2022.02.16 ZEBRAS

スタートアップの聖地オランダで今年最も注目すべきスタートアップにゼブラ企業が3社。最旬のミッションは「総合的インパクト可視化・モビリティ・フードロス」


スタートアップの聖地オランダで今年最も注目すべきスタートアップにゼブラ企業が3社。最旬のミッションは「総合的インパクト可視化・モビリティ・フードロス」のイメージ
Freepikより

独スタートアップ専門「EU-Startups」が選ぶ今年のオランダ注目企業10社

ドイツ・ミュンヘンに拠点を置くスタートアップ専門メディア「EU-Startups」はここ数年、その年に注目すべきスタートアップ10社をピックアップしていますが、近年はスタートアップの聖地(メッカ)としてオランダに注目しています。

背景には、有能な人材の多さ、インキュベータープログラムの充実(起業のしやすさ)、テクノロジー分野の急成長の「三位一体」。その他、それを支える優れた高等教育のシステム、AI分野への政府による投資などを挙げています。

一方で、人にもビジネスにもオープンな文化や、干拓と航海の歴史から脈々と続く起業家精神などがベースにあるという指摘も。

同メディアは今年1月、「2022年とその後に最も注目すべき、並外れて有望なオランダの10のスタートアップ」というレポートをリリースしました。

Eコマース、フィンテック、人材リソーシングなど、さまざまな分野から2019年以降創立の有望スタートアップがランクイン。しかし、オランダの社会貢献好きな国民性や時代を反映してか、そのうちの3社はミッション主導型ですでに軌道に乗っているゼブラ企業という結果に。

それぞれのミッションは、モビリティ、フードロス、そして筆者が個人的にも注目している「消費財が環境・社会に与えるインパクト(本質的なサステイナビリティ度)を総合的にアセスメントする計測技術」。

スタートアップの聖地オランダで最新・最注目のゼブラ企業3社とはどのようなものか、さっそく見てみましょう。

複雑なサステイナビリティ指数の総合アセスメントに挑む「Dayrize」

Dayrize公式サイトより

まずは、筆者が個人的にもイチ押しの2020年設立の「Dayrize」。

環境へのダメージやCO2排出量といった話題でよく使われる「フットプリント」という概念が一般的になって久しいですが、同社はその総合的計測のプロフェッショナル。共同設立者のうちの一人は、サステイナビリティ大国オランダの大手サステナ系コンサルタント会社CEOであるEva Gladek氏です。

同社はそのサステイナビリティに関する知見と経験、同じ志を持つ専門家の力を集結して、「製品が、原材料からその役目を終えて廃棄された後までのライフサイクルの中で、環境や社会などあらゆる領域に与える影響(サステイナビリティ度)を総合的にアセスメントするツール(Dayrize Sustainability Assessment Tool)」を開発。

また、そのツールではじき出された「Dayrizeスコア」が一定以上と評価された商品だけを集めたオンラインショップも運営しています。

同社の目的は、企業と消費者に対して消費財の社会的・環境的影響を「見える化」し、「地球の限界を超えない」消費活動をサポートすること。すでに500以上のブランドと提携し、数千点の製品に「Dayrizeスコア」を付与しています。

すべての人にグリーンなモビリティで人と都市をつなぐ「Go Sharing」

Go Sharing公式サイトより

次にご紹介するのは、2019年創立・ユトレヒト発の100%電気モビリティ企業「Go Sharing」。

起業のねらいは、環境にやさしい100%電気利用のモビリティ(自転車・スクーター・自動車)を街中に配置することで、個人所有の自動車やそれによる環境負荷を減らすこと。

近年QOLや環境問題の文脈で世界中の都市が対応を急いでいる「MaaS(ITの力でマイカー以外の交通手段の快適な利用網を築くこと)」の分野で、「ゼロエミッション時代の新進気鋭のスタートアップ」と大注目を浴びています。

利用方法はスマホがあればいたって簡単。アプリをダウンロードすれば、まず今自分が使いたい種類のモビリティ(のうち、現在利用者がいないフリーなもの)が街のどこに停車しているかが地図上に表示されます。

最寄りのものを予約すれば、15分後(最寄りのモビリティにたどり着くまでにかかると想定されているデフォルトの時間)から課金が始まり、分単位(電動自転車は€0.23/分、電気自動車は€0.30/分)で支払うこともできれば、お得なパッケージで前払いすることもできます。

街中にハブ(パーキングスポット)があるので基本的に「乗り捨て」でき、アプリで利用が完了したことを申請すればそこで利用終了となり、モビリティはその場所で次の利用者を待つことになります。

すべてのモビリティはバッテリーの残量と位置がシステムを通じて把握されており、「パワーレンジャー」と呼ばれる充電部隊(もちろん電気自動車)が街を巡回して満タンのバッテリーと交換しています。

悪用や苦情、故障の報告もオンラインで簡単に寄せることができるため、サービス開始から数カ月でおおむねマナーを守って利用してもらえるようになったとのこと。

2021年4月に投資会社が事業拡張資金の5000万ユーロを投入したことも話題となり、イタリア、ベルギー、ドイツ、オーストリア、トルコなど海外にも進出。BMWも提携に名乗りを上げ、同社の象徴である「MINI Cooper」も選択肢に加わりました。

現在、オランダ国内では30都市で利用可能ですが、今後もこのモビリティハブプロジェクトをより多くの都市に展開し、人と地球の幸福に貢献したいと勢いに乗っています。

フードロスとAI技術で戦う「Orbisk」

Orbisk公式サイトより

最後は、同様に2019年ユトレヒト発の「Orbisk」。フードロスを減らすためのAIテクノロジー専門のスタートアップです。

最大の売りは自社開発のスマートメーター。ゴミ箱に取りつけるカメラとはかりで、食べ残しや利用されなかった食材を廃棄するたびに「なにが、なぜ、何グラム廃棄されたか」を自動で分析し、さらに次のアクションの提案をしてくれます。

主にフードサービスの分野で、効率的な仕入れや仕込み、メニュー開発に役立つと評判で、一店舗当たり平均で年間数千キロの食品が節約されることにより、持続可能性と収益性に貢献しているとのこと。

 2021年にそのテクノロジーが認められ、EUイノベーション評議会から240万ユーロの助成金を獲得して事業拡大にいそしんでいます。2025年までに世界の厨房から年間1億キロ以上のフードロスをカットすることを目指しているそうで、心強いかぎりです。

さて、今回はオランダから2022年に注目すべき若きゼブラ3社をご紹介しましたが、気になる企業はあったでしょうか?

日本国内でもフードロス削減のためのスマートメーターをインターコンチネンタルホテルが導入したり、MaaSに関してもトヨタが「自動車メーカー」から「モビリティカンパニー」への変身を打ち出したりといった動きはありますが、これをスタートアップが行動に移し、快適さや楽しさでどんどん多くの人を巻き込んでいく流れが、いかにもオランダらしい気もします。

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。