2022.07.25 INSIGHT

メディアとテクノロジーによるインパクト創出もゼブラ的。Z&Cが「エッセンス」西村勇哉さんの旅路に参加した理由


メディアとテクノロジーによるインパクト創出もゼブラ的。Z&Cが「エッセンス」西村勇哉さんの旅路に参加した理由のイメージ

 海外では2017年に「ゼブラ企業」の概念が提唱されて、5年が経過しました。日本でも2019年末から概念が広がり始めたゼブラ企業は、メディアで取り上げられる機会も増え、少しずつ認知も高まってきているのを感じます。
 一方、ゼブラ企業のイメージが本来よりも小さい範囲で固定化してしまっているのではないか、という危惧もあります。本当は、様々な業種業態の企業が、ゼブラ企業であり、ゼブラ投資の対象になり得ます。
 
 2022年7月25日、新たにゼブラアンドカンパニー(以下、Z&C)が出資を行うことになった株式会社エッセンス(以下、エッセンス)は、小さくまとまってしまいそうな、ゼブラ企業のイメージを広げてくれるはず。
 
 エッセンスは、NPO法人を経営していた西村勇哉さんが、そのNPO法人を母体として設立した会社。協同組合に近い性質を持つ組合型株式会社と呼ばれる新しい会社の運営形態をとり、テクノロジーを活用したメディアの開発・運用に取り組んでいます。

 この記事では、エッセンスという会社、そして西村勇哉さんという起業家のご紹介を通じて、ゼブラ企業という概念が捉える射程の長さや広さに触れてもらいたいと考えています。
 Z&C共同創業者/代表取締役の阿座上陽平が話を伺っている様子を通じて、わずかでもZ&Cと投資先の関係性も感じ取ってもらえたらと思います。

(左からエッセンス代表 西村勇哉さん、Z&C 阿座上)
西村勇哉
NPO法人ミラツク代表理事
株式会社エッセンス代表取締役
1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2011年にNPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、大手企業の新領域事業の立ち上げ支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。2017年10月から理化学研究所未来戦略室の立ち上げに参画、未来シナリオの策定プロセスに従事。2021年に知のアクセスの実現に取り組むKnowledge Tech領域を対象とした株式会社エッセンスを設立。2021年9月に自然科学、社会科学、人文学を領域横断的に扱う先端研究者メディアesse-senseをリリース。滋賀県大津市在住、3児の父。大阪大学社会ソリューションイニシアティブ特任准教授、大阪大学人間科学研究科後期博士課程(人類学)在籍。

エッセンスが目指す「知のアクセスの実現」

阿座上陽平(以下、阿座上):

西村さん、今日はよろしくお願いします。まず、エッセンスが手掛けている事業について教えてください。

西村勇哉さん(以下、西村):

はい。よろしくお願いします。エッセンスは、日常の中で知のアクセスを実現するWEBメディア「esse-sense.com」の運営を行っています。

「esse-sense.com」は、2021年9月16日のサービス開始時から、基礎・応用、自然科学・人文社会学・社会科学の多様な領域の研究者が持つ、専門分野としての深みと、独自のものの見方・捉え方の2面を伝えることを目指して運営してきました。

質の高い情報を発信するために、立ち上げ時から2019年論文の質ランキングで国内1位、世界9位の沖縄科学技術大学院大学と連携しているほか、14の大学・研究機関・関連組織との連携を行っています。

扱うトピックの専門性に加えて、東北大学大関研究室及び株式会社シグマアイと共同開発した独自アルゴリズムと機械学習システムを通じて、「いつもと少し違うけどもしかしたら感覚が合うかもしれない記事」を抽出して推薦しています。

メディアのリリースからの9ヶ月間で50本の記事を公開、月間読者数約1万人に届けながら、知のアクセスの実現に取り組んできました。

阿座上:

「esse-sense.com」は、最近のリニューアルでいくつか新たな機能も追加されましたね。

西村:

そうなんです。リリース直後から開発に取り組んできた機能がようやくリリースできました。より多彩で豊かな知のアクセスの実現を目指して新たにリリースしたのは、以下の3つの機能です。

  1. サイト内での読書行動をまとめ、データによって読者をつなぐ「知的交流SNS」
  2. おすすめの書籍をフォロー・フォロワー間で交換する「視野を広げるデジタル書棚」
  3. サイエンスコミュニケーターによる見どころコメントを加えた「解説付き先端研究ニュース」

メディアはソーシャルイノベーションの機能を果たせる

阿座上:

西村さんは元々ミラツクというNPOを経営されています。エッセンスを設立して、メディアを作ろうと考えたのはどういった背景があったんですか?

西村:

いくつかありますが、メディアの可能性に注目していたことが大きいです。ビジネスではなく、ソーシャルイノベーションとして見たときに、メディアは面白い領域です。私にとってメディアの役割は、マルティン・ルターによる宗教改革において果たしたことがイメージに近い。

ヨハネス・グーテンベルクが発明した活版印刷技術。これがあって、ルターは個人でありながら、大きな権力を持っていた当時のローマ=カトリック教会を批判する自身の考えを印刷でき、ヨーロッパに論争を起こせた。宗教改革という大きな変革をメディアは後押ししたのです。

何か起こりそうな変化はあるものの、あとひと押しが足りないというとき。メディアがあれば、その変化を後押しできる。メディアは、ソーシャルイノベーションを後押しする機能を持っていると考えています。

阿座上:

過去、様々な角度からイノベーションの創出に携わってきた西村さんが、メディアに関心を抱いていたのはそういう背景があったんですね。

西村:

そうなんです。とはいえ、今の形になるまでにはいくつものハードルがありました。会社を立ち上げて、今のメディアをリリースするまでに企画書を書き換えた回数は、はっきりと変えたものだけで合計で37回。心配性なので、実際の開発を始める前に色んな可能性を検討して、企画書の段階で周囲の意見をもらっていました。

37番目の企画書が今の事業のベースになっていて、最初の企画書とは大きく変わっています。企画書を書き換えるなかで、唯一変わっていないのが、メディアであるということと、研究者を対象にしているということの2点です。

「研究者」というオリジナリティあふれる存在が持つ可能性

阿座上:

取り組むことがメディアであることは初期から変わってない、と。対象が研究者であることが変わっていないのはどういった理由なのでしょう。

西村:

研究者と聞いて、多くの人が思い描くイメージは、白衣を着て、フラスコを振ってるようなステレオタイプなものだと思います。実際に、イメージ通りの研究者もいますが、日本に研究者は約89万人いて、そのうちの約34万人が大学に在籍している研究者で、その他は主に企業に在籍しています(出典:令和3年、総務省「科学技術研究調査結果の概要」より)。

少なくとも、大学に在籍している約34万人の研究者は、全員違うテーマで研究している。必ず違うテーマを研究しないといけないので。だから、研究者という存在はものすごくオリジナリティを持っています。

西村:

以前、私が思い描く研究者に対するイメージも、ステレオタイプなものと同様でした。ですが、実際にある仕事で研究者に会ってみると、一人ひとりのオリジナリティが強く、とても面白い。ただ、一方で社会の側からすると「研究はつまらないし、役に立たない」と思われることも多々あります。

このままだと、社会と研究者は分断されてしまい、せっかくいろんな研究がなされているのに、それが活かされず、社会の進歩は遅くなってしまう。日本にいる研究者のオリジナリティある研究を社会とつなぐことで、変えていけるのではないかと考えました。

ただ、一人ひとりの研究者の面白さを口頭で直接紹介しようとすると、研究内容を一から説明しないといけないので難しい。「これを見てください」という場所をつくりたくて、研究者を対象とするメディアにしようと考えていました。

阿座上:

「研究者と社会をつなぎたい」という考えがあって、研究者を対象とするメディアをつくると決めていたんですね。

西村:

それが一番の理由です。ただ、研究者を対象とする理由は、それだけではありません。

社会において新たな価値を見出すには、発想力より「ものの見方」の幅が大事だと考えています。同じ事象をどう人と違う角度で見れるか。例えば、コップだったら、飲むだけでなく、ペン立てにも使えるよね、とか。研究者は見方の幅を広げるヒントを持っています。

例えば、「ペンギン」を対象としたときに、研究者は自身のテーマと合わせて、ある人は鳥類だと捉え、またある人は南極という気候帯に着目するかもしれません。なかには、毒性物質の運び屋と捉える人もいます。研究者は、同じ事象に向き合う際の捉え方がこれだけ異なります。

研究者との接点が増えれば、人々の「ものの見方」が広がるはず。それは、イノベーションという意味では新しい価値の創出につながりますし、寛容性という意味では新しいものを受容していくことにつながります。前者は、企業にとって価値があり、後者は人々の生きやすさにとって価値がある。

研究者とつながることは社会にとって、自分たちにとっての新しい価値と生きやすさにつながる。そう考えたことも、研究者を対象とするメディアをつくろうとした理由になっています。

「安心して読めるメディア」のためのアルゴリズム開発

阿座上:

研究者を対象とするメディアであることは変化していない。それでは、企画書を検討する過程で、なにが変わっていったのでしょうか。

西村:

メディアをつくるのであれば、「読者が安心して読めるメディア」にしたいと思っており、どうそれを実現するかが、検討の段階で変わっていきました。

阿座上:

安心して読める、というのは?

西村:

せっかくメディアでユニークな研究者を記事で紹介しても、人はつい同じような内容の記事ばかりを見てしまいがちです。なぜなら、そのほうが楽だから。世の中のアルゴリズムは、なるべく人の脳に負荷をかけないように情報提供しているものがほとんどです。

その逆のアルゴリズムを作りたかった。なるべく違う情報と出会い続けることを促すようなアルゴリズムです。自分は、そういうアルゴリズムがあったら安心して情報にアクセスできる。「自分の時間を無駄にしているんじゃないか…」「同じようなことしたインプットしてないのでは」という罪悪感を覚えることもなくなるのでは、と。

阿座上:

自分の時間を預けた結果、自分の世界を広げてくれると信頼できる。それが安心して読めるということなんですね。たしかに、日常的に触れる情報は同じようなものになってしまいがちなので、それが実現できれば安心できます。

西村:

企画の検討段階では、実現手段をいくつか検討していたのですが、現在のアルゴリズムになったのは、偶然、東北大学教授の大関真之​​さんと出会えたことが影響しています。当時、自分が思い描いていたメディアの姿について相談する機会があって、「それはこういう物理学の現象で表せると思うよ」と言っていただけたのが大きかったですね。

このアルゴリズムは昨年9月のリリースの段階ですでに実装されていて、今後はさらに幅を広げながら安心して委ねられるメディアにしたいと思っています。受け手にとって新しい情報になりすぎてしまうと、負担が大きいので、ギリギリで楽しめる範囲の新しさをどうアルゴリズムで実現するかはとても面白いです。

メディアビジネスにおける社会性と経済性の両立

阿座上:

「esse-sense.com」を通じて、複雑な課題に挑戦していることをお伺いできました。ゼブラ企業にとって、社会性と経済性の両立も重要なポイントなのですが、エッセンスはどのようにメディアを通じて社会的インパクトを生み出そうと考えているか教えてください。

西村:

前提として、メディアは「媒介」という言葉の通り、「ここから先は自分たちは進みません」という壁を置くものだと思ってます。大抵の事業は直接ユーザーに働きかけられますが、メディアは直接相手に触れられない。だからこそ、多くの人に間接的に情報を届けられる。

届けられる対象は大きい一方で、相手を変容させられるかどうかのハードルが高い。実現できればインパクトは大きいけれど、実現できなければインパクトはゼロになる。その両極端な性質を持っているのがメディアだと考えています。

直接、相手にインパクトを与えるなら、様々な関与方法があるので比較的簡単だと言えます。ミラツクは、ワークショップなど直接相手に関与する方法が選択できるので、相手の変容のために何をしたら良いか考えて実行しやすい。そのかわり、生み出せるインパクトの総量は少なくなります。

阿座上:

相手の変容に直接関与するわけではないからこそ、難しくもあり、ポテンシャルもあるのがメディア。どれだけ相手にインパクトを与えられたか、というのが大事になるんですね。

西村:

はい。なので、メディアの価値はどれだけ多くの人が見ているかではないと考えています。インパクトをどれだけ創出できたかが大切なので、100万人に閲覧されたとしても、インパクトを生み出せていなければ、エッセンスのメディアは全く成功したことにはなりません。

エッセンスにとって大事なのは、メディアを読むことで読者の視野が広がっているかどうか。「esse-sense.com」に触れているけれど、視野が広がっていなければインパクトは出せていません。

インパクトを出すという視点では、まだまだなんです。できることは山ほどあって、本当にインパクトに生み出すために、大きく変えていかなければと考えています。

阿座上:

社会性と経済性の両立のうち、社会性の側面についてのお考えを伺いました。経済性についてはどのように捉えていますか?

西村:

エッセンスでは、メディアにアルゴリズムを実装し、継続してリリースやアップデートをしているのは、インパクトの創出のためです。インパクトが生み出せている状況を作り出せてはじめて、どうビジネスにするかを考えます。

インパクト出すためにメディアが進化し、その結果ビジネスが生まれるという主従関係は変えてはいけないと考えて、徹底的にメディアに向き合っています。最初はもう少しゆるく捉えていたのですが、アドバイザーをしていただいてるユーグレナの永田さんからインパクトと関係ない要素をビジネスサイドに置くと、メディアが壊れてしまうよ、とアドバイスをもらって以来、よりシビアに考えるようになりました。

阿座上:

そうすると、ビジネスの検討はこれからかと思いますが、現段階でなにか想定されていることはありますか?

西村:

未来のビジネスモデルを想定するのは占いのようなものなので、必ずこれでいきます、というものではありませんが、現状で想定しているビジネスは2つあります。そのうちの1つは研究者と社会が直接つながり、依頼をかけられるデジタルプラットフォーム事業です。

私は事業づくりはそこまで得意ではないため、極力シンプルに考えるようにしています。現在想定しているモデルも、人がすでにお金を支払っている対象を切り替えるものです。全く新しいモデルを提示して「これはどうだ!」というような才能はないと思ってます。

NPOではなく株式会社だからできる未来の前借り

阿座上:

エッセンスの事業について、様々な観点からお話いただきました。こうしたチャレンジを実行するための母体として、株式会社を選んだのはなぜでしょうか。NPO法人のままでの挑戦もあり得たのでは?

西村:

理由はいくつもありますが、やりたいことに合致したのが株式会社だったというのがあります。私にとって、NPOとは静かに社会にずっと存在するもの。派手に成果を出して、世の中を変えるのではなく、静かに世の中の基盤として残っていく、お寺のようなイメージです。一方、会社は力を結集して何かを実現しようとするハコだと捉えています。エッセンスは、実現したいことのために力を結集して、勢いをつくりだすために株式会社にしました。

目的の達成に向け、会社は様々なプロジェクトに挑戦します。「こういうことをやろうと思う」という約束に対して、人々が協力してくれたり、信頼してくれたりする。約束することで周囲からのプレッシャーも生まれ、プロジェクトを完了させて、約束を守ることで次のチャンスが生まれるものだと捉えています。

阿座上:

NPOと株式会社の両方を経営してみて、西村さんの中で両社の大きな違いだなと感じる点は他にもなにかありますか?

西村:

昔、友人に言われて発見があったのが「株式会社は未来の前借りができる」という言葉でした。未来の前借り、つまり時間の前借りができる。この前借りできる未来はいつまでも訪れないものではなく、ある一定期間のものです。

NPOに前借りの感覚はありませんでした。NPOはじっくり取り組み、活動を推進していく。株式会社は一定期間の時間を前借りして協力を募り、その時間でプロジェクトを進めていけるというのは、株式会社とNPOとの違いとして大きいと思います。

阿座上:

未来の前借りというのは面白いですね。Z&Cは長い時間かけて取り組む必要がある事業の場合は、時間を確保できるように投資スキームをつくっています(下図参照)。ゼブラ投資は、前借りできる時間の捉え方を変えようしているとも言えるかもしれません。

「組合型株式会社」という新たな形態の会社運営

阿座上:

エッセンスは協同組合に近い性質を持ちながら、株式会社の形態を取る「組合型株式会社」という形態を選択しています。組合型株式会社を選んだ理由は?

西村:

きっかけは、株式会社eumoの武井浩三さんとお会いしたことでした。eumoが組合型株式会社で運営していると知って、ぜひやりたいと思ってすぐにお願いし、時間をいただいてレクチャーしてもらいました。武井さんもエッセンスのアドバイザーの1人になってもらっています。

阿座上:

強く惹かれたのは組合型株式会社のどういった点だったんですか?

西村:

NPOは、所有者がいない点がとても良いと思っているんです。NPOの代表であっても、法人を所有しているわけではないので、「これは自分の利益のためではない」と100%自信を持って言い切れる。だからこそ、協力も得られると考えています。

株式会社をやることを考えたときに、自分の中でどうしても腹落ちしていなかったのは、所有の観点。どれだけ工夫しても、オーナーシップが残ってしまうし、それを放棄するわけにはいかない。そこがしっくりこなかったんです。

阿座上:

組合型株式会社は、その懸念がクリアできた。

西村:

そうです。組合型株式会社は、普通株式と種類株式(議決権なし)を分けて、株主が一人一票議決権を持ちます。これはすごく面白くて、この仕組みにできるのは、唯一創業者のみ。これは最澄が比叡山を開く際、最初にやったことに似ているんです。

阿座上:

どういうことでしょう?

西村:

比叡山を開く際、最澄は僧侶を任命できる権利を持っていました。権力のある最澄が、その権力を使って、僧侶を任命できる仕組みをつくり、一番下の人を役職の人を一番上の役職に置くと宣言したんです。

一番下の立場だった人が、役職として一番上になる。こうした立場が入り交じるややこしい状態をつくると、それまでのヒエラルキーは崩壊してしまう。それと同じことが組合型株式会社で実現できるなと。

阿座上:

なるほど。実際にヒエラルキーが崩壊する仕組みを導入してみて、感触はいかがですか。

西村:

最初は、不安もありました。株主が結託したら普通の仕組みに戻すこともできてしまうなとか、上場しにくい仕組みなので出資者が集まらないのでは、とか。実際にやってみると、創業前に抱いていた不安は一つも起きていません。

2022年3月に最初の株主総会を開催して、当時の株主28人のうち22人が参加してくださいました。エッセンスの株主総会は丸一日かけて開催するので、かなり長いのですが、それでも多くの方が参加してくださったのはありがたいですね。

西村:

運営する側は、一人一票なので全て否決される可能性もあり、プレッシャーの中でしっかりと総会に向けて準備をします。参加する株主側も、一人一票なので、自分が最高意思決定者の一人として参加します。全員が株主総会にちゃんと参加して、議論する時間を過ごせました。

参加してくれた株主は、ほぼ全員が経営者か起業家で、エッセンスのような株式総会に出会ったことはないと言ってもらえたことは、この方法の可能性を感じるものです。真剣に議論するのは面倒ですが、後々は良い面も見えてきます。NPOであるミラツクも似ていて、議論に時間をかけて面倒ではあるものの、後々良くなっていく選択をすることが多い。エッセンスの運営でも似たような状態が作れるのではないかと感じています。

株主総会というコミュニティをどう運営するか

阿座上:

特定多数の株主を対象に、エッセンスというコミュニティの運営取り組んでいるような印象を受けました。ミラツクでの経験も活きていそうですね。

西村:

活きていると思います。株主総会でも、決議事項が終わったあとはワークショップやディスカッションを実施しています。株主同士が横につながるための時間も設けていて、共通の話題はエッセンスをどうしたいか。

一人ひとりの株主は、それぞれの理由や関係で参加してくれていますが、横でつながっているわけではありません。エッセンスのような不思議な活動に出資している人たちがつながって豊かになったら、その人たちの会社や出資先が豊かになります。それは、とても価値のあること。

株主総会を開く立場である自分は、自らのために時間を使わないという選択ができて、これを実行すると場がとても豊かになるんです。自分の利益のために場を運営すると、全体としての利益は減って、場が豊かになりません。参加している人たち全員のためにやると、全体が豊かになって、それに引っ張られて自分も上がっていく感覚があります。

阿座上:

エッセンスの株主には誰もがなれるわけではありませんよね。何か、求めている基準などはありますか?

西村:

基本的には誰でも歓迎というスタンスです。前提として、私のやろうとしていることは、だいたい複雑でわかりにくいし、説明も長くて、さらにわかりにくい。その話に付き合ってくれている時点で方向性は合っているし、近いベクトルを持っていると考えられます。

なので、誰でも入れるけれど、活動に理解を示してくれる、同じベクトルの人が入ってくる構造を常に内包しています。わかってくれる相手であれば、どうしたら関わってもらえるかは一生懸命考えますね。「株主が無理でもアドバイザーは受けてもらえるかな」とか。

阿座上:

「活動はよくわからないけれど、金銭的リターンがほしい」という人は入ってこない構造ですよね。

西村:

そうですね。厳密には経済的なリターンはありますが、1千倍や1万倍といった倍率にはなりません。2倍〜5倍という倍率ならありえますね。そういう背景があっての出資なので、出資いただく金額も、一人ひとりの出資者にとって無理ない範囲になっています。

阿座上:

今回の出資に際して議論する中でも、ゼブラ企業に組合型株式会社は相性がいいなと感じます。Zebras Uniteは元々、NPOを協同組合に変えているので、一人一票で運営しています。Z&Cも組合型株式会社の形態の企業をサポートしていきたいと考えていたので、すでに実践しているエッセンスに関われるのは嬉しいですね。

西村:

こちらこそありがたいです。テクノロジーとメディアを通じた課題解決に共感してもらえていることも嬉しいですし、これからどうなるかわからないけれど、一緒にやっていこうというあり方にも共感しています。

阿座上:

僕もメディアでこんなこと出来たら面白いなと思いましたし、僕だったらこんな関わり方ができるなという余白を感じていて、今から楽しみです。

100年後の未来に向けた旅路を共に楽しむ

阿座上:

今回いろいろと話を伺って、「esse-sense.com」は西村さんがミラツクで実践してきた、人をつなぐことでイノベーションを起こすサイクルをさらにスケールさせるためのメディアなのだと感じました。

西村さん個人の技術や知識などの資本が、ミラツクを通じて社会関係資本になり、エッセンスでその資本を金融資本とつなげて、テクノロジーを通じて新しい価値を作り出そうとしているという点もゼブラ企業的な流れだと思います。

改めて、新しい社会課題の解決に一緒に挑戦できるの楽しみなのですが、西村さんが一緒にZ&Cとやりたいと考えていることや期待することはありますか?

西村:

私は職人的な側面が強くて、超絶プロダクトアウトに動いて、出来上がってからどうするかを考えるんです。「esse-sense.com」でも、是非試してもらいたいこだわりのポイントがあって、記事読んでタップするとハイライトが入れられるんですが、そのハイライトを押す際のスムーズさと、押したときのスムーズさを実現するために何回も作り直してるんです。

西村:

こだわりを持ってつくるのは面白いのですが、「で、これをどうしよう?」という部分には智慧があまりない。智慧がないというか、持っている情報量が少ないんです。もちろん、一般論は勉強しますが、一般論は一般論。

「こうやって事業として成立させれるんじゃないか」「こうやって世の中に広げれるんじゃないか」といった事業や金融、マーケティングについては、自分は智慧をあまり持っていなくて、Z&Cはこの3つを持っているチームだと思います。

出資いただいたということは、成功してほしいという気持ちを抱いてもらえているということなので、「こんなものつくってるんだけど、どうしたらいい?」と一緒に話せる関係になれるのはありがたいですね。

智慧がないと言っても、問われたら考えられるんです。問われないから智慧が出ない。「まあいいんじゃない」「西村さんがいいなら」と言われることもあります。そうすると問われる機会は減ってしまう。徹底的に深掘りして聞いてもらうことは、とてもありがたいことです。

阿座上:

僕らもそう言ってもらえてありがたいですし、これからどうやって歩んでいくのかがさらに楽しみになりました。

西村:

一緒に旅路を楽しんでいきたいですね。エッセンスの株主になるって、どういうことなんだろうと考えたときに、なるべく早く株主になってもらいたいと思っていて。なぜなら、話していたことが、どうやって実現していくかのプロセスが見れるから。

後半に参加するのは、終わりかけの試合を観戦するようで、あまり面白くないと思います。冒頭から参加するほうが、絶対に楽しいはず。もちろん、出資してくれた人たちに経済的なリターンは返したい。ただ、それは副産物として。主目的は、この面白い旅路を共に歩むことにあり、株式はそのためのチケットなんです。

阿座上:

旅のチケットというのはいい表現ですね。

西村:

エッセンスが取り組んでいることは、インディ・ジョーンズの冒険みたいなものなんです。インディ・ジョーンズって、「この辺に何かがありそうだ」と旅に出ます。ですが、実際に何があるかはわかっていない。

インディ・ジョーンズの冒険は、全くわからないところに向かっていく旅。途中、何度も死にそうになるし、何も約束はないのに、希望を感じて突き進んでいく。エッセンスも、何かはありそうだから冒険する。

ただし、最終的にはどうなるかはわからない旅です。出資者の人たちに説明するための資料にも、「100年後に向けた楽しい旅ができます」って書いているんです。

阿座上:

ぜひ、100年後に向けた楽しい旅にしましょう!

——
記事執筆/編集 : Mori Junya
撮影 : 澤圭太
企画 : 阿座上陽平

PROFILE

ゼブラ編集部

「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。