2023.03.20 ZEBRAS
「国立公園を守るために生まれたアパレル・アウトドアブランド」、米Parks Project
「国立公園のサポートをするために生まれた」ブランド
ポップでカラフルなこれらのアパレル、特にアウトドア好きでなくても欲しくなってしまいますが、実はこれらを購入するとアメリカの国立公園の運営と生態系のサポートをできます。
こちらはアメリカのParks Projectというアパレル・アウトドアブランド。2014年生まれで、2023年の1月にB-corp認定を受けたゼブラ企業です。
有名サステナ企業の王者・Patagoniaという見本もあり、アウトドアブランドにはサステイナブルなイメージも売りにしている企業が少なくありません。その中には多くの場合、自然が好きなアウトドア好きの購入欲を高めるためにいわゆる「グリーンウォッシュ(見せかけだけサステイナブルなように取り繕うこと)」をしている企業も少なくないといわれていますが、Parks Projectは、それとは手段と目的が逆で、そもそも「国立公園の維持のための資金調達」というミッションのために設立された企業です。
共同創業者兼現オーナーはKeith Eshelman氏とSevag Kazanci氏。
カルフォルニア北部で育ったEshelman氏は、子ども時代から両親とともに多くの国立公園を訪れ、自然に親しんで育ちました。しかし大人になり自身の子どもをそのうちの一つに連れて行ったところ、「手入れが追いつかず、人が入れる状態を維持できなかった」ことを理由に閉鎖されていました。同氏は独自に調査し、国立公園の管理・維持はボランティアの活動に大きく依存していることを知ります。
ショックを受けた同氏は今度は自分が貢献しようと、のちに共同創業者となる友人のKazanci氏を誘ってボランティア活動を始めました(ちなみに二人は、『一足買われるごとに一足寄付』で有名なゼブラ靴ブランドTOMSで一緒に働く同僚で、ビジネスで善をなすというモデルに触発されていたとも語っています)。
そこで二人は多くのボランティアが高齢であること、運営資金調達のために公園で販売されているオリジナルグッズは「もう少々のクールさとファッショナブルさが必要なこと」に気づき、それまでに積んでいたアパレルのキャリアを活かして啓蒙活動をするビジネスのアイディアを得ます。
そのビジネスアイディアを胸にボランティア活動を続けつつ、パークグッズに関してさまざまな人の意見を聞いたEshelman氏が得た洞察は、「魅力的なプロダクトがあれば若い世代を巻き込める」「が、従来の公園グッズは本当にアップデートが必要」「しかも公園の売店でしか販売しないのは販売網としていかがなものか」の3点でした。
これら全てにアプローチするビジネスをしたいと動き始めると、あっという間に話がまとまったといいます。こうして同社は、アメリカで初めての公園グッズをオンラインで販売かつ大量の小売店に卸すブランドとなりました。
デザインのコンセプトは「ビンテージ風味のアウトドアグラフィック」、National Geographicとコラボも
もともと次世代を巻き込むことを視野に入れた同ブランドなので、製品は楽しくファッショナブルを心がけ、今までのアウトドアプロダクトになかった要素を取り入れようとしている、と同氏は言います。
「ビンテージ風味のアウトドアグラフィック」という基本的な同社のデザインコンセプトと取り組みに共感した有名アーティストやビジネスとのコラボが続々となされ、限定商品は数時間で売り切れてきました。今までに参加したアーティストはShepard Fairey (Obey Clothing)、Greta Van Fleetなど多岐にわたり、2018年にはNational Geographicとのコラボラインも発表しました。
同社に協力したいアーティストのネットワークも広がっていますが、同社は「地元志向」にもこだわっています。幼いころから親しんだ公園のグッズの開発に携わってもらえば、その愛着がデザインに反映されるという信念からです。
また、ブランド立ち上げにあたりEshelman氏は、「アウトドア好きにとっては『国立公園』自体が強力なブランドになるのに、なぜ誰もそれをファッションにしない?」という思いもあったといいます。
それぞれの特定の国立公園を前面に押し出したデザインのグッズを販売し、その収益の50%以上をダイレクトにその公園の管理維持しているローカル団体に届ける。様々な活動を支援している大きなNPOに渡してしまうと、どこにいくら使われたのか分からなくなってしまうから。これが同社の透明性の保ち方だといいます。
もちろん、製品は素材からサプライチェーンのエネルギーまで、サステイナビリティを徹底しています。
「国立公園を未来に残すため」の教育・ボランティア活動も
このようにして、今までに260万ドル(約3億5000万円)をアメリカ全土の国立公園に「還元」してきた同社はまた、公園に直接かかわる仕事からも手を引いていません。
2019年にはボランティアの同盟を結成し、全国で効率的にボランティアの活用ができるようにしました。
また、国立公園の来場者がその自然にダメージを与えることなく最大限に楽しめるようガイダンスするビジタープログラム、国立公園に関する知識を普及するための啓蒙活動、子どもたちに国立公園の魅力や課題を知ってもらうための教育活動など、その貢献は多岐にわたります。
そもそも、国立公園とは?なぜサポートが必要?
翻って日本を見てみると、みなさん「公営の大きな公園は近くにあるけれど、あれ国立公園?」というパターンが多いのではないでしょうか。
世界で初めての「国立公園」は、アメリカのイエローストーン国立公園(1872年指定)です。
日本では1931年に国立公園法が制定され、3年後の1934年に指定された瀬戸内海、雲仙、霧島の3か所を皮切りに、現在までに日本全国で34か所が国立公園(指定も管理も環境省が担う)になっています。
その他、国立公園に準じる「国定公園」(指定は環境省だが管理は都道府県に委ねられる。現在58か所)、指定も管理も都道府県によってなされる「都道府県立自然公園」(同311か所)もありますが、この3種類を「自然公園」と総称することもあることからも明確なように、その指定の目的はずばり「自然と生態系の保護」。
それもただ立ち入り禁止にして自然に任せるのではなく、常に手入れをして、強い動植物(シカやオニヒトデ、外来種など)だけが繁栄して他の種が死に絶えたりしないよう、豊かな生物多様性を維持するための努力がなされています。そして、それをその地の文化や歴史とともに人々が学び、楽しめる状態に維持し運営する、というのが国立公園(を含む公営の自然公園)の意義なのです。
日本語の「公園」という言葉は意味が広いので少しイメージがつきにくいのですが、いわゆる「景勝地」が丸ごと国立公園に指定されているケースがほとんどです。そして、その多くが世界の国立公園と同じく、貴重な生物多様性保護の役割を担っており、気候変動により生態系維持の負担が増大し、パンデミックによるダメージを受けています。
その課題が私たちの耳に触れる機会はそう多くありませんが、2019年に山小屋のオーナーが発信して多くの人の反響を呼んだ「山小屋ヘリコプター問題」など、運営に直接携わる人しか知らない構造的問題は多くあるようです。
「生物多様性の喪失」は人類最大の危機
Parks Projectももちろん、国立公園における生物多様性の維持のための「復旧プロジェクト」を行っています。理由は「国立公園の生態系は多くの野生動植物に依存しており、人間の干渉により簡単にそのシステムが崩れてしまうから」。
WWFのレポートによると、私たちはここ50年で生物多様性を69%失っていますが、オランダ人サステイナビリティコンサルタントのTom Bosschaert氏は、「生物多様性の喪失は人類にとって最大の脅威」と警鐘を鳴らし続けています。
「サステイナビリティの課題のうち、エネルギーや資源、廃棄物、社会問題などは、時間はかかっても私たちがなんとか解決し得る問題です。しかし、絶滅してしまった種は人間の力で取り戻すことはできない。生物多様性の喪失は地球の生態系全体に複雑な相互作用を起こし、さらにより多くの生命が影響を受ける連鎖を起こします。食糧危機や水と空気の汚染、害虫の大量発生などにつながっていくでしょう。そして一度失った多様性を取り戻すには、何百万年もの時間がかかる」。
「そこにある」のが当たり前だと思っていた国立公園ですが、こうして様々な意義や努力を知ると、ありがたい気持ちになってParks Projectのようなビジネスも生まれてくるのではないでしょうか。
モットーは「来た時よりも美しく」
蛇足ながら、同社のモットーは「leave it better than we found it」です。「自分たちが(地球に)来た時よりも良い状態で(次世代に)残そう」と直訳するとゴロが悪いですが、「来た時よりも美しく」とほぼ同義と考えると私たちにとってなじみ深いフレーズになり、聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ボーイスカウト活動を中心に、観光地や学校の課外活動などで引用されることの多いこの言葉は、どうやらボーイスカウト活動の創始者であるイギリスの軍人・作家Robert Baden-Powellの遺言から受け継がれたようです
「幸福を得る本当の道は、他の人に幸福を分け与えることにある。この世界を自分が受け継いだ時よりも少しでもよくするよう努力し、あとの人に残すことが出来たなら(中略)、心が満たされて幸福に死ぬことが出来る」。
そのために少年時代から体を鍛えて、人を助けられる大人になりなさい、という活動が、ボーイスカウトの始まりだったそうです。
自分が滞在させてもらった場所に敬意を払い、次に来る人のためにいい状態で残そうとするこの価値観は、近年各国の観光地や、とりわけサッカーの国際試合などで世界の人々に強い印象を残している私たち日本人のいわば「お家芸」です。
実はこのParks Projectには日本法人があり、国内から商品を購入できます。「この新宿御苑Tシャツ欲しい」などという筆者のたわごとはさておき、今回ご紹介した「Pars Project」は、日本でこそ支持されるタイプのゼブラかもしれません。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/
PROFILE
ウルセム幸子
3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。