2022.07.15 EVENT

アジアの社会的投資のトレンドと課題 〜アジア最大の社会的投資カンファレンスAVPN2022で感じたこと〜


アジアの社会的投資のトレンドと課題 〜アジア最大の社会的投資カンファレンスAVPN2022で感じたこと〜のイメージ

こんにちは。Zebras and Company(以下「Z&C」)共同創業者の田淵です。

先日6月21日から24日の間にインドネシアで開催されたAVPNというアジア最大級の社会的投資カンファレンスに参加してきました。

今回はカンファレンスセッションで話されていたアジェンダや、アジアで活動する最前線のプレイヤー達との個別ディスカッションから見えて来た、最前線が今注目するトピックをお届けします。

AVPN(Asian Venture Philanthoropy Network)とは

2012年にイギリスのキャメロン首相の呼びかけによってG8国から始められたGlobal Steering Groupをはじめ、社会的投資が国レベルでのアジェンダになってきています。

そのような流れの中で、世界の主要20カ国の代表が集まり経済や財政について議論するG20サミットが今年インドネシアを議長国として開催されています。AVPNは政府のアドバイザーに任命され、G20サミットの最も重要な三つのサイドイベントとして位置付けで開催しました。

コロナ発生以来二年ぶりとなるリアルイベントが6月21日〜24日までインドネシアのバリ島で開催されました。

参加者はアジア各地から約1,100人もの人が集まり、一ヶ月前には2,000ドル以上するチケットが全て売り切れるという状態でした。

 インパクト投資業界の草分け的存在のアメリカのAcumen創業者のJacqueline Novogratsをはじめ多くのスピーカーを呼んで、40カ国の人が集まりました。

私もZ&Cとして参加してパネルへの参加や多くのミーティングを行ってきました。

実は日本の社会的投資市場発展にも貢献したAVPNとその創始者

AVPNはその名の通り、ベンチャー・フィランソロピーと言う手法をアジアで広めるために創られました。

ベンチャー・フィランソロピーとは、金融のプライベートエクイティの手法を社会的な資金として適用することで、より効果的な資金提供を社会的企業へ行おうという発想の手法です。欧米のプライベートエクイティ業界で活躍してきたDoug Millerが2004年にヨーロッパでEVPAというネットワーク組織を作り、成功を収めたことから2011年にアジアへの横展開を始めました。

(その頃私はちょうどヨーロッパのビジネススクールを卒業する時期で、ビジネススクールで学んだことをソーシャルセクターで活かせないかと模索していました。EVPAに働いていた友人から、これからAVPNが作られようとしていることやDougのことを教えてもらったことを覚えています。)

その後、AVPNは11ヶ月で100名を超える加盟メンバーを集め、6年間で500名まで成長しました。私が初めて参加したのは2015年のシンガポールで行われた年だったと思いますが、その頃はシンガポール国立大学のキャンパスを借りて行っていました。今回は、参加者数は1,100名、開催場所もホテルウェスティンと併設された国際会議場。またG20のオフィシャルサイドイベントになったことなども考えると、当時から成長(?)したんだなと思います。

今回、最終日にDougとも個別にミーティングをしてきたのですが、EVPAを始めた初年度は自分を入れて運営者二人でやっており加盟メンバーも8名しかいなかったと懐かしそうに言っていました。

 実は、Dougは、日本の社会的投資市場形成にも大きく貢献しています。2011年に来日してプライベートエクイティ業界の関係者を集め、ベンチャー・フィランソロピーに関して説明を行いました。30人程度が集まった中で、そのコンセプトに共感した関係者7名が日本で初めて本格的なベンチャー・フィランソロピーを始めたソーシャル・インベストメント・パートナーズ(私の前職)を設立し、日本の社会的投資の草分け的存在となりました。その後、Dougはソーシャル・インベストメント・パートナーズが日本財団と共同で創設した日本ベンチャー・フィランソロピー基金への資金提供者にもなっています。

AVPNから読み解く海外のトレンド

イノバティブファイナンスの登場

イノバティブファイナンスやカタリティックキャピタルという言葉をよく聞きました。イノバティブファイナンスとは、従来の金融手法とは違った革新的な手法を用いたファイナンスのことを指し、ゼブラ企業向け投資もそこに含まれると思います。カタリティックキャピタルとは日本語で言うと「触媒的資本」で、他の投資家から投資を受けられるようにするための新たな投資への化学反応を起こす触媒的な役割を持つことからそう呼ばれます。

私が参加したパネルディスカッション「New Models of Innovative Finance for Missing the Middle」では、新たな取組をしている投資家が登壇していました。シリコンバレーや日本のように多くの(特にアーリーステージ向け)投資家が存在せず、企業成長にも時間がかかりがちなミャンマーでは、アクセラレータープログラムに一般的な事業強化支援の他に、Innovative fundと呼ばれるグラントを段階的に、絞り込んでいったプログラム参加者の起業家に提供する事で、投資家からの資金調達までの道のりを支援しています。

例えば、ミャンマーのEME Myanmarは、笹川平和財団Village Capitalと協業して、Santhit Acceleratorというプログラムを今年ローンチしました。これによって、スタートアップは長期的な目線で事業に取り組むことができるという希望が語られていました。

フィランソロピー(寄付)からインパクト投資へ

AVPNは、上述した通りベンチャー・フィランソロピーという手法を広めようとはじまったもので、歴史的に財団などフィランソロピー系の参加者やパネルのテーマが多かった印象がありますが、今回は投資にフォーカスした話も増えていたような印象を受けました。

私が出席した「The Growth of Impact Driven Family Offices in Asia」というパネルでは韓国、インドネシア、香港のファミリーの家系の次世代の方(見た目からは20-30代くらいの印象)という三人のスピーカーが登壇していました。

彼らはヘッジファンドやベンチャーキャピタルなどを経験してから家業に戻っています。

そのため、金融業界で学んできた手法を生かして社会的インパクトがあってしっかりと利益が出せる投資をすることに主眼が置かれている印象を受けました。おそらく、従来のファミリーオフィスは、運用としての投資あるいはフィランソロピーと明確に分けて運用されることが多かった中で、よりインパクト投資という概念が根付いてきているのではないかと思います。

テクノロジー とインパクトのコラボレーション

カンファレンス初日にAVPNのCEO Naina Subberwal BatraからGoogle.orgアジア開発銀行、AVPNによる3百万ドル(約3.9億円)のAPAC Sustainability Seed Fundを立ち上げたことが発表されました。日本を含むアジア・パシフィック地域の11ヵ国を対象として気候変動対策に取り組む非営利組織を対象に資金提供されます。また、資金提供だけでなくGoogleから技術や社員によるサポートを受けられることも特徴の一つです。昨年だけでもこの地域で57百万人の人が豪雨、海面上昇といった自然災害に見舞われました。アジア開発銀行によるとアジア・パシフィック地域は島国が多く気候変動による影響を最も強く受ける地域だと言われています。

低コストでスケールが可能なテクノロジーは、インフラが発展していない地域で民間主導でインフラ構築を可能にする手段の一つとなり得ますが、テクノロジーを使って社会課題を解決するという動きも増えてきているように感じます。

ゼブラ企業向けイノバティブファイナンスを模索する海外の投資家たち

今回、食事の席なども含めて、起業家、投資家・起業家支援組織、アセットオーナー(自己資産を投資家に預ける人)など30人以上と個別に話し、ゼブラ企業やZ&Cの取り組みについての説明しました。

その中でも特に、投資家・起業家支援組織からはゼブラ企業やZ&Cの事業への理解や共感が大きかったと思います。ゼブラ企業という言葉は使っていなくても、私たちと同様に、ユニコーン企業ではなく社会的インパクトを創出している企業のエコシステムをどう作るかということを考えている人たちは、海外にも多くいるということ、またその人たちはそういった企業向けのイノバティブなファイナンスの仕組みを模索・開発しようとしていることを感じました。

 例えば、アメリカに本拠地を置きながら世界中の起業家支援を展開するAspen Network Development EnterprisesのManaging Director, Kyle Newellは、彼らが提唱しているSGBという近い考えを持っていました。マイクロアントレプレナーと呼ばれる、自分で育てた農作物を売って生計を立てるような方の支援もしていますが、そういった方ではなく、社会課題解決のために何十人、何百人といった社員を抱えて事業化していくような起業家(しかし、ユニコーン企業のような巨大企業ではない)をそう呼んでいます。彼らの場合は、マイクロアントレプレナーとの比較から入っている点ではユニコーンとの比較から入ったゼブラ企業とは入り口が違いますが、対象とする企業には通ずるものがあります。

その他にも欧米、東南アジアを中心に起業家支援などを行うSecond Muse(彼らはアメリカでZebras UniteGates Foundationと協働もしています)、フィリピンの投資家であるxchangeVillgro Philippinesなどもそれぞれにゼブラ企業的な社会的インパクトを創出しながら必ずしもユニコーンのような成長曲線を描かない企業への支援のあり方を模索していました。

アジアのイノバティブファイナンスを目指す多くの投資家が直面する課題

一方で、今回会話した人たちは皆同様の課題も抱えていました。ゼブラ企業への投資を考える多くの人が共通して抱えている課題と、話す中で興味を持ってもらったZ&Cの仕組みを説明したいと思います。

起業家に投資するには投資ファンドを組成するのが最も一般的ですが、海外では投資ファンドは2:20モデルと言われ、ファンドの運営者は年間2%の管理報酬と20%の成功報酬を得るのが一般的です。そのため、ファンドを運営するには、二つの要素が重要となりますがゼブラ企業のような企業へ投資する場合、皆この両方でつまずいてしまいます。

課題1:ファンド期限が投資先の成長速度とEXITの大きさを求める

投資先の上場又はM&Aによってexitするとそこで得る利益の20%を成功報酬として運営者はもらいます。したがって、投資先の企業価値が大きくなることが重要です。また、投資ファンドは10年という運営期間の中で行われるため一般的に個々の企業には5年程度で上場やM&Aを求めることになり、比較的短期間で企業価値が大きくなるかが重要です。(従来の投資ファンドの仕組みについてはセコイアキャピタルに関するこちらの記事参照) 

ゼブラ企業の成長曲線は必ずしも5年で上場するものでもないため、一般的なファンド運営期間の中で企業価値を最大化させることが難しくなってしまいます。

課題2:ファンド運営者の活動費=投資ファンドの規模

管理報酬はファンド規模の2%となるため、大きなファンドを運営するほどフィー収入が大きくなります。例えば、1億円のファンドを組成しても年間200万円のフィー収入しかなりません。この管理報酬が人件費などのファンドの運営費に当てられるため、一定の規模がないとファンドを運営することが難しくなります。

しかしゼブラ企業向けのファンドとなると新しいコンセプトと仕組みで前例も少ないため、いきなり大きな規模の資金を集めてファンドを組成することも難しくなります。

Z&Cも設立当初同様の課題を抱えましたが、多くの人との議論や試行錯誤した結果、ファンドではなく株式会社と種類株式を活用することによってこれらの問題を乗り越えた仕組みを作りました(下記Z&Cのストラクチャー図参照)。また、経営支援を通じて報酬を得ることで活動費を賄うことができ、またその経験は我々が目指しているゼブラ経営の理論化にも役立っています(下記Z&Cのセオリーオブチェンジ参照)。これは海外でも比較的新しい仕組みで皆さんにとって参考になったようです。

Z&Cと一般的なVCのストラクチャーの対比図
Z&Cのセオリーオブチェンジ

今回の学びと今後に向けて

今回AVPNで最も感じたことは、ゼブラ企業に対するニーズや新たな投資や支援の仕組みを作ろうとしている人たちは多くいるということでした。

特に、現場に近いファンドやアクセラレータをやっている人たちは敏感で、例えば、アジアでは今回会った人たちを含めて同様の問題意識を持った人たちが集まってソリューションについて協議しているFrontiers Lab Asiaという集まりがあることも知りました。 これだけの人が考えていると言うことは、ゼブラ企業のような企業の存在と彼ら向けの資金に対してアジアでもニーズがあることを確信しました。私が10年ほど前にインパクト投資の世界に入る際にも世界中の人がやり方を模索しており、似たような感覚があった気がします。投資というものから新たにインパクト投資というジャンルができたように、さまざまなタイプの社会起業家であっても彼ら向けの投資はインパクト投資と一括りにして呼ばれてきた手法が、より解像度高く、適した企業に適した資金のあり方に分かれようとしており、この流れは、今後より一層強まってくるのではないかと思います。

Z&Cでは、これまでもZebras Unite、スタンフォード大学で教えるDr. VicやCartier Women’s Initiativeと協業したり、海外に関する情報発信をしてきていますが、今回のAVPN参加やFrontiers Lab Asiaなどとの話を活かし、より一層グローバルな動きを捉え、情報発信やグローバルレベルでのソリューションを開発していきたいと思います。ここにお書きした内容を含めて、私が感じてきたこと、学んできたことを、よりリアルに皆さんにお伝えできればと思っており、次回7月29日(金)12:00からTokyo Zebras Uniteで運営するオンラインイベントZebras Cafeでお話しようと思っていますので、ご興味ある方は是非ご参加いただければ嬉しいです。

第21回Zebras Cafe 【AVPNで見えたアジアの社会的投資のトレンドとゼブラ】
7/29 (金) 12:00~13:00
Facebookライブ


参照

G20オフィシャルサイト
インドネシア観光省オフィシャルサイト
AVPN
Aspen Network Development Enterprise SGBについて
The Role of Entrepreneurship in Closing Gender Gaps in Myanmar

PROFILE

ゼブラ編集部

「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。