2024.07.05 ZEBRAS

「折り紙」が地球を救う?!オリガミテックでミッションに取り組む世界のゼブラ3社


「折り紙」が地球を救う?!オリガミテックでミッションに取り組む世界のゼブラ3社のイメージ

サステイナビリティは日本の「お家芸」

個人的な感想ではありますが、オランダに住みこうした記事や現地ツアーで欧州のサステイナブルなビジネスをお伝えする仕事をしていて、もったいないなあと思うことがあります。それは「欧州の最新のサステイナブルな取り組み!」としてご紹介することが、しばしば実は日本の「お家芸」ではないかと思うことが多いこと。

近年欧州の意識高い系の若者の間でヒップなヴィーガニズムは、精進料理とほぼ通じています。サーキュラーエコノミーは、資源の乏しい島国である日本では当然のこととして実践されてきました。江戸時代のリサイクル業の充実。「損料屋」と呼ばれたレンタル業者や長屋コミュニティが築いていたいわゆるシェアリングエコノミー。道具は何でもぞんざいに扱うと妖怪になって化けて出るという教えの背景にあった「モノを大切に使う」精神。これらは全て、私たち日本人が「ちょっと半世紀ばかり忘れていただけ」のメンタリティではないでしょうか。

そしてそういった背景から生まれた日本の伝統には、欧州で近年サステイナビリティの文脈で見直されているものも多々あります。

「リユーザブルラッピングペーパー兼バッグ兼スカーフ兼テーブルクロス兼その他もろもろ」である風呂敷などもギフトとして人気ですが、子どもの遊びとして海外でもよく知られ、実はテクノロジーの歴史のそこここで活用されてきている「折り紙」も、近年も様々な新しいビジネスのインスピレーションの源となっています。

特に資源やエネルギーの観点から見ると、正方形の紙というこの上なくシンプルで軽量なものから、特に他の道具も使わず技巧のみで様々な形状を作り出す折り紙の技法は、「最小限のマテリアルで最大限の価値を生み出す」というサステイナビリティにおいて避けて通れない課題への大きなヒント。

世界共通語である「ORIGAMI」のテクニックでミッションに取り組むゼブラは世界にたくさんありますが、本日はその中でもORIGAMIを前面に出して社会課題にタックルするゼブラ企業を、モビリティ・建築・ファッションの3業界から1社ずつご紹介したいと思います。

「工業オリガミ」でモビリティを改革するスウェーデン「Stilride

まずは自ら「Industrial ORIGAMI(工業オリガミ)」と呼ぶテクノロジーで、軽量・柔軟・強固な高性能オリガミモビリティを開発し、ドイツデザイン大賞、ニューヨークプロダクトデザイン大賞、シンガポールレッドドットデザイン賞などを総なめにしているスウェーデンのスタートアップ「stilride」。

(Stilride公式より)

工業デザイナーのTu Beijer氏は、自作の電動スクーターを夢見る少年だった1993年にStilrideの原型をデザインしました。その後実際に紙を折ったり曲げたりとまさに「オリガミ」の技法で構造を試行錯誤し、特殊なロボット工学を駆使してリサイクル(&リサイクラブル)スチールのフラットな板を「曲線オリガミ」することでフレームを作る技術を開発。スウェーデンのイノベーション庁から資金提供を受けた研究プロジェクトを経て、2020年に正式に起業の運びとなりました。

同社のオリガミ電動スクーター「STILRIDE1」はシャーシ全体をリサイクルスチールの板から切り出してオリガミ方式で製造するため、従来のスクーターのように溶接やネジが必要ありません。それにより重量40%減、コンポーネント70%(!)減、材料費20%減、人件費25%減を実現。軽量なためエネルギー消費も低く、なによりも世界的な供給が始まった場合、「板」と「技術」さえ輸出すれば世界のどこでも現地で製造することが可能になり、製造したボディを輸送する必要もありません。ボディ製造のフットプリントの総計は従来の電動スクーターの約半分とされています。

また、同社はこの「オリガミ」技術をスクーターのみならず、建築やロジスティックなどあらゆる産業に適用するためのパートナーも拡大中です。

スクーターの公式な初回納品は2026年を予定しており、現在絶賛予約受付中。ただしすでに世界から数十万人以上が順番待ちリストに名を連ねているとのことです。

オリガミモジュールハウスで住宅危機に挑むオランダ「4earth 2mars

次にご紹介したいのは、「オリガミ」モジュールハウスで世界の住宅危機や避難所問題に取り組むオランダの建築事務所「4earth 2mars」。

創設者のOmid Hajishirmohammadi氏は現在ロッテルダムに活動の拠点を置いていますが、元はイラン出身の建築家で、2003年に同国の南東部を襲った「バム地震」を体験しました。レンガやアドべでできた旧市街の建物80%が倒壊し、死者は3万人とも4万人とも言われています。

そんな被災地で2週間のテント生活を強いられつつ、建築家として仮設住宅の設置を目の当たりにした同氏は、そのマテリアルやプロセスがあまりにサステイナブルでないことにショックを受けたといいます。

Omid氏(本人提供)

そこで同氏が思いついたのが、災害時に建築業者の到着を待つ必要もなく、地域の住民が自らの手で組み立てることができるオリガミ式のモジュールハウス。

2つ、もしくは4つのコンポーネントでレゴのように組み立てることができるOmid氏開発の「CT-Habitats」は、マテリアルにも菌糸などの生分解性のある材料を使用。再利用・リサイクルを想定してデザインされており、現在は仮設住宅などの緊急利用を想定しているため耐久年数は短めですが、今後さらなる研究・改良により長期利用にも適応していくとのこと。

なによりもライフサイクルの中で半分以上を占めるといわれる建築物のエンボディドカーボンと建築時の消費エネルギーを、軽量でオリガミ式の組み立てが可能な同住宅は格段に軽減できると言います。

4earth 2mars住宅モデル(Omid氏提供)

運営会社の名前「4earth 2mars」は少し変わっていますが、その意図するところは「地球のため(=for Earth)」に作った住宅が、その使いやすさから「火星においても(=to Mars)」利用されるほど発展していくように、という意味。

これから見込まれる海面上昇などによる住宅危機を見据えてはいますが、自然災害の多い日本ではいち早く注目されてEU-Japan Green Transition portalやJETROプラットフォームでも紹介されています。また、同社が拠点を置くロッテルダム市も住宅難が深刻なため、2025年までに60組の安価な住居が必要な若年夫婦に製品を提供することを目指しています。

全ての人が自分の体に安心できるよう。カナダ「オリガミ・カスタムズ」

最後にご紹介するのはその名もずばり「オリガミ・カスタムズ」。主にクィアをターゲットに、あらゆる人の多種多様なニーズに応えるためにカスタム下着を作成・寄贈する、実は創業10年以上のカナダの企業です。下着業界で初めて性別の垣根を取り払ったメーカーとしても知られています。

Rae Hill氏(同社公式サイトより)

創業者のRae Hill氏はビクトリアの小さな町出身ながら、母親から受け継いだ裁縫の知識、クィアとしてのマイノリティ体験、また10代の6年間世界を旅した国際平和教育プログラムなどから、のちに「どんな人でも自分の体に違和感を持たずにいられる」ための下着メーカーの起業家としてのスキルセットを身に着けていきます。

最終的にホンジュラスの小さな島に住みつき、着心地の悪い既製品の代わりに自作したカスタムメイドの水着を売る店を始めますが、辺鄙な立地のためたまに本土に行って買い付ける布や、父親がアジアのお土産に買って送ってくれるスカーフ、島内でリサイクルできる衣類れなど、とにかく手に入る端切れで工夫して製造する必要がありました。これが社名である「オリガミ」の由来であり、現在も受け継がれる同社のマテリアル利用方針です。

その後、自分の体に合う水着が見つからずに困っていたクィアの友人のために水着を作ったことをきっかけに、どんなサイズ・ニーズにも応えるカスタム水着・下着のメーカーとして知名度を上げていきました。

特に、「ギャップを埋める=必要としている人がいるのに、入手しにくいものを提供する」という視点から開発したカスタムメイドの「性別を肯定する下着」(いわゆるナベシャツや、フラットショーツなど)は大人気を博し、起業を急成長させる推進力となったといいます。それが現在まで続く顧客の細かいニーズ(感覚過敏、可動域制限など)に「カスタム」する方針につながっています。

ニッチに思える需要に応えるミッションを背負った同社ですが、サステイナビリティへの取り組みは包括的です。まず、追加料金なしで顧客のサイズにカスタムする主義は、お金持ちでない顧客も自分の身体に心地よくいられるようにという平等への願いと共に、ぴったり合った下着は着心地がよいので大切に扱われ、結果的に寿命が延びるという省資源の戦略が込められています。

従業員にクィアやトランスといった通常の労働市場で選択肢が狭まる可能性のある性的マイノリティを雇用し、公正な労働の対価を保証しているのは、「顧客の幸福に寄与するためには、社員のウェルビーイングから取り組まねばならない」という考え方によるもの。

マテリアルもデッドストックやリサイクル素材、竹の布など、サステナ・エシカルな調達を徹底しています。

またアメリカの多様な性別を支援するNPO団体Point of Prideとの提携により、経済・プライバシーなどの問題で「性別肯定下着」を購入できない人に対して、月400枚の無料提供も行っています。

他にも折りたたんで廃棄できる注射器の省資源シリンジ、中身がなくなったら小さく畳めるオリガミ系ボトル、来客用に普段は畳んでおけるオリガミ系の家具、中身を最後まで出しやすいオリガミ系歯磨きチューブなどなど、ここ数年だけでも折り紙系開発は枚挙にいとまがありません。

私たち日本人にはなじみ深すぎてあまり顧みることもありませんが、ご自身の専門分野の技術と折り紙が世界で最近どんなコラボをしているかチェックしてみたら、思いがけないORIGAMIの再発見があるかもしれません。

 文:ウルセム幸子

編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。