2026.02.18 ZEBRAS

ゼブラ企業は生成AIをどう活かすか:社会インパクト、従業員共生、コミュニティ共創


ゼブラ企業は生成AIをどう活かすか:社会インパクト、従業員共生、コミュニティ共創のイメージ

「生成AI」という言葉は、いまやビジネスや社会のあらゆる領域で聞かれるようになりました。ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルの登場以降、効率化や生産性向上を目的とした導入事例は後を絶ちません。特に「20%の業務効率改善」「年間コスト削減額〇〇億円」といった数字は、経営層や投資家にとって魅力的に映ります。

もちろん、それらは重要な成果ですが、ゼブラ企業にとっては十分ではありません。ゼブラ的な経営は、利益と社会的価値を両立させることにこそ存在意義があります。だからこそ、生成AIをどう使うかは「効率を高めるため」だけではなく、「人や社会にどんな価値を返すのか」という問いに直結します。

いま世界各地で、ゼブラ的な価値観に基づいた生成AIの活用が始まっています。人道支援の現場で意思決定を支えるツール、従業員の時間を解放して人間ならではの業務に集中できる仕組み、地域コミュニティと共に設計されたチャットボット――いずれも効率化の枠を超えて、社会的インパクトや人との共生を実現しようとしています。

本記事では、ゼブラ企業が生成AIを活かす3つの接点に注目します。すなわち 「社会的インパクト拡張」「従業員との共生」「コミュニティ共創」 です。最新の具体事例を手がかりに、ゼブラ企業にとって生成AIがどのような可能性を持つのかを考えていきます。

社会的インパクト拡張 ― Mercy Corps の挑戦

出典:Mercy Corps

人道支援の現場は、刻一刻と状況が変化します。災害対応や紛争地域での活動においては、数時間の判断の遅れが命に直結することも少なくありません。Mercy Corpsは、こうした環境における意思決定を支えるために、2024年11月に生成AIを活用したチャットボット「Methods Matcher」を導入しました。

このツールは、過去の調査報告や実証事例など膨大なドキュメントを検索・要約し、フィールドスタッフの問いに即座に答えることができます。たとえば「洪水被害時の農村支援で有効だった施策は?」といった質問に対して、数秒で関連する事例を提示します。従来であれば数日かかっていた情報収集が一瞬で可能になり、支援活動のスピードと質が飛躍的に高まりました。

出典:Mercy Corps

注目すべきは、この生成AIが単に「効率化」だけを目的としていない点です。意思決定を支えることで現場のスタッフが安心して行動できるようになり、その結果として支援を受ける人々の安全や生活再建の可能性が広がります。つまり、効率の向上がそのまま社会的インパクトに直結しているのです。

もちろん課題もあります。生成AI特有の“幻覚(ハルシネーション)”や、過去データのバイアスが意思決定に影響を及ぼすリスクは拭えません。しかし、Mercy Corpsは現場からのフィードバックを踏まえながら改善を進めており、「社会を良くするために生成AIをどう適応させるか」という問いに真剣に取り組んでいます。

この事例は、ゼブラ企業にとって生成AIが「効率を超えて人命や社会の改善に資する」可能性を示す好例と言えるでしょう。

従業員との共生 ― Too Good To Go の事例

出典:Too Good To Go

食品ロス削減アプリとして世界的に知られるデンマーク発のゼブラ企業Too Good To Goは、2024年に生成AIを組み込んだ余剰食品管理ソリューションを発表しました。この仕組みは、小売店舗や飲食店が在庫状況を入力すると、AIが賞味期限や販売動向を分析し、割引提案や寄付の推奨を自動的に行うというものです。

一見すると在庫管理の効率化に見えますが、注目すべきは従業員の働き方に与える影響です。これまでスタッフは毎日の閉店前に商品棚を点検し、売れ残り商品をリストアップし、割引や廃棄の判断をしなければなりませんでした。生成AIを導入することで、このルーチンタスクの多くが自動化され、「人がやらなくてもいい仕事」が大幅に減ったのです。その結果、従業員は顧客対応やパートナー店舗との関係づくりなど、より人間らしい付加価値業務に時間を振り向けられるようになりました。

出典:Too Good To Go

ゼブラ的経営にとって重要なのは、利益と同時に人を大切にすることです。Too Good To Goの生成AI活用は、「人を置き換える技術」ではなく「人の可能性を広げる技術」として従業員の働き方を変えています。スタッフが「仕事のやりがいを感じられる業務」にシフトできることは、従業員満足度や定着率にもつながり、結果的に企業全体の持続可能性を高めます。

もちろん課題は残されています。生成AIの提案が必ずしも現場の直感や地域特性に合うとは限らず、最終的な判断は人が行う必要があります。しかし「人間とAIの役割分担」を現場に根付かせることこそ、ゼブラ的経営の真価が問われる部分でしょう。Too Good To Goの事例は、従業員との共生という視点から生成AIの可能性を考えるうえで、非常に示唆的なものです。

コミュニティ共創 ― Opportunity International の事例

出典:Opportunity International

生成AIの活用において、重要なのは「誰のために設計されているか」という視点です。Opportunity Internationalは、農家や教師など地域の生活に密着した人々と共に生成AIのあり方を考え、実際に現地で試験導入を進めてきました。

2024年、同団体はマラウイで「Ulangizi」というチャットボットをパイロット展開しました。特徴的なのは、現地語であるチチェワ語と英語の双方に対応し、テキストだけでなく音声や写真入力も可能にした点です。これにより、読み書きのリテラシーやネット接続環境に制約がある農村地域でも活用できる仕組みを実現しました。農家は作物の病気や害虫に関する写真を送信し、チャットボットから具体的な対応策を得ることができます。教師にとっては授業計画や教材作成を支援するツールとしても役立っています。

この取り組みは、単に「AIを導入する」だけでなく、利用者と共に設計し、改善していく点に大きな意味があります。ユーザーの声を反映しながらツールを育てていく姿勢は、ゼブラ企業が重視する「コミュニティとの共創」の精神そのものです。

出典:Opportunity International

2025年には「FarmerAI」としてケニアなど他国での展開が始まり、利用者層の拡大と機能強化が進められています。現場のニーズを中心に据えることで、生成AIが「外から持ち込まれる技術」ではなく「共に作り上げる仕組み」として定着しつつあるのです。

この事例は、ゼブラ企業が生成AIを用いる際に忘れてはならない指針を示しています。それは、効率化や利益のためではなく、人と地域社会が主役となる設計を徹底することです。AIを「共創の媒体」として活かす姿勢こそが、ゼブラ的経営と生成AIを結びつける鍵と言えるでしょう。

成果と課題 ― 2025年現在のアップデート

ここまで紹介してきた三つの事例は、いずれも2024〜2025年に本格的に始動した取り組みです。まだ途上にあるものの、すでにいくつかの成果が見えてきています。

まずMercy CorpsのMethods Matcherでは、現場スタッフが過去の調査や事例を即時に参照できるようになり、意思決定のスピードが格段に向上しました。従来は数日かかっていた情報収集が数秒で可能になったことで、緊急時の対応力が強化されています。現場からは「エビデンスに基づいた判断がしやすくなった」という声も聞かれ、ツールが実務に根付き始めていることがわかります。

Too Good To Goの生成AIプラットフォームは、小売店舗における余剰食品管理を効率化しました。導入店舗では、スタッフが毎日1時間ほど費やしていた在庫チェック作業が大幅に軽減され、割引や寄付の提案を自動で受けられるようになりました。その結果、従業員は顧客対応やパートナーシップ構築に時間を充てられるようになり、従業員体験と業務効率の両立が進んでいます。

Opportunity InternationalのUlangizi / FarmerAIでは、マラウイでのパイロットを経てケニアなどで展開が始まっています。農家からは「作物の病気に即時に対応できた」「収穫量が改善しそうだ」といった前向きな反応が寄せられ、教師からも授業計画作成の支援として好評です。現地語や音声入力に対応したことで、教育水準やリテラシーの壁を超えるツールとしての手応えが出てきています。

ただし、いずれの事例も課題を抱えています。Mercy Corpsでは生成AI特有の誤情報(ハルシネーション)やデータバイアスへの対策が不可欠です。Too Good To Goの場合、AIによる提案が必ずしも現場の直感や地域特性と一致しないことがあり、最終判断を人が下すプロセスが重要になります。Opportunity Internationalでは、インフラ環境や機器の制約、利用者数の拡大に伴う品質維持が課題です。

これらの事例は「生成AIが効率を超えた価値を生み始めている」ことを示しつつ、同時に「社会的インパクトや共生を実現するにはまだ工夫が必要」であることを教えてくれます。ゼブラ企業が生成AIを取り入れる際には、この成果と課題の両面を意識しながら、次のステップを模索することが求められているのです。

ゼブラ的生成AIの未来

生成AIは、これまで「効率化」や「コスト削減」といった文脈で語られることが多くありました。しかし本稿で紹介した3つの事例は、それを超えた可能性を示しています。

ゼブラ企業が重視するのは、利益と社会的価値を両立させ、持続可能な未来をつくること。生成AIは、その目標を加速する強力な手段になり得ます。ただし同時に、誤情報やデータバイアス、インフラの制約といった課題にも直面しています。ここをどう乗り越えるかこそ、ゼブラ的な経営姿勢が問われるポイントです。

生成AIは「効率化の魔法」で終わるのか、それとも「人と社会を支える基盤」となれるのか。その答えは、技術そのものではなく、それをどう活かすかを選び取る企業に委ねられています。ゼブラ企業の取り組みは、その選択の方向性を私たちに示していると言えるでしょう。

文:岡徳之(Livit

PROFILE

Noriyuki Oka

編集プロダクションLivit代表。サステイナビリティー先進国・オランダを拠点に、ゼブラ企業や地域循環型モデルを調査・執筆。有力メディア(NewsPicks、東洋経済オンラインなど)や企業オウンドメディア向けにコンテンツ制作を手がける。 https://livit.media/