2026.07.30 ZEBRAS

『ファイナンスをめぐる冒険』著者と学ぶ、インパクト投資3.0時代のイノベーティブ・ファイナンス


『ファイナンスをめぐる冒険』著者と学ぶ、インパクト投資3.0時代のイノベーティブ・ファイナンスのイメージ

複雑化する社会問題や不安定な世界情勢にどう向き合うのか。そして、今ある課題の解決を担わざるを得ない次世代への責任を、私たちはどう考えるのか。既存システムからいかに最適解を導くかではなく、システムの基盤自体をシフトする必要性が叫ばれる今、私たちの社会を取り巻く金融システムは、どう変化していくべきなのでしょうか。

桜が満開を迎えた4月3日、東京・日本橋の大学院大学「至善館」スペースで、「会社の目的に適した資本とは何か。実践者とともに、これからの資金調達を考える」と題したイベントが開催されました。

この企画は、ゼブラ企業やパーパスドリブン(目的志向型)な事業に関わる起業家・投資家・支援者・研究者など、多様な実践者が集い、日本におけるイノベーティブ・ファイナンスの現在地と可能性について考えることを目的に、「Zebras and Company」(以下、ゼブラアンドカンパニー)、「The ImPact」、「Innovative Finance Initiative(以下、IFI)」、「Tokyo Zebras Unite」が共催しました。

前半の基調講演は、IFIの共同創設者でありオックスフォード大学教授、Aunnie Patton Power(オニー・パットン・パワー)さんが登壇。ゼブラアンドカンパニーが監訳した書籍『ファイナンスをめぐる冒険』の著者でもあります。続く後半のパネルディスカッションでは、株式会社「陽と人」代表取締役の小林味愛(こばやし・みあい)さん、「Coral Capital」創業パートナーの澤山陽平(さわやま・ようへい)さんがゲストとして参加し、モデレーターはゼブラアンドカンパニーの田淵良敬(たぶち・よしたか)さんが務めました。

キャプション:オニー・パットン・パワー 著/月谷真紀 訳/Zebras and Company 監訳『ファイナンスをめぐる冒険――組織のパーパスに適した資金調達はどうすればできるのか』英治出版、2024年

当日のイベントには、社会起業家やゼブラ企業、金融機関、省庁や自治体職員など約120名以上が詰めかけました。本記事では、これからのインパクト投資、日本での発展の可能性を予感させたイベントの基調講演とパネルディスカッションをレポートします。

インパクト投資は3.0へ。必要とされるイノベーティブ・ファイナンス

Aunnie Patton Power(オニー・パットン・パワー)金融・インパクト投資に関する研究者・実践家。オックスフォード大学サイード・ビジネススクール講師、Skoll Centre for Social EntrepreneurshipのEntrepreneur in Residence。ケープタウン大学ビジネススクールの非常勤講師、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員。女性エンジェル投資家グループ「Dazzle Angels」の創設メンバーでもある。2010年にバンガロールのユナイタス・キャピタルでインパクト投資のキャリアをスタートさせ、以来、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米の新興企業、仲介業者、ファンド、ファミリーオフィス、財団、企業、政府などと協働してきた。

基調講演は、およそ20年前に生まれたというインパクト投資がどういうもので、これまでどのように進化を遂げてきたのかについて、インパクト投資の業界に携わって16年のキャリアがあるオーニーさんによるインプットから始まりました。

オーニーさん「社会的にいいこと、経済的にいいことは両立可能か。インパクト投資という概念はまさにこの問いから始まりました。そして何年かの試行錯誤を通じて、それは可能であることがわかりました」

  • インパクト投資1.0:社会的インパクトと経済的利益は両立できるかの問いからスタートした。ただし、現状はインパクトと財務リターンのトレードオフについて着目し、従来の金融構造(VC、プライベートエクイティ、融資など)を活用していたフェーズ
  • インパクト投資2.0:社会的インパクトと経済的利益は両立可能であることが実証され始める。インパクトと財務リターンの本質的なトレードオフは存在しないことを示す。公的債務や株式の活用拡大、インパクトボンドなどの独自構造の創出などを行ってきたフェーズ
  • インパクト投資3.0:環境・社会面での喫緊の課題と、それに取り組むことによる財務上のメリットが広く認識されるようになったこと。また、市場には、制度・プロセス・インセンティブの設計に起因する構造的な失敗が存在しており、その是正が求められていること。これらの両側面から、従来の金融スキームや投資プロセス、インセンティブ設計を見直す動きと並行して、インパクトが金融の主流に位置づけられていくフェーズ

オーニーさんが推進するイノベーティブ・ファイナンスは、このインパクト投資3.0に紐づいた動きだといい、以下のように定義しています。

社会的・環境的にポジティブなインパクトを生み出す企業や取り組みに資金提供するためのアプローチ。利用可能なあらゆる金融およびフィランソロピーツールを活用して企業の成長を支援し、適切なツールが存在しない、または機能しない場合には新たに創出することも含まれる。”

キャプション:アウトカム(≒インパクト)が起点となって、事業や企業体、資金調達の形、そこに関わる資金提供者を遡って考えていくというアプローチが紹介された(オーニーさんの発表資料より)

オーニーさん「従来のファイナンスは、資金提供者がいて、何らかのファイナンスを用意し、それによって企業をサポートすることで、社会的・環境的なインパクトをつくる流れになっています。では、この順番が逆になるとどうでしょうか。インパクトを起点にして、そのためにはどんな企業や取り組みが必要で、どのような資金提供が意味をなすのか、どのような資金提供者が必要なのか。こうしたファイナンスは傾聴を必要とし、いろいろなタイプの協業パートナー、ファウンダー、資金提供者が関わってきます。法的な枠組み、デュー・デリジェンスのプロセス、出口戦略、インパクト、インセンティブ。 全てが意思決定につながることで、本当にインクルーシブで、インパクトにフォーカスを当てたような金融システムを構築することができます 」

新しい仕組みをつくるということ

インパクトを中心に、ファイナンスを考えるというあり方は、同時に新しい仕組みをつくり出すことも示唆しています。基調講演の中で、オーニーさんはいくつかのファイナンスのパターンについて紹介しました。

オーニーさん「インドのバイクシェアリングの会社『Cymour』のケースは、収益連動型の融資の事例です。多くの場合、スタートアップは銀行融資で必要とされる担保を有しておらず、かといってフェーズの浅い場合は株式を売ることも現実的ではありません」

収益連動型ファイナンスは、直近の売上のデータを参照しながら融資を開始し、売上の一部を返済に充てるもの。無担保で調達ができるという利点があるといいます。

別のファイナンスのケースはアメリカにもありました。

オーニーさん「『My Turn』は、ユーザーがものを新しく購入せずに、ものを借りることができる事業です。彼らが選択した「償還可能株式」とは、資金調達の際に、手放した株式を将来的に償還(買い戻すこと)ができるものを指し、売り上げに応じて一定割合で行うか、将来一括で買い戻すかを選ぶことができるものです。MyTurnの創業者は14年かけて株式を償還し、いまだに株式を保有しています」

その他、償還可能な助成金の事例などにも触れた後、最後に紹介されたのは、インドネシアのコーヒー組合が行った、サプライチェーン・ファイナンシングの事例です。

キャプション:サプライチェーン・ファイナンシングの仕組み(オーニーさんの発表資料より)

オーニーさん「多くのサプライチェーンは、資金繰りに苦労します。このコーヒー組合も例外ではなく、バイヤーに買ってもらうコーヒー豆を収穫するのに4ヶ月間を要していました。サプライチェーン・ファイナンシングでは、まず融資提供をする『Beneficial Returns』が3ヶ月分のローンを組合に貸し付け、作物をバイヤーである『THIS SIDE UP』に買ってもらい、その対価は直接『Beneficial Returns』に支払うようにする形です。こうすることで、組合は資金調達のコストを何ヶ月も節約できるようになるのです」

資本の設計を変えれば、社会的インパクトの高い事業が、より低いコストで成長資金を得られるようになる。つまり、どの事業・誰に資本が配分されるかという構図自体を変えるということでもある、とオーニーさんは説明しました。

日本のイノベーティブ・ファイナンスの現在地を探る

キャプション:パネルディスカッションに登壇した4名。写真左から、陽と人の小林さん、Coral Capitalの澤山さん、IFIのオーニーさん、ゼブラアンドカンパニーの田淵さん


オーニーさんの基調講演のあとは、パネルディスカッションへと移ります。まず、話題に上がったのは日本の金融市場の変遷について。田淵さんは、バブル期前の日本ではむしろゼブラ的な企業が多く、欧米型投資やスタートアップやVC、ESG投資のような概念が入ってきたのはバブル崩壊後であり、2000年代に入り、資本や社会課題への向き合い方が大きく変わってきたこと、近年はZ世代をはじめとする若い世代の価値観の変化なども相まり、現在のゼブラ企業やインパクト投資の文脈ができたのではないか、と投げかけました。

世界の他の国や地域と同様に、日本でもインパクト投資への認知は年々高まっている一方、未だ多くの組織の体制や金融の仕組みは伝統的な金融モデルに準拠しており、なかなかアップデートができていないという実態もありそうです。

キャプション:「株式会社陽と人」代表取締役の小林味愛さん。福島県国見町で規格外農産物など、これまで価値がつきにくかった地域資源を活かしながら、福島の農業を「稼げる持続可能な産業」にすることを目指す。さらに廃棄されていた柿の皮の有効成分に着目し、研究・商品開発を行い、フェムケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」も展開しており、都市で働く女性の生きやすさを高めることにも取り組む

ゼブラアンドカンパニーの投資先第一号の陽と人は、福島の農業課題と女性の課題解決を両輪で進めるゼブラ企業です。代表の小林さんは、自身の事業に必要な資金調達を行うなかで実際に感じた葛藤を共有しました。

小林さん「私は、いろいろな人や地域の文脈に自分を合わせていくことを強みとしてきましたが、スタートアップやファイナンスの世界は、文脈の違いが大きく、指数関数的成長や、経済的利益を偏重するところも多く、そのギャップがとてもつらかったのです。地域のペースや文化、人間関係といった譲れないものを守ろうとすると、『女性は本当に上を目指さないね』といった言葉を投げかけられることもあり、自分のやっていることに意味があるのか、とアイデンティティが揺らぐほど悩んだ時期もありました」

今から10年ほど前にシリコンバレーのベンチャーキャピタル「500 Startups(現・500 Global)」と共同で1号ファンドを立ち上げ、2019年に「Coral Capital」を立ち上げた澤山さんは、日本のスタートアップ・エコシステムの醸成に奔走してきました。澤山さんは、起業家と資金提供者の感覚のズレには金融の持つ性質が影響しているのではないかと話します。

キャプション:Coral Capital創業パートナーの澤山陽平さん。Coral Capitalは、シード〜アーリーステージのスタートアップを中心に投資する日本発のVC。資金提供だけでなく、人脈・人材・知見を中心とする起業家が成長するためのプラットフォームを構築する「エコシステムVC」として、日本のスタートアップ・エコシステムを牽引してきた

澤山さん「金融や資本主義は、メインストリームに非常に最適化されているものだと思うんです。アイデアや、事業、サービスを、資本主義というエンジンがものすごい速度で回して世界中に放出しているから、10年で世界が変わる。だからこそ、VCの目的は、そこに最適化して、同じパターンを再生産するという構図になりやすい。僕はこれを“金融のネイチャー”だと思っています。ただ、一方で、そうじゃないものがあってもいいと思います。エンジェル投資家やファミリーオフィスなど別の資本と出会うことで、結果として、スタートアップの事業から出た利益が社会課題解決や地域づくりなど、もう少し自由で多様なお金の流れにも広がり始めているのが今なのではないでしょうか」

誰もが目的にあった資本を選べる未来

新たな資本のあり方を実践しようとするVCや、投資家、スタートアップの数は日本でも年々増えてきています。

Coral Capitalは2016年、日本版のSAFEともいわれる「J-KISS(Japan-Keep It Simple Securityの略)」を無償公開しました。SAFEとは、米国発の“将来株式をシンプルに約束する契約”でコンバーティブル投資手段と呼ばれるものの一種です。J-KISSはそれを日本の法律と投資慣行に合わせて、投資家の保護も含めてつくり込んだ日本版を指し、多くのシード期の起業家がスピード感を持って資金調達を行うために活用してきています。

ゼブラアンドカンパニーは、資金提供者と対話するためのゼブラ企業向けタームシート「LIFE type1」 を2022年に発表。事業の成長や出資金額の話をする前に、「なぜその事業を始めたのか」といったパーパスや「どんな社会課題の解決を目指すのか、どのようにそのインパクトを起こす設計をしているのか」を掘り下げていくようにしています。一方で、対話を重視するため時間がかかってしまう難点もあり、今後改善していく予定だといいます。

キャプション:日本では、社会性と経済性を両立するゼブラ企業のモデルが注目を集め、政府の政策にも組み込まれるなどしているなか、資金調達の現場では、まだまだ課題が残っているのも事実。「日本独自の文脈を活かしながら、グローバルな知見を取り入れ、新しい金融手法の開発と普及に取り組むことが重要だ」と述べた田淵さん

さらなる変化が期待されるなか、イベントの最後に、登壇者3名に、日本の金融の未来に向けて何が必要かを問いかけました。

澤山さん「最近強く感じているのですが、実は金融って思っているより自由なんじゃないかという感覚を持ち始めています。VCから投資したらスタートアップはIPOしなきゃいけないというのがこれまで主流だったと思うのですが、適切なガバナンスさえやっていれば、上場をしなくてもいいんじゃないかとか、そういう制約が和らいできているように思います。そうなると、株主構成だとか資本政策だとか、途中でいくらでも変えていける。私がファンドを立ち上げる時も本当に何人に話をしたか覚えていないぐらいなので、とにかく諦めずにやり続ける。 自分たちが大切なところをしっかり見極め、それに共感してくれる人とのつながりを増やしていく。それが新しい金融の形になってきているのかなと思います」

小林さん「私は、立場を超えて一緒に探究してくれる人たちがもっと増えたらいいなって思うんですよ。私が未だにわからないのは、本当に私たちはインパクト投資領域の企業なのかどうかということです。こういう事業をしていると、なんとなくインパクト投資系だと思われがちなんですが、福島の生産者の課題を解決するなかで、インパクト評価をすると成果が数値で出てくる。だけど、その計測可能なインパクトだけを本当に最大化させようと思ったら、私はもっとビジネスを大きくして、 他の大きな企業や団体と同様のやり方をやった方がいいわけです。でも、そうすると地域が大事にしてきた文化や関係者の人としての人生や気持ち・大切にしている価値観など失うものも出てくる。だからそのバランスを常に考えることが大切なのではないかと。

だとすると、私はインパクトを出すためにやっているとか、わかりやすい課題を解くためにやっているとかよりも、『解き方の探究』をしているのかなと思いました。言い方を変えると『解き方を解いている』ということ。金融も多分一緒で、こういう課題を解決するというより、課題をどう解いていくかという、この解き方を一緒に探究できる金融の人たちと出会えたらいいなと思っています」

オーニーさんも二人の言葉に続きます。

オーニーさん「ここにいるみなさんは、既存のアプローチに限界を感じたり、もっと異なる、たくさんのアプローチがあるはずだと思っているから、今日のイベントに参加していると思います。もっと多くの人、いろいろな人の力が要ると思います。 どういったアクションがそれぞれの地域にとって必要なのか、現場にいる人たち自身が解決策というものを見極めていく必要があると思っています。集中していた富や力を分散し、そして集団としての力を伸ばしていく。 より良いインパクトを目指す企業が、たくさんの知見を得ながら、今後も成長していくことが必要だと思います」

(2026/7/29 更新)

Zebras and Companyでは現在、

・ファイナンスオフィサー(ゼブラファイナンス/リード)【正社員】
・クレジットオフィサー(ゼブラファイナンス/実務)【正社員】
を募集しています。

私たちが取り組んでいるのは、既存の金融の仕組みに企業を当てはめることではなく、企業の目的に適った資本や仕組みを設計することです。

次の時代に必要なファイナンスの仕組みを自分たちの手でつくりたい方のご応募をお待ちしています。

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PROFILE

岩井美咲

インタビュワー、編集者、コミュニケーションビルダー。起業家のコミュニティ運営と、さまざまな分野の事業家とのインタビューや事業伴走の経験を活かしながら幅広いジャンルの企画立ち上げや取材執筆、コンテンツ制作を行う。「エンパワメント」をテーマに誰かの背中を押し、アクションのきっかけになる仕事を志す。