2026.03.09 ZEBRAS

ユニコーン時代の次に来る資金調達モデル――社会性を伴った企業の新しい選択肢


ユニコーン時代の次に来る資金調達モデル――社会性を伴った企業の新しい選択肢のイメージ

スタートアップの世界では長らく「ユニコーン企業」が理想像として語られてきました。急成長を遂げ、巨額の資金調達や大型Exitを果たす物語は、多くの投資家や起業家を魅了してきたのです。

しかし、近年は資金調達環境の変化や市場の成熟を背景に、そのモデルの限界や副作用が明らかになってきました。成長のために赤字を許容し続ける経営は持続可能性に疑問が生じ、社会的な価値創出や地域との関わりといった要素が軽視されがちでもあります。

いま求められているのは、規模の拡大だけでなく、社会性や持続性を兼ね備えた新しい企業の姿です。

テーブルの上にコインを積み上げる人

VCモデルと社会性企業のミスマッチ

VCの成功方程式(海外の一般的な傾向)

米国を中心に広がってきたベンチャーキャピタル(VC)の投資手法は、少数の大成功案件がポートフォリオ全体を支えるという考え方が主流です。10社に投資して9社は失敗しても、1社が急成長して大きなリターンを生み出せば十分とされ、短期間での市場拡大や次の資金調達ラウンドを前提に動くスタートアップが多く見られました。

社会性を伴った企業との違い

一方で、社会的な価値創出や地域・環境へのインパクトを重視する企業は、着実な売上や雇用の積み重ねを大切にしています。必ずしも短期間で10倍のリターンには直結せず、「ほどよい成長」と「社会的意義」を同時に追求する姿勢は、従来型VCの成長期待とは方向性が異なる場合があります。

ユニコーン疲れと新しい模索

近年、海外ではユニコーンを目指した投資のリスクが目立つようになり、赤字拡大からの収益化失敗や、社会的信用を失うケースも報じられています。こうした背景から、「持続可能な成長をどう実現するか」を模索する動きが強まっており、新しい資金調達のあり方に注目が集まっています。

広がる新しい資金調達のかたちと事例

人が一枚の紙に書いている

社会性を伴った企業が選ぶ資金調達方法は、従来のベンチャーキャピタルに依存しない、多様なモデルへと広がっています。以下では代表的な手法とその事例を紹介します。

Revenue-Based Financing(売上連動型融資)

仕組み
Revenue-Based Financing(RBF)は、企業の売上に応じて投資家に返済を行う仕組みです。従来の株式投資のように持分を手放す必要がなく、融資のように固定利息を負担する必要もありません。売上が伸びれば返済額も増え、厳しい時期には返済額が減るという柔軟性があります。

事例
米国では、ClearcoやPipe といったRBFプラットフォームが、e-commerceやSaaS、定期収益型事業を主な対象に資金提供を拡大しています。こうしたプラットフォームの魅力は、サブスクリプション収益やEC売上のようなリカーリング収益に対して、業績に応じて返済を調整できる点にあります。

社会性企業との相性
社会課題解決型のスタートアップは、急激な成長ではなく着実な売上拡大を目指すケースが多く、RBFの柔軟な仕組みと相性が良いといえます。Exitを前提としない「持続的成長モデル」を支える手段として注目されています。

インパクト投資ファンド

仕組み
インパクト投資は、財務的リターンだけでなく社会的リターンを重視する投資手法です。ESG投資の流れとも重なり、投資家にとって「利益を生みながら社会課題の解決に貢献する」という二重の成果が期待されます。

事例
欧州のZebra Impact Venturesは、環境や社会にプラスの影響をもたらす技術への投資を進めています。直近では自然共生型の農業スタートアップAgroSpheresに出資し、農薬依存を減らす技術開発を後押ししました。米国ではOmidyar Networkなどが先駆的にインパクト投資を実践しており、教育や金融包摂などの分野で成果を上げています。

社会性企業との相性
社会的価値を活動の中心に据える企業にとって、インパクト投資は「ミッションを尊重しながら資金調達できる」数少ない選択肢です。投資家との価値観の共有も得やすく、単なる資金供給以上のパートナーシップが期待できます。

クラウドファンディング/コミュニティ投資

仕組み
クラウドファンディングは、インターネットを通じて多くの個人から少額ずつ資金を集める仕組みです。単なる資金調達手段にとどまらず、プロジェクトの理念や社会的意義に共感する人々を巻き込めるのが大きな特徴です。近年は投資型クラウドファンディングや地域密着型ファンドも登場し、「共感による投資」の幅が広がっています。

事例
海外ではKickstarterやIndiegogoが代表的な例で、環境配慮型プロダクトや地域貢献を掲げるスタートアップが成功事例を積み重ねています。日本でもMakuakeやCAMPFIREが社会性の高いプロジェクトを数多く支援しており、さらに地域金融機関と連携した「地域クラウドファンディング」も拡大しています。たとえば、地域資源を活かした農業プロジェクトやまちづくり事業などが市民からの直接支援を受けて実現してきました。

社会性企業との相性
社会性を伴った企業にとって、クラウドファンディングは資金だけでなく「共感する仲間を集める場」でもあります。調達過程そのものがマーケティングやコミュニティ形成につながり、事業の持続性を高める効果があります。特に地域密着型の企業や社会課題を直接的に扱うスタートアップにとって、資金と支持基盤を同時に得られる有効な手段です。

共同所有モデル(Co-op Financing)

仕組み
共同所有モデル(Co-op Financing)は、企業の所有権を従業員や顧客、利用者などのステークホルダーと分かち合う仕組みです。株主だけが利益を得るのではなく、事業に関わる人々が出資し、その成果を共有します。意思決定にも参加できることから、「資金調達」と「ガバナンス」を同時に実現できる点が特徴です。

事例
欧米では「Platform Co-op(プラットフォーム協同組合)」と呼ばれる動きが注目されており、従来のプラットフォーム所有モデルとは異なり、サービス提供者や利用者が所有・運営に参画する形態が模索されています。たとえば、Drivers Cooperative(ニューヨーク)は、ドライバー自身が所有し運営に関わるライドシェア・コープとして設立されており、「ドライバー所有型プラットフォーム」の代表例とされています。利益配分、意思決定参加といった協同組合的性質を持つこのモデルは、従来の利益集中型プラットフォームとは対照的と言えます。

社会性企業との相性
社会課題の解決や地域密着型の事業を行う企業にとって、共同所有モデルは非常に親和性が高いといえます。資金を集めるだけでなく、コミュニティ全体の当事者意識を高め、事業を「みんなのもの」として育てる文化が生まれます。結果的に、長期的な持続性や社会的信頼を確保しやすくなるのです。

長期債・財団資金

仕組み
長期債や財団資金は、短期的なExitを前提とせず、安定的なキャッシュフローを重視する資金供給の方法です。銀行融資に近い仕組みですが、社会性の高い企業に向けて財団や公共系の投融資機関が低利率で資金を供給するケースも多く見られます。急激な成長を求めるのではなく、長期的にじっくりと事業を育てる前提で設計されています。

事例
ヨーロッパでは、欧州投資銀行(EIB)が社会的な目的を持つ企業やグリーンテックに資金を回す取り組みを進めています。たとえば、スタートアップが銀行からお金を借りやすくなるように保証をつけたり、返済を長期で計画できるようにするなど、安定した成長を後押ししています。一方アメリカでは、Ford財団やMacArthur財団が、利益と社会的な使命の両立を目指す企業に資金を提供しています。普通の寄付ではなく、「事業として続けながら社会課題を解決する企業」に融資や投資を行うのが特徴です。

社会性企業との相性
長期的な視点で運営される財団資金や長期債は、「社会的インパクトを着実に積み重ねる企業」と相性が良いといえます。短期的な成長や株式市場での派手なExitを求めないため、企業は自らのミッションをぶらさずに事業に専念できます。資金供給者にとっても、安定した利回りや社会的評価を得られる点で利害が一致するのです。

これからのスタートアップ資金調達に求められるもの

ノートパソコンを使いながら座り、ホワイトボードの横で男性を見つめる3人の男性

「多様性」と「評価軸の変化」

スタートアップの資金調達において、従来の「VCからの大型投資一択」という図式はもはや通用しなくなっています。社会課題の解決や持続可能な成長を志向する企業が増える中で、求められるのは調達手段の多様性です。Revenue-Based Financingやクラウドファンディング、財団資金といったオルタナティブな選択肢は、企業の事業モデルや成長段階に応じた柔軟な資金供給を可能にします。

投資家の役割の変化

一方で、投資家側にも変化が求められます。これまでのように「短期間での高倍率リターン」を唯一の成功指標とするのではなく、「社会的インパクト」や「持続的キャッシュフロー」を評価軸に組み込む必要があります。インパクト投資の普及やESG重視の潮流は、その変化を加速させています。投資家が新しい指標を受け入れることで、企業はミッションを大切にしながら資金調達ができるようになります。

共感資本主義の広がり

さらに、クラウドファンディングや共同所有モデルに見られるように、資金調達が「共感」や「参加」をベースにする動きも広がっています。社会性を伴った企業が資金を集める過程自体がコミュニティ形成となり、顧客や地域との関係を強める効果を生み出しています。こうした「共感資本主義」ともいえる動きは、資金調達のあり方を根本から変えつつあります。

新しいエコシステムへの移行

今後のスタートアップ・エコシステムは、ユニコーンモデルだけに依存するのではなく、複数の調達方法が並存する時代に向かっていくでしょう。企業は事業の特性に合った資金源を選び、投資家は多様なリターンの形を受け入れる。そうした相互理解と柔軟性が、社会性を伴った企業を次のステージへ押し上げていくと考えられます。

あなたのビジネスに最適な資金調達のかたちは、どれでしょうか。

文:岡徳之(Livit

PROFILE

Noriyuki Oka

編集プロダクションLivit代表。サステイナビリティー先進国・オランダを拠点に、ゼブラ企業や地域循環型モデルを調査・執筆。有力メディア(NewsPicks、東洋経済オンラインなど)や企業オウンドメディア向けにコンテンツ制作を手がける。 https://livit.media/