2026.07.27 ZEBRAS
金融庁も参加し5省庁体制へ。ローカルゼブラ支援、「実証」から「面」の展開フェーズに【令和8年度 政策発表会レポート】
5月21日、ゼブラ企業に関する政府の取り組みを共有することを目的に「令和8年度 ゼブラ企業関連政策発表会」を開催しました。3回目となるこの発表会には、昨年度から参加している経済産業省中小企業庁・国土交通省・農林水産省・環境省の4省庁が参加。今年度はこれに金融庁が新たに加わり、5省庁体制での開催となりました。各省庁によるゼブラ企業の支援内容や、社会的インパクトの可視化や地域金融機関との連携といった、現場で直面する課題感についてまとめました。
<登壇者>
伊奈 友子 氏(経済産業省 中小企業庁 商業課長)
倉石 誠司 氏(国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課長)
朝日 健介 氏(農林水産省 農村振興局 農村活性化推進室長)
植竹 朋子 氏(環境省 地域循環共生圏推進室長)
髙岡 文訓 氏(金融庁 サステナブルファイナンス推進室長)
個社の伴走支援から、エコシステムの醸成へ
まず登壇したのは、経済産業省・中小企業庁の伊奈友子商業課長です。一昨年度まで経産省は、ローカルゼブラ企業を一社ずつ支援してきました。昨年度は複数のローカルゼブラ事業をまとめる「地域事業づくり会社」を育てていくという方針で事業を行いました。
今年度は、地域の中核企業や金融機関、地域外の協力事業者も含めて、一つの「エコシステム」として捉え、地域事業づくり会社を軸にお金が動く仕組みを検証していく方針と語られました。その実践により得られたノウハウは、金融庁とともにガイダンスとしてまとめる予定。あわせて、エコシステム単位で、先進地域の取組を学ぶスタディツアーも実施し、地域エコシステム創出のための「仕組み」を展開するとともに、ローカルゼブラ企業同士が集まり、非財務KPI(社会的インパクト)の価値を見える化し機運醸成をはかります。

ファイナンスを重視する理由について、伊奈氏は「日本では創業期の支援策は手厚い一方、成長資金の調達は社歴の短いローカル・ゼブラ企業には難しい」と指摘。地域間で行き来して学ぶことについては、「実際に苦労して実現してきた人の話が一番参考になる」として、より実践的なスタディツアーを目指すと語りました。
不動産プレイヤーが核となる地域づくりへ
続いて、国土交通省不動産・建設経済局の倉石誠司不動産業課長は、地域生活圏づくりには分野を超えて広域でプロジェクトを動かす担い手が必要であり、「その中心になり得るのが不動産分野の人たち」だと説明。具体的には、空き家・空き地・空き店舗などを活用し、不動産業者を中心に自治体・民間事業者・NPOなど交通・農業・福祉など多様な領域が連携する「地域価値共創モデル事業」を新設。あわせて「不動産業アワード」などの表彰制度を設けており、6月18日には各省庁も参加する「地域価値共創シンポジウム2026」を開催するとしています。(※同日に国土交通大臣から、『地域とくらしのパートナー』という新しいキャッチフレーズを発表)

こうした取り組みについて倉石氏は、土地や建物を取引したり管理するだけではなく、そこに生まれるコミュニティや、その価値を高めるクリエイティブな発想が大切だと語ります。不動産分野の人たちがコミュニティづくりにも関わっていくこと。そして、不動産価値や地価の高まりを第一目的とする発想自体が変わっていくこと。この両方への期待を述べました。
農山漁村とゼブラ企業をつなぐプラットフォームと認証制度
続いて、農林水産省・農村振興局の朝日健介農村活性化推進室長は、農山漁村で活動するゼブラ企業をはじめとする様々な企業や自治体が参画するプラットフォームを紹介。575社の企業を含む650の団体が登録し、毎回1,000名以上が参加するシンポジウムも開催しているといいます。
あわせて、地域金融機関と連携し、ゼブラ企業等が持つソリューションを農山漁村に実装するための「案件形成拠点」づくりを進めています。昨年度は10地域だったものを、今年度は40〜50地域まで拡大する方針。さらに、農山漁村の課題解決に資する取り組みを国が認証し、優先的に地域へ紹介・伴走するモデル企業選定の仕組みや、取組を証明する「取組証明書」の整備も進んでいます。

こうした「取組」の評価軸について朝日氏は、食料の安定供給や多面的機能の維持に加えて、生物多様性の保全や災害防止、気候変動対応など環境面でのインパクトも評価軸の一つだといいます。背景には農業者の急減という危機感があり、現在111万人いる基幹的農業従事者は20年後には22万人、5分の1まで減少する見通し。そのため官民が共創し、AIやITの導入で人手が減っても回る仕組みをつくるとともに、人材のシェアリングなど外部との連携を進めていく必要があるとまとめました。
地域ごとの特色を活かした「地域循環共生圏」
続いて、環境省地域循環共生圏推進室の植竹朋子室長は、同省が取り組む「地域循環共生圏」について説明。自立した地域でゼブラ事業にあたる「ローカルSDGs事業」が次々と生まれる仕組みをつくり、そうした地域同士をネットワークでつなぐ。それによって、人・もの・資金が循環する持続可能な社会を目指すという考え方です。
事例として、佐賀県鹿島市では市役所を中心に、市の課題解決に取り組む企業を地域全体で応援する仕組みを構築。滋賀県東近江市では基金と地域のNPOが連携して資金支援を含む伴走支援を行い、大阪府能勢町・豊能町では地域新電力が中心となるなど、地域ごとに異なる仕組みが生まれていると紹介しました。

植竹氏は、環境・社会・経済を回していくためには地域の主体性が何より重要であり、地域内外の多様なパートナーシップが欠かせないと強調。100以上の地域を支援してきた方法論をまとめ、手引きとしてホームページ上に公表しているといいます。また新たな動きとして、火力発電所の撤退など、地域の転機を持続可能な社会への移行のチャンスととらえ、地域全体で将来像を考える「地域トランジション」にも取り組んでいます。今後、それぞれの取り組みをより加速するためのガイドラインやツールを提供する予定。あわせて、優れた取り組みを表彰・発信する「グッドライフアワード」や、誰でも活用できる「地域経済循環分析」なども紹介し、ナレッジ共有の重要さを語りました。
資金の出し手・受け手の思考まで可視化する分科会の実践
最後に、金融庁サステナブルファイナンス推進室の髙岡文訓室長は、投資を通じて社会課題解決と投資先企業の価値向上、投資リターンの確保を同時に目指す「インパクト投資」について説明。「地域にポジティブな効果をもたらしながら収益性を高めようとするローカルゼブラ企業への金融面での支援には、インパクト投資も有用である」と言います。
2023年11月には官民連携の「インパクトコンソーシアム」を設置し、テーマ別に4つの分科会を運営。中でもローカルゼブラ企業と関連が深いのが「地域・実践分科会」です。この分科会では、昨年7月から、地域の資金の出し手と事業者の良い組み合わせを探るべく、事例集を取りまとめています。どのような観点でファイナンスに踏み出したか、どのように資金の出し手とコミュニケーションを取ってきたか、といったプロセスや考え方までまとめる予定です。
https://impact-consortium.fsa.go.jp/

インパクトコンソーシアムの特徴として、髙岡氏は、金融機関だけでなく事業者もメンバーに含まれていることを挙げました。金融機関側は事業者のインパクト創出と事業性のつながりをどう見るか、事業者側はインパクトを伝えながら事業成長を図る方法を金融機関等にどう発信するか、それぞれの観点から議論しているといいます。日本のインパクト投資残高は現在約19兆円とされ、着実に増加しています。一方、欧米と比べればなお伸びしろがあり、今後は認知の向上から実践の広がりへとフェーズを移していくことが課題だと述べました。
地域エコシステムの鍵となる”中”の存在
各省庁のピッチのあとは、パネルディスカッションが行われました。
まず話題になったのは、各省庁の取り組みに共通する課題です。髙岡氏は「インパクトをどう評価し、可視化するか、そしてインパクトと収益性をどうつなげていくかが共通の課題」と振り返ります。ゼブラ企業の取り組みが短期的利益に直結しなくても、公益性に資するものとして国が中長期的に評価していくこと。それが、単年PL主義に偏りがちな経営判断に変化を与えていくのではないか、といった意見も交わされました。
続いて議論されたのは、エコシステムづくりのアプローチについて。植竹氏は「単なる連携ではなく、お金を出す仕組みも含めた、自立した小さな地域モデルをつなげていくことが大切」と主張。倉石氏は、そうしたエコシステムを作る上で「特に兄姉ゼブラの存在が重要*」と述べました。伊奈氏も、今年度は経産省として、兄姉ゼブラと子ゼブラ企業を組み合わせる支援をしたいと考えており、兄姉ゼブラの可能性に各省庁が目を向けていることが伺えました。
*子ゼブラ:創業・成長期の比較的若いゼブラ企業
*兄姉ゼブラ:地域や産業のリーダー的存在として、子ゼブラの規範となり共創を促すゼブラ企業
*親ゼブラ:全国規模で事業を展開し、新規事業やCVC等により企業や事業を育てられるゼブラ企業

最後は、地域と大都市や大企業との共創について語られました。朝日氏は「大企業にとってのメリットを提示すること」が重要だと指摘。地域への投資が自社や都市の存続にどう必要か、それを可視化する重要性を言います。伊奈氏も「地域が大企業と連携するだけではなく、そこをつなぐ老舗企業や中規模都市、地域金融機関といった「大中小の”中”」の存在が大切」だと語りました。翻訳者として、地域と大企業・大都市をつなぐ役割が期待されています。
発表会全体を通して、各省庁の施策が別々に進むのではなく、インパクト評価やエコシステムづくりといった共通言語のもとで、徐々に”面”としてつながりつつあることが感じられました。昨年度までの実証的な取り組みは、今年度、モデル化・横展開のフェーズへと進んでいます。ゼブラ企業を含む多様な関係者が、地域・都市・官民の垣根を越えてつながりながら、「共創」による地域社会の持続可能性向上を目指していく。そんな次のステージへ進んだことを感じさせる発表会でした。

PROFILE
Fumiaki Sato
編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。