2023.02.28 ZEBRAS

数少ない「巨大ゼブラ」の一つはシングルマザー雇用で有名なクレープ屋さんチェーン。コロンビア「Crepes&Waffles」


数少ない「巨大ゼブラ」の一つはシングルマザー雇用で有名なクレープ屋さんチェーン。コロンビア「Crepes&Waffles」のイメージ

「巨大ゼブラ」は「ユニコーン」よりも希少種?

(公式Instagramより)

世界でB-corpに認定されている企業は現在6000社以上。ただ多くのゼブラ系起業家や専門家が指摘する通り、「歴史があり継続的に利益を出し続けてきた大企業は、サステイナビリティに舵を切りにくい」傾向も。

ハンガリーのCorvinus大学で30年以上にわたりビジネス倫理学を教えるLászló Zsolnai氏は、その理由を現行の大企業のビジネスモデルが「株主第一主義、短期主義、広範囲に及ぼす影響への無関心、企業のサイズ第一主義」をベースに成り立っていることに求めています。

現に先述のB-corp認定の6000社のうち、従業員数が1000人以上の企業はたった100社余り(約1.7%)に留まります。

コミュニティ分野で「Best For the World」に認定された大企業は3社のみ 

B-corp認定を行っているB-labは毎年認定企業を評価し、「コミュニティ」「顧客」「環境」「ガバナンス」「社員の待遇」の5分野で上位5%に入った企業を「Best For the World」として表彰しています。

起業の成功を共有するためのコミュニティ活動に熱心で、慈善寄付、多様性への投資、教育などのフィールドでインパクトの大きい企業が「コミュニティ」分野で評価されますが、2020年にこの分野の「Best for the World」に認定されたのは世界で200社余り、その中で1000人以上社員のいる企業は世界でたった3社に留まります。

スコアの高い順にご紹介すると、まずはみなさまご存じのアウトドア界の巨大ゼブラ・パタゴニア。「大企業でサステナブル」といえば同社というほど有名なので、「なるほど」な結果ではないでしょうか。

2社目は米ブロンクス地区でマイノリティ女性を雇用して在宅ケアサービスを提供する協同組合「CHCA」。こちらはもともと福祉を目的として起業されており、事業形態も協同組合なので納得のランクインでしょう。

しかし、今回の主役である3社目は経歴や背景が少し変わっています。コロンビア発で、南米を中心に約180の支店を展開するクレープチェーンレストラン「Crepes & Waffles」です。

 食事系のクレープも充実(公式Instagramより)

レアな「巨大ゼブラ」なのに日本での認知度ほぼゼロの「Crapes&Waffels」

この「クレープス&ワッフルズ」というレストランに思いあたりのある方は、ほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。おそらくその理由には、同社の成長が社会的インパクトの結果であり、グローバルに知名度を広げることにあまり興味がないことが絡んでいると推測されます。

同社は現在、国連の「ビジネス行動要請」のメンバーでもあり、2008年にはコロンビアからビジネスリーダー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、現在6000人以上の従業員を擁するB-corpでもあります。

評判の背景はそのクレープやアイスクリームの味ももちろんありますが、同社が一貫して保っている「従業員には他に職がないシングルマザーを雇う」という方針(現在、警備員や治安の悪い地区の深夜スタッフを除く92%の従業員が女性)と、地元の農家サポートなどのゼブラなビジネスモデルです。

しかし、起業当初は大企業になる予定も、社会にここまで大きなインパクトを与える意図もありませんでした。

ビジネスカレッジで恋人同士だった経営者夫婦のEduardo Macía氏とBeatriz Fernández氏は、卒業後の1980年に家のガレージにフランス風クレープを売る小さな(しかも、どうやらあまりおいしくなかった)売店をオープンしました。

ただ、二人は「困難な状況にある家庭を助けたい」という思いを共通して持っていました。最初の数人の従業員にシングルマザーを雇用して彼女らの苦労話を聴くうちに、その方針が間違っていないこと、彼女らはすばらしい従業員になることを実感したといいます。

そしてオープン当初課題だったクレープの味は、ある日お客さんとして訪れた謎の女性が同社の方針に感銘を受け、彼女が知っていたレシピを教えてくれたことで劇的に改善します(これは今日まで受け継がれる同社の『秘密のレシピ』です)。

Beatriz Fernández氏とEduardo Macía氏(Portfolioより)

その後、6000人以上に膨らんだ従業員の90%以上を「シングルマザーで経済的に困窮している、いい人そうで仕事が必要だが、CVを見る限り他で雇ってもらえそうにない女性」という基準で雇っている同社が、それにより不利益よりも大きな利益を得ているのは、同社の成長を見ても明らかでしょう。

トムソン・ロイター財団によるインタビューで「そんな人を優先して雇ってあげたら、子どもを理由に欠勤が多そうだし、甘やかすとサボるようになりませんか?」という質問にFernández氏は、「この男性優先の社会の中で、女性は男性よりも怠けにくいというのが私の国の常識です。実際、子育ての責任が圧倒的に女性にかかっているこの国で、自分の生活だけでなく子どもや家族の人生も彼女の稼ぎにかかっている場合、女性は深い考えもなく自分がクビになるようなことをすることはありません」と語っています。

現に同社のクレープの評判はそのリーズナブルな価格もさることながら、献身的な女性スタッフが自主的に競って美しく盛りつけた、その「映える」一皿一皿にもあると目されています。

映えています(公式Instagramより)

Diana Rivadeneira氏は、22歳のときにシングルマザーとしてCrepes & Wafflesで職を得て、11年後の現在、支店長を任されています。

現場でスタッフの管理にあたる彼女は一方で、「スタッフのほとんどが『わけあり』の女性であることは、それなりの苦労もある」と語ります。

「スタッフが家庭内暴力による心の傷を負っている場合は、繊細で傷つきやすいです。病気の子どもを家に置いて、心配しながら仕事に来る人もいます。ヒモで殴られた後、落ち込んで青あざもあらわに出勤する女性も」。

女性が暴力的なパートナーから逃げられるように、別の支店、さらには別の国に転勤させたケースもある、とも彼女は言います。

Image:unsplash

「うちの支店に限って言えば、女性が仕事に来ない場合、それは子どもが病気で世話をする必要があるためです。男性スタッフが仕事に来ない場合はたいてい二日酔いですが」と笑う、ちょっと逆差別的な彼女のコメントには、今も消えぬマッチョな同国の文化への怒りが透けて見えます。

同社の「福利厚生」 

同社はまた、スタッフの56%が初等教育しか受けていない状態で就職するにも関わらず、スタートラインで最低賃金よりも約10%高い初任給を保証しています。また、1年後には健康保険や低利のローン、家電・家・車を購入するための積立制度が利用できます。

2007年には従業員が利用できる無料のカルチャーセンターを開設し、「仕事のスキル向上」「自尊心の回復」「リーダーシップの要請」など職場で役立つ内容以外にも、ヨガやダンス、子どもたちを麻薬から遠ざける方法についてのワークショップなど子育て支援系の講座を勤務時間内に受講できる仕組みになっています。

プライベートに問題のある従業員が多いため、一人一人が「人としての可能性を最大限に引き出す」ためのツールの開発が重要という認識でいるとのことです。

次なるステップと同社のパンデミック対応 

さて、そんな同社が次なるサステナ改善対象として目をつけたのが、利益優先の経済システムの中では生き残りが難しい地元の小規模農家です。同社は2018年に国連の「ビジネス行動要請」に応募し、承認されました。

その目標は、2020年までにコロンビアのモンテス・デ・マリア地域の小規模農家100人の収入を持続的に改善し、良質な水源の確保のためのよりよい環境条件を作り出すことにより、同国の乾燥林地帯の大部分を再生すること。栽培条件になる土地や生物が最もひっ迫しているはちみつと豆を地元の小規模農家から買い付けることから始め、徐々に品目を増やしていきました。

小規模農家が安心して土地の回復に努められることで、地域の土地のレジリエンスと食料安全保障に貢献していると評価され、2021年にはメンバーシップが更新されました。

また、パンデミックでコロンビアの女性の失業率が60%(同国男性の1.5倍)となった際にも、同社はほとんどダメージを受けませんでした。同時期に特に厳しかったはずの飲食店業界だったにも関わらずです。

職を失うわけにはいかないと従業員が様々な案を出し、結論としてスクーターでデリバリーサービスを始め、それが開店時と同等の利益を出し始めるのにパンデミックから半年しかかからなかったそうです。もちろん従業員用のカルチャーセンターのコースは、オンラインで継続されました。

 同社「機動隊」もやはり女性(公式Instagramより)

南米にお越しの際、リーズナブルで「映える」スイーツと料理を楽しみたい方はぜひ。生き生きと輝くシングルマザーたちのサービスが体験を底上げしてくれることも間違いなしです。

ダメ押しに。子ども向けサービスもぬかりありません(公式Instagramより)

文:ウルセム幸子

編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。