2022.08.23 ZEBRAS
サーキュラーエコノミー界のトルネード。アップサイクルプラットフォーム「Deko Eko」(ポーランド)
Image : Deko Eko official website
「サステイナブル」の大切な要素である「サーキュラー」
「サステイナビリティ」は環境問題のみならず、未来の世代にツケを回すことなく生き、長く繁栄していくための自然・社会・個人のさまざまなあり方を含みます。
「サーキュラー」はその一部で、サステイナビリティの基礎的な部分を担うエネルギー・資源の活用に主に関連する概念。資源を直線的に採取・利用・廃棄するのではなく、一度利用した資源を円環的に活用するサイクルのこと。近年廃棄物削減の文脈でよく目にする「5R」のうち、「リユーズ」「リサイクル」「リペア」の3つが「サーキュラー」に含まれるでしょう。
資源の有効活用だけがサステイナビリティではありませんが、サーキュラリティが「未来の世代から奪うことのない社会」の基礎の大きな一部を担うシステムであることは間違いないでしょう。
ポーランド発「ブランドアップサイクリング」プラットフォームのDeko Eko
その「サーキュラリティ」に関連して今日ご紹介したいのは、ポーランド発の「ブランドアップサイクリング」のプラットフォーム事業を専門とするスタートアップ「Deko Eko」。
「リサイクル」に新たな付加価値を与えて元の状態よりもアップグレードする「アップサイクリング」は用語として定着してきた感がありますが、同社はそのアップサイクリングにさらにブランド力を持たせる取り組みに特化したプラットフォームです。
ミッションを「世界で最初のアップサイクリング市場を確立すること」とし、EUの後押しを得てまずはオランダへと事業を拡大しました。
具体的なサービスの内容は、
1. 企業から出る廃棄物を分析し、
2. スマートマッチングによりデザイナーをマッチングし、
3. その廃棄物をアップサイクルしてハイエンドなノベルティや商品に生まれ変わらせ、
4. 生産、納品や販売までを手掛けること
平たく言って、捨てられてゴミになるはずの産業廃棄物をブランドレベルの製品にするまでの総合的サポート屋さんという感じでしょうか。
ビジネスのスタイルは基本的にBtoBで、一部BtoC。
アップサイクルしたい廃棄物を持つ企業が同社にマッチングを申し込むと、ビッグデータを基本としたシステムでその内容・量・最適な用途や過去の事例などを分析し、その廃棄物のアップサイクルが最も得意と推測される同社登録デザイナー(ポーランドの地元デザイナー)にスマートマッチングされます。
同プラットフォーム上でそのデザイナーと納期や価格などを交渉し、合意に至れば製品企画がスタート。エンドプロダクトが決まれば廃棄物を納品して、製品に生まれ変わるのを待ちます。あとは自社で販売・配布することもできれば、Eko Dekoに販売まで任せることも可能です。
元々はノベルティや従業員へのプレゼントを会社から出る廃棄物から生み出すという利用方法をアピールしていましたが、同社登録のデザイナーが手掛ける製品がスタイリッシュで実用的であることが利用者から高い評価を得るにつれ、一般消費者も購入可能なハイエンドプロダクトを廃棄物から生み出すことにサービスのバリューがシフトしていきました。
コカ・コーラ社も利用
一例として、同社サービスを利用した有名企業の中から世界的飲料ブランドのコカ・コーラ社のケースをご紹介します。
Coca Cola Polandは、2020年に主催した世界の支社が集う全社カンファレンスでDeko Eko社に協力を求めました。
当日は会場内にDeko Eko社のデザイナーの企画による、Coca Cola社の製品から出る廃棄物をアップサイクルした製品を展示販売。タブレットケースや時計、バインダーなど実用的でスタイリッシュなアイテムが並び、各国から集まった同社社員にアップサイクルのインスピレーションと可能性をアピールしました。
他にも、廃棄扱いになった機械の部品や販促グッズなどを利用したアップサイクルワークショップを従業員を対象に開催し、そこで生み出されたアクセサリーや実用品などのアイテムをクリスマスオークションにかけた携帯電話事業者のT-mobile社。
また、同じく廃棄予定の自社製品を使ったアップサイクルワークショップを従業員に提供したアパレルブランドのH&Mなど、さまざまな企業とのコラボレーションが続いています。
創業者は注目の女性実業家
2013年に同社をスタートしたポーランド人の創業者Agata Frankiewicz氏は、『ポーランドで最もクリエイティブなビジネスパーソン50人』やForbesの「社会に影響を与える女性60人」にも選出された同国で大注目の女性実業家。
ワルシャワやクラクフの大学で経営や広告心理学を学んだ後、経理担当職などを経て起業し、その後は循環経済コンサルタントなどサーキュラリティ構築にさまざまな活動に取り組んでいます。
同氏は過去のインタビューで、ポーランドの企業や消費者のサーキュラリティに対する関心は2019年頃を境に急速に高まってきたと述べています。
「まずはEUのプラスチック廃棄物などに関する規制変更があり、その水準に追いつくために起業が本腰を入れました。そこで消費者の意識も変わってきて、企業に努力を求め、アップサイクル製品に関心を持つようになった。そういった様々なレベルでの変化が合流することで、とうとう(社会的な)効果が見え始めました」。
2013年のビジネス立ち上げ当初は、熱心にPRしないと関心を持ってもらえなかった同社のアップサイクル製品は、近年セールスが急上昇しているとのこと。また、同社にコラボレーションを求めてコンタクトをとって来るビジネスパーソンが、以前は主に会社のサステイナビリティ担当者であったのに対し、近年はマーケティングや戦略担当者が多くなってきており、サーキュラリティが慈善事業から本流の戦略に関与するようになっているという意味でも変化を感じているそうです。
将来の展望は「個人から企業まで全ての廃棄物をアップロードできるプラットフォーム」
Deko Eko社のミッションにも言及されている通り、「世界で毎年生み出される21億2000万トンの廃棄物のうち、たった9%しか再利用されない」という事実を変える情熱に邁進しているFrankiewicz氏。しかし同氏は、一方で非常に楽観的でもあります。
「私たち人間は、本来モノを捨てることが好きではないのだと思います。私の2人の娘、特に長女などを見ていると実感しますが、子どもはそもそもなにも捨てさせてくれないでしょう。特にシャンプーのボトルのような、カラフルだったりきれいだったりするゴミを捨てるのを嫌がって、『ママ、これで何かできるでしょ?』と訴えてきます。そういった人間の本能があり、一方で多くの廃棄物が世界にあれば、私たちのようなプラットフォームが必要なのは子どもにも簡単に分かること」
現在はポーランドとオランダでBtoBでサービスを提供していますが、将来の展望として個人が地域で集めた廃棄物や、企業が使うあてのない廃棄物を自由にアップロードし、デザイナーがプロダクトに生まれ変わらせてから販売できるシステムの完全にオープンなプラットフォームとして利用してもらえるようになることを視野に入れているそうです。
さまざまな廃棄物から企業、組織を巻き込んで成長するDeko Eko社。先述の創業者は、「こういった取り組みをサポートしたい消費者は、とにかくなにを購入するにもバージン素材から作られた製品よりもアップサイクル品を選ぶことが私たちの力になることを知ってほしい」と訴えています。
現在のところ日本へは発送してもらえませんが、アップサイクルの秘める可能性を目にするためにちょっとショップを覗いてみるのもいいかもしれません。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)
PROFILE
ウルセム幸子
3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。