Cの皆さんと一緒に、議論を重ねながらかたちにしていきたいです。不束者ですが、よろしくお願いします。

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。