2026.02.26 ZEBRAS
日本以外の日本以外のゼブラ企業育成制度と政策はどうなっているか──スペイン、カナダ、北欧、英国、NZの比較
ゼブラ企業──社会的インパクトと経済的持続可能性を同時に追求するこの経営スタイルは、ここ数年で日本にも広がりつつあります。短期的な成長を至上とする「ユニコーン型」モデルとは異なり、ゼブラ企業は地域や社会との共生を重視しながら、着実な成長を志向します。
日本国内では、こうしたゼブラ企業の広がりとともに、資金調達のあり方や法設計、公共との連携など、彼ら・彼女らを取り巻く環境についても多様な試行錯誤が生まれています。理念だけでなく、それを支える仕組みやエコシステムのあり方が、いま改めて問い直されつつあります。
では、海外ではどうでしょうか。なぜある国では、ゼブラ的な価値観をもった企業が次々に育っているのでしょうか。
本稿では、スペイン、カナダ、北欧、イギリス、ニュージーランドの事例をもとに、ゼブラ企業を支える制度や政策の特徴を整理し、それぞれのアプローチの違いを概観します。

スペイン:自治体が支える“もうひとつのプラットフォーム経済”
スペイン・バルセロナ市では、ゼブラ的な価値観をもつ企業が行政と連携しながら育つための土壌が着実に整備されつつあります。その象徴的な事例が、いわゆる「プラットフォーム・コープ(Platform Cooperative)」を対象とした自治体レベルでの支援政策です。
プラットフォーム・コープとは、ウーバーやエアビーアンドビーのような中央集権型のプラットフォームとは対照的に、利用者や労働者自身がオーナーとなる分散型・協同型のプラットフォームビジネスのことを指します。
バルセロナ市は2016年以降、このような新しい経済形態に積極的に投資を行ってきました。具体的には、「デジタル社会経済局(DECODE)」という部署を通じて、協同組合型プラットフォームに対する助成金や技術支援、人材育成プログラムを提供しています。
注目すべきは、これが一過性のプロジェクトではなく、制度として組み込まれているという点です。バルセロナ市は「社会的・連帯型経済(Social and Solidarity Economy)」の促進を政策方針として明文化し、市予算の一部を恒常的にこの領域に配分しています。つまり、自治体がゼブラ的企業の“制度的スポンサー”となっているのです。
このように、中央政府主導ではなく自治体が主導する制度的支援がゼブラ的企業を育てる基盤になっている事例は、スケールだけを追わない「地域主導型の持続可能な経営」のひとつの形として、注目に値するでしょう。
カナダ:公共×民間で支えるインパクト企業の“成長土壌
カナダでは、ゼブラ企業のように社会的ミッションと経済的持続可能性を両立しようとする企業を支えるために、公共セクターと民間セクターが協働するインフラが発展しています。その中心的な存在が、トロントを拠点とするイノベーション支援機関「MaRS Discovery District(マーズ・ディスカバリー・ディストリクト)」です。
MaRSは、2005年にオンタリオ州政府と民間投資家の共同出資によって設立された、いわば“公設・民営”のハイブリッド型インキュベーターです。医療、気候、教育、都市生活など社会課題に根ざしたスタートアップを支援対象としており、資金調達から研究機関との連携、政策提言まで幅広い役割を果たしています。
MaRSの特筆すべき点は、社会的インパクトを生む企業を「経済成長の担い手」として位置づけている点です。成長性と社会性は相反するものではなく、両立できるという前提のもと、ゼブラ的企業にとっての「資本へのアクセス」や「規制整備の促進」を制度的に後押ししています。
また、カナダ政府そのものも、社会的企業への支援を積極的に展開しています。2018年には約8億カナダドル(約900億円)規模の「Social Finance Fund」が発表され、インパクト企業への投資資金の供給とエコシステム構築が進められています。
カナダの事例から見えてくるのは、公共と民間の境界をあいまいにしながら、社会的企業を長期的に支える“仕組みそのもの”が構築されているということです。社会性のある事業を“例外”ではなく“前提”として捉える視点が、制度設計の根底に据えられているのです。
北欧:制度に組み込まれた「社会的企業」という存在
北欧諸国では、ゼブラ的な価値観をもった企業が特別な存在として扱われることは少なく、むしろ制度や文化の中に自然に組み込まれた存在として根付いています。とりわけスウェーデンやノルウェーでは、「社会的企業(Social Enterprise)」を法制度の中で明確に位置づけ、公共サービスの一部を担う存在として積極的に活用しています。
たとえばスウェーデンでは、「Samhall(サムホール)」という国家所有の企業が、障害者の雇用創出を目的に運営されており、清掃、物流、製造など多様な分野で約2万人以上の雇用を生み出しています。利益の最大化ではなく、社会包摂という明確なミッションのもとに活動しており、ゼブラ的経営の一つのロールモデルとも言えます。
ノルウェーでは、「社会的企業認証制度(Social Enterprise Certification)」が民間主導で整備されており、社会的目的を掲げる企業に対して、公共調達の優遇や雇用助成金といったインセンティブが設けられています。政府と連携した「NAV(ノルウェー労働福祉庁)」を通じて、労働市場から排除されがちな人々の再統合を支援する企業が制度的にサポートされているのです。
これらの国々に共通するのは、“社会的課題を解決する企業”を制度の枠内で支え、公共政策の延長線上に位置づけている点です。福祉国家という基盤があるからこそ、社会性を持つ企業を育てることは、国家の責務であるという認識が共有されていると言えるでしょう。
また、ゼブラ企業にとってはありがちな“市場から評価されにくい”という構造的課題も、北欧では制度によって部分的に解消されています。たとえば、公共調達の入札条件に「社会的価値」や「包摂性」が組み込まれており、それがビジネスチャンスとしての制度的裏付けになっています。
北欧の事例が示すのは、ゼブラ的経営が特別なチャレンジではなく、「ありうる経営のひとつ」として社会の中に位置づけられているということです。それは、理念や美談ではなく、制度と文化の接点から生まれた、ごく自然な形として存在しているのです。
イギリス:ゼブラ企業の“法的人格”を与える制度──CICの可能性
イギリスでは、ゼブラ的な企業が「制度の外」ではなく「制度の中」から社会課題に取り組めるような法人格の枠組みがすでに整備されています。その代表が、2005年に導入された「CIC(Community Interest Company:コミュニティ利益会社)」制度です。
CICとは、地域社会や特定のコミュニティへの貢献を主目的とする企業のために設けられた法人形態で、株式会社と同様に収益活動を行いながら、その利益を公共的な目的のために再投資することが求められています。設立には「コミュニティ利益テスト」をクリアする必要があり、社会的インパクトの存在が法的に審査・認定されます。
この制度の意義は、「社会性」と「営利性」を両立する企業に、あらかじめ制度上の“居場所”を与えている点にあります。通常、社会課題に取り組む企業は、NPOや慈善団体と営利企業の間で宙吊りのような存在になりがちです。しかしCICは、その中間的な役割を明確に制度化し、特定の税制優遇や出資の柔軟性を含めた支援の道筋を示しています。
また、イギリスではCICの存在が社会的に認知されており、公共調達や地域施策のパートナーとして選ばれるケースも少なくありません。制度上の支援に加えて、「制度化されたステータス」が社会的信頼につながる好循環を生んでいます。
CIC制度のように、社会的企業に法的な立ち位置を与えることで、“ゼブラ経営”を制度の内側から支える構造は、社会性と営利性を両立する法人格を制度として設計した事例として、国際的にも注目されています。日本にとっても示唆に富んだ仕組みだと言えるでしょう。
ニュージーランド:「幸福」が政策基準になる国で育つ企業とは
ニュージーランドは、ゼブラ企業のように社会価値と持続性を重視する経営にとって、国家レベルでの後押しが存在するユニークな国です。象徴的なのが、2019年に導入された「ウェルビーイング・バジェット(Wellbeing Budget)」という政府の予算編成方針です。
この方針では、従来のGDPや経済成長率といった指標に加え、国民の幸福や精神的健康、教育へのアクセス、環境の質、社会的つながりといった非経済的要素を重視し、それに基づいて国家予算を配分しています。つまり、「何が成長するか」ではなく、「何のために成長するか」を政策の軸に据えているのです。
このアプローチは、ゼブラ的企業が持つ価値観と非常に親和性が高いと言えます。たとえば、環境や地域社会に配慮しながら活動する中小企業や、マイノリティの雇用を重視するスタートアップなどが、単なる“道徳的選択”としてではなく、国家戦略の一環として支援対象となりうるという土壌が生まれています。
実際、ウェルビーイング・バジェットは、先住民族マオリの若年層支援や、地域精神医療の整備、小規模なコミュニティ・イニシアチブなどに多くの資金を配分しており、政府が草の根の変革を後押しする姿勢を明確にしています。こうした分野では、ゼブラ的企業が事業の担い手として活躍する余地が大いにあります。
注目すべきは、これが「福祉政策」ではなく、国家の経済・社会戦略として位置づけられているという点です。つまり、社会的価値を重視する企業が「支援の対象」であるだけでなく、「国家の成長目標と整合的な存在」として制度に取り込まれているのです。
各国に共通する制度設計の特徴とは
ここまで見てきたように、ゼブラ的な企業を支える制度の形は国によって大きく異なります。
自治体主導で育成するスペイン、公共×民間のハイブリッド型インフラを整備するカナダ、社会的企業を制度に組み込む北欧、法人格として位置づける英国、国家戦略に価値基準を組み込むニュージーランド。
アプローチは多様ですが、共通しているのは、社会的価値を生む企業を例外扱いしない制度設計が存在している点です。
ゼブラ企業の成長は、企業家個人の資質だけではなく、制度の設計思想とも深く結びついていることが分かります。各国の取り組みを比較することで、ゼブラ企業を取り巻く制度設計の幅広い可能性が見えてきます。
文:岡徳之(Livit)
PROFILE
Noriyuki Oka
編集プロダクションLivit代表。サステイナビリティー先進国・オランダを拠点に、ゼブラ企業や地域循環型モデルを調査・執筆。有力メディア(NewsPicks、東洋経済オンラインなど)や企業オウンドメディア向けにコンテンツ制作を手がける。 https://livit.media/