2022.12.26 ZEBRAS

名古屋から社会起業家を輩出する河合さんに聞く、インパクト志向なキャリアのはじめかた


名古屋から社会起業家を輩出する河合さんに聞く、インパクト志向なキャリアのはじめかたのイメージ


はじめまして、ゼブラアンドカンパニー(以下、Z&C)の阪本 菜(サカモト サイ)です。

私は2022年7月にZ&Cの1号社員として入社しました。私がこの会社を知ったのは2021年の7月に行われたローンチイベントを偶然知り、参加したことがきっかけでした。

芸術系の家族の中で生まれ育った私は、自分はアーティスト志望ではないけれど、アート・デザインの力をつかって社会課題を解決する仕事につきたいと思っていましたが、アート・デザインと社会課題解決という経済合理性とはかけ離れてみられがちな組み合わせをビジネス領域に持ち込む人たちが見つからず、卒業後に働きたい会社に出会えなかった私にとって、経済的に成長しつつ、事業を通じて社会課題を解決することは可能である、Z&Cとの出会いは本当に幸運なことでした。

日本に戻って働いてみると、実は思っていた以上に素敵な会社が多いこと分かりました。そして、その反対に、同世代で同じように社会性と経済性を両立する会社で働きたいが見つからないという悩みを持つ人が多いことも分かりました。

そこで、「ゼブラな先輩に会いに行こう」というこの連載では、経済的に成長しながら同時に、事業を通じて社会問題の解決を目指す仕事(インパクト業界)に携わる先輩に、今のキャリアにつくまでの経験をインタビューをし、インパクト志向なキャリアに興味のある若手に向けて情報発信していきたいと思います。

初回は、名古屋を拠点にゼブラな企業や社会起業家が生まれる、スタートアップエコシステムを作っている、株式会社UNERI代表の河合将樹さんにお話を伺いました。大学在学中に株式会社UNERIを創業し、名古屋から社会起業家が生まれる仕組みづくりを行っている河合さん。名古屋市スタートアップ支援室との事業では、過去2年間で300組の協業事例や、累計4組3.2億円の資金調達事例を生み出した知見を持ち、名古屋から世界に開かれたエコシステムをつくる起点の創出を行なっています。

多くの社会起業家と関わっている河合さんはどんな経緯で今のお仕事をされるようになったのか、インパクト志向のキャリアとはどんなものがあるのか、将来インパクト業界で働くためにには何が大切だと思うのか、お話を伺いました。

河合将樹

1995年愛知県生まれ。大学在学中、イギリス留学を経て、世界11ヵ国240人と共同生活をする内閣府事業に参加。地方から社会課題解決に繋がるチェンジメーカーを育む場の必要性を感じ、NPO法人ETIC.にて学生起業家向け私塾の運営に従事した後、2020年株式会社UNERIを創業。1期目より名古屋市スタートアップ支援室主催事業の運営を勤め、2年間で600回の施設訪問や300件の共創事例、累計3.2億円の資金調達事例を4組創出し、東海エリアのエコシステム拡大に寄与。2020年に社会起業家育成事業、翌年にインパクトリターン100%の資金提供を開始。社会課題解決の市場創出を目指して取り組んでいる。

キャリアの転機となったETIC.でのインターン

ーー河合さん、本日はよろしくお願いします。経歴を見させていただくだけでも、イギリス留学、世界青年の船、NPO法人ETIC. でのインターンと、学生時代から色々なことに取り組まれてきたように思われますが、河合さんにとっての1番のキャリアにおける転機はいつだったのでしょうか?

僕のキャリアにおける一番の大きな転機はNPO法人ETIC.にいたことですね。

NPO法人ETICというのは、約30年前から起業家育成を行う、恐らく日本で一番古い団体です。ETIC.の運営するMAKERS UNIVERSITYという学生起業家の私塾(インキュベーションプログラム)の事務局で、学生時代は働いていました。その時の経験が、株式会社UNERIを起業した課題意識に大きく繋がっています。 事務局側として2019年にETIC.に参画した後、2021年にはMAKERS UNIVERSITYの塾生としても採択されました。MAKERS UNIVERSITYは社会起業家も数多く輩出しているコミュニティで、これからの日本の鍵になるだろうと思ったんです。その運営側に行けば、そんな場の作り方が学べるだろうと思い、インターンをはじめました。

スタートアップから社会起業、ゼブラ企業、未だ形容する言葉がないものなどMAKERS生は多様で、きっと10年後はこの世界観が常識になるのだろうと、今でも強く思っています。

※ ETIC.さんとZ&Cももちろん交流があり、Z&Cの創業者3人も尊敬している素敵な団体です。

自分の進む方向を決めた世界青年の船

ーーETIC.でインターンを始める前から起業しようと思っていたんですね。きっかけは何だったのでしょうか?


そうですね。ETIC.で働く前に内閣府主催の「世界青年の船」という国際交流プログラムに参加していたことがきっかけだと思います。 

僕の参加した年は明治維新から150年だったので多くの起業家がプログラムに来ていて。 タンザニアやエクアドル、チリ、あと石油王のようなUAEの起業家にそこで出会いました。みんな30歳未満でしたね。そんな彼らと1ヶ月間、船の中でネットが使えない中で共同生活しました。

そこでいろいろな話をする中でわかったことは、彼らは皆、各々の国で土地に根ざした活動をしていることでした。まずはそのローカルに根ざさないと、世界とはやっていけないと肌で感じました。「アメリカはいつでも行けるし、One of Themになるだけ。でも、母国であれば次世代を育める」という話題で盛り上がり、自分は地元名古屋から「チェンジメーカーが生まれる環境づくり」をしようと決めたんです。そのための力をつけるための場所として選んだのが先ほどお話したETIC.でした。

ーー大学生で世界青年の船にチャレンジするというのはとても勇気のいることだなと思います。きっとその前からチャレンジする素養があったんじゃないかと思いますが、さらに以前のことも少し伺っていいですか?

ありがとうございます。では、すこし遡ってしまいますが、高校時代の話をしますね。

もともと普通の教育に違和感を感じていたので、高校は普通教育科目の他に、特色のある科目や専門科目を選択し、自分の興味に合わせて時間割を作成できる総合学科に進学しました。 普通の高校生活では受講しないような中国語の勉強、ビジネスコンテストへ出場、プログラミングの勉強といった項目を自ら選んで経験するよう高校生活でした。

でも、色々受験期に手違いがあって希望の大学にはいけなかったんです。そのため、大学に入学してすぐ、「これでは自分が腐ってしまう」と感じ、入学3日で休学を決断し、1年間ASEANの方で留学兼インターンをしていました。その後復学してからも海外40ヶ国行ったりとか、学生団体作ったりしていて。もともと社会変革のツールとして教育分野に興味があったのもあり、100校ほどの高校で出張授業も行いました。

それを通じて、自分は 不特定多数の教育には心が燃えず、大学に1人いるイノベーターだけに時間を使う方が効果的だし、なにより自分が楽しいと感じました。

インパクト投資特有業界の仕事って?

ーーインパクト志向なキャリアを目指したくとも情報がまだ少ないので、どのようなアクションを行うべきか困っている同年代(Z世代)が多いように感じます。ここからは、そんな彼らの業界に対する解像度をあげる手助けになる質問をしていきたいのですが、河合さんからみて、学生が今すぐインパクト業界に関わることはできると思いますか?

確かに我々の仕事がどんなものか発信できていないのですごくギャップがあるのは感じますよね。インパクト業界と、スタートアップ・ソーシャルビジネスとの違いを業界全体でラベリングするのが必要だと思ってます。 インパクト業界はこれから生まれる過渡期なので、さまざまなラベルが重なった人たち(越境経験者)がいるのが現状です。

関わり方を説明する上で少し実務の話をすると、インパクト業界の中でも、さらに絞って「インパクト投資」において、一般的な投資業との仕事の違いは主にインパクト投資の投資実行とその後のIMM(インパクト測定と管理)の2つです。

1つ目の投資実行に関しては、学生が実際に関わる機会は少ないと思います。一般的なファンドの中で、コミュニティマネージメントのサポートや、投資先のリサーチやコンタクトをとるという作業をインターンとして任せることはあるかもしれません。しかし、それはインパクト投資ではないとできないことという訳でもないので、関わる可能性があるとしたら、論理的思考が強ければインパクト投資の企業評価(=インパクトデューデリジェンス)の部分で投資実行の一端を担うことはできるかもしれません。ただ、日本にはベンチャーキャピタルが400から500ぐらいあるなか、インパクトデューデリジェンスをやっているファンドはまだ少ないので、チャンスは少なそうです。

インパクト投資特有の仕事の2つ目として上げたIMM(Impact Measurement & Management=インパクト測定と管理)も学生として関わることもまだ難しそうですね。 IMMはその会社がどんな資源を使ってアクションを起こして短中長期で社会的変化をもたらすかを定量的・定性的に整理するロジックモデルやセオリーオブチェンジというものを作り、測定していく業務です。経営者が考えていることを棚卸しして、ロジックに落とし込んでいく作業なので、とても左脳的です。

これから多くの人にインパクト投資に関わってもらうためには、上記で上げたようなインパクトデューデリジェンスやIMMは向き不向きがあると思うので、それ以外の関わりしろを増やしていくっていうことも、重要だと思っています。

ーーインパクトをもたらす企業が社会により浸透させていくためにも、論理性を求められるファイナンス以外のキャリアの選択肢が必要ということですか?

そうですね。ロジックは重要だし、やはり人を動かすパワーの一つであると思いますが、最後の決め手になるのはアートやストーリーなど、主観的コンテクストのあるものです。なのでインパクトを考える際にもファイナンス一辺倒になりすぎないよう、余白の必要性は強く感じています。  

非財務情報などのように数字で表すもの以外を取り込んでいくべきなのではないか、論理的な人だけではなく、様々な表現ができる人とも協働する関わりしろがあるほうが、個人的に面白いし、社会が豊かになるのではないかと思っています。もちろんIMM(インパクト測定・マネジメント)やインパクトデューディリジェンス、インパクト加重会計の議論も重要ですが、手段と目的を履き違えてはいけないと思っています。インパクトの考え方を金融だけではなく、もっとひらけたものにしていきたいですね。

投資側がそういったダイバーシティを持つことで、インパクト投資の投資領域がマーケットリターン・インパクトリターン共に高い領域のみで行われる現状から、多様な目的から逆算し、多様なお金のインフラが整備される。そうすれば、起業家にとってのファイナンシャルインクルージョンが実現されるのではないでしょうか。

越境体験を通じて心理的安全性を自分で確保する

ーーありがとうございます。ロジックだけではなくアートとストーリーが重要だというのは本当に共感します。では最後に、学生・若手が今後インパクト業界で働きたいと思った時、学生時代にどんな経験があったら力になると思うかアドバイスをお願いします。

今キャリアに迷っている学生にアドバイスするとしたら、それは越境体験をどんどんしていくことですね。自分が普段いる環境と違うところに跳び込む経験をたくさんするのがいいかなと思っています。 

それは例えばインターンなのかもしれないし、海外留学なのかもしれない。起業なのかもしれない。自分が普段いるコンフォートゾーンとは全然違うところに身を置く経験を5つぐらいすると、自分の心の母校がたくさん増えると思うんです。 そしてそれは自分が安定することだとも思っていて。その為にはまず越境体験、自分の普段いる環境とは違うところに出てみることが大事だと思います。それをどんどん繰り返して自分の心の母校をハブを増やしていく感じがいいんじゃないかと思っています。 

さらにいえば、はじめの一歩はインターンではなく、マイプロジェクトみたいな自分一人でもやれる範囲から始めていくが良いと思います。 プチ起業とかマイプロジェクトとか、学生団体みたいな感じ。そういう自分起点で始まるものを形にしていく経験を大学1、2年とかでやっておくのが一番レバレッジが効くと思います。 また、インパクト業界で働きたい、と思ってる学生には、①スタートアップ②ソーシャルセクター③留学の3つを在学中に経験するのが良いと思います。

また、インターン先を選ぶ時の考え方も参考までにお話しします。

僕は、自分自身が”本当に”一番やりたいことはインターン先にはおそらくないと思っています。なぜなら インターンでやれることは誰かが掲げた旗の手伝いであって、その活動の起点は自分でないからです。自分がやりたくないこともやらなければなりません。 

ですから僕も大学一年生の時は自分自身の輪郭が定まっておらず、自分のやりたいことと重なっていないインターンとして時間を使って働くのは嫌だったのでインターンはしませんでした。 その後、始めたETIC.でのインターンでは自分のやりたいことが明確だったので、貪欲にその機会を使い倒すために働いていました。自分のやりたいことが明確でない場合は、インターン先にとっても自分自身にとっても不幸なケースになると思います。 

ーー自分起点ではじめる経験を大切にするべきだということですね。

僕の中で大学卒業してすぐにインパクト業界に飛び込んでくる人には法則があるなと常に感じていています。 先程も申し上げた、スタートアップ&NPOでの勤務経験、そして留学。この三つの経験を持っている人が今のインパクト業界の人たちをみると多いと感じます。まさに越境体験をしてきた人ですね。

もしくはいずれかの3つの経験をした後に、大手のコンサルや人材会社に就職し、何か物足りないと感じている新卒2年目くらいの若手とかも向いていると思います。

スタートアップともソーシャルビジネスとも少し違うこのインパクト業界は、今まさに過渡期だと思っていて、いろんなものが重なったところの人たちがいるのが現状です。起業家サイドだけでなく、投資家やその間に位置する中間支援的な人など、プレイヤーの絶対数が増えていくのがあるべき姿。業界全体に関わる人たちが色々な形で増えたらいいなと思います。

学生のみなさんは、どんどん色々な経験をして、自分のコアとなる部分を強く持って欲しいですね。未来の業界の仲間が増えること、心から応援しています!

河合さん、今日は本当にありがとうございました!

PROFILE

Sai Sakamoto

2022年7月にZ&Cに1号社員として新卒入社。都内の高校を卒業したのち、アメリカ、ウエストバージニア州にあるWest Virginia Wesleyan Collegeに留学し、アート経営学、ジェンダー学を学ぶ。