2023.02.01 ZEBRAS

ジュエリーのサステイナビリティに挑むB-corpの新顔、イギリス発「Ellie Air」


ジュエリーのサステイナビリティに挑むB-corpの新顔、イギリス発「Ellie Air」のイメージ

(Image:同社公式サイト

きらびやかなジュエリーの「裏の顔」

多くの人が憧れ、日常のおしゃれや贈り物として定番のジュエリー。しかしその輝きに隠された「影」が少しずつ市場の意識を変え始めています。採掘現場における労働問題や紛争・環境への負担、サプライチェーンの不透明性や複雑さ、カットや製品に仕上げる過程の労働環境や利用する化学物質の流出などが、その「影」の内容です。

鉱物である限り、他の貴金属や石も全て例外はありませんが、紛争や人権問題に関しては金やダイヤモンド(地層に及ぼす影響も大きく、1カラット分のダイヤモンドを採掘するには、250トンの土が掘り返されるとされています)がよく知られています。

コンゴ民主共和国などのアフリカ諸国にとって、鉱物資源は外貨獲得のための重要な商品。採掘現場では最終的にそれがどんな製品になるのかも知らぬまま、ダイヤモンドや金をめぐる紛争や人権侵害、搾取など、さまざまな問題に巻き込まれている大人や子どもが多くいるとのこと。アンゴラやシエラレオネの内戦では、それらが戦争のための資金源としても使われました。

宝石の採掘・商品化が環境に及ぼす影響も大きく、CO2排出や空気や水の汚染はもとより、おびただしい量の水資源や地層が、この贅沢品のための犠牲になっています。

Image: unsplash

こうした問題が認知されるにつれ、消費者にも自分がジュエリーを購入することによってそういった紛争や人権侵害、環境汚染に加担してしまうのではないかという疑問を持つ人が増えてきているといいます。

世界のハイエンドなジュエリーブランドも積極的にサプライチェーンの透明化を図っており、米有名ブランドTiffanyは米デラウェア大学がリードして宝石のサステイナビリティ課題に関する知識を集積する「持続可能な宝石ハブ・プロジェクト 」に資金提供しています。

この潮流はわが国にとっても無関係ではなく、2020年には世界に誇る日本のジュエリーブランドMIKIMOTOが、サプライチェーンの不透明さから「責任ある調達」ランク外になったことが話題になりました。同社はこれを受けて翌年に『責任ある鉱物調達に関する企業方針』を発表しています。

しかしジュエリーのサプライチェーンは複雑で長いものであるため、こうした問題は店頭で美しい箱に大切にしまわれたリングやネックレスを手にする時点では消費者には非常に見えづらいことが一般的です。 

「サステイナブルなジュエリー」を作るいくつかの方法

 そんな中、「サステイナブルなジュエリー」とは何か、という議論が活発になっています。

ジュエリーメーカーとしての事業運営のことを考え始めれば、労働条件や利用するエネルギーの質、企業としての社会貢献なども絡んでくるため切りがありませんが、マテリアルの側面だけを考えれば、

  • リサイクルマテリアルを使う。金属やストーンなど
  • フェアマイン(労働環境に配慮して採掘された)、フェアトレードのマテリアルを使う
  • 象牙やサンゴなど、そもそもエシカルでない素材は使わない
  • プラスチックなどのそもそも環境に悪影響のある素材も避ける(安価で過剰消費の原因にもなる)
  • ダイヤなど、人造技術が発達しているストーンは人造を使う。ラボで作られたダイヤは質が安定しており、紛争や採掘による環境汚染の原因にならない。

などがよく挙げられています。 

「希少性と価格が宝石の価値なのに、人造のほうがいいなんて?」と少し価値観のディスラプトが起きそうになりますが、そもそもプロポーズにしろ記念日にしろ、ジュエリーは特別な日に贈られる特別な意味のあるもの。それにサプライチェーンの中で搾取された人の涙と汗と、地球の悲鳴がこもっているとしたら、あまり気持ちのいいものではないかもしれません。

「健康な労働環境の中で育てられた人造ダイヤが天然のものとまったく同じ成分だとしたら、それでも希少で高価なほうがほしい」と考える人は、特に若い世代には減少しているのではないでしょうか。

Image: unsplash

ジュエリーのサステイナビリティに挑むイギリス発「Ellie Air」

さて、そこで本日紹介するのは、イギリス発のゼブラ・ファインジュエリーブランドEllie Airです。

同社は、そんな同業界の課題に立ち向かうために2018年に起業され、2022年にB-corp認定を受けました。99という総合Bスコアは認定企業の中でも高得点です。特に平等(人権問題)への影響が高く評価されています。

ミニマムでクラシック、かつモダンな同社のデザイン(公式サイトより)

イギリスの金属職人の技巧、倫理的なビジネスと伝統的なデザインを組み合わせることで、「過去を尊重し、未来を守る」ジュエリーを提供することをミッションとしている同社の概要は以下の通り。

創業者である伝統的金細工師Lauren Davidson氏は2018年、環境とサプライチェーン内の人びとの両方に対して責任を持てるジュエリービジネスの模索を開始しました。

現在同ブランドはリサイクル・フェアマイン貴金属と100%トレース可能な透明性のあるサプライチェーンの利用を徹底しています。石は主に北アメリカとオーストラリアから調達していますが、アジアやアフリカから取り寄せる必要があるマテリアルは採掘現場に顔を出している取引業者から直接仕入れることで完全な透明性を図っています。

最終的なジュエリーの作成には海外の安い労働力を使うことはせず、国内の海辺にある100%再生エネルギー利用の工房で職人が行っています。

創業者のLauren Davidson氏(同社公式サイトより)

そしてなによりも創業者県デザイナーのLauren氏がこだわっているのは、現代の「ファミリージュエラー」としての役割。緻密な計算とミニマリズムをベースとして時代を超越したデザインを作成することによって、何代にも続いて受け継がれていく特別なジュエリーを提供し、女性を使い捨ての文化から解放することを目指しています。

同社Instagramより)

また最後につけ加えておきたいのは、同社の慈善活動。

チャリティ商品は1品につき売り上げの10%が、その他にも毎年総合収益の2%が慈善団体に寄付されています。そのうちの1%は環境保護に取り組むファンド「1% For the Planet」に、0.5%は東アフリカの鉱業コミュニティに寄与する「Gem Legacy」に、最後の0.5%は毎年違う団体に寄付されますが、本年度はロンドンの若い男性の自殺を防止する団体「CALM」 と、ケニアのコミュニティと協力して植林する団体「Word Forest Organisation」に寄付されました。 

高級品だからこそ渦巻く欲望の的ともなり、サステイナビリティには関心が向かない状態にあったジュエリー業界。改革は始まったばかりのようです。

豪華さや目新しさではなく、「地球にも人にもやさしい、サステイナブルなジュエリー」を追求するEllie Air。そうすることで「本当の贅沢とはなにか」を問いかけるような同社の取り組みをご紹介しました。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。