2023.04.20 ZEBRAS

みんな大好きなハワイで「責任ある観光」について考えてほしいから。ハワイのゼブラな旅行会社「The Coconut Traveler」


みんな大好きなハワイで「責任ある観光」について考えてほしいから。ハワイのゼブラな旅行会社「The Coconut Traveler」のイメージ

バナー画像 : The Coconut Traveler Official Facebook

「オーバーツーリズム=観光公害」に苦しんできたハワイ

私たち日本人にとって最も身近な楽園、ハワイ。多くの人を虜にし、何度訪れてもガッカリさせないパラダイスは一方で、私たちが「オーバーツーリズム」という言葉を知りもしなかった1960年代から観光公害に苦しんできた経緯があります。

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ハワイ語で「ワイ(wai)」は「水」を意味し、「ワイワイ」と繰り返すと「富」の意味になるそうです。水に囲まれ、水を大切にリジェネラティブ農業や水産養殖で生活してきたネイティブの伝統的な循環型社会は、1893年のアメリカへの併合、そして米軍の進駐による水質汚染から崩れ始めました。ホノルル近くに建設された地下燃料庫からの燃料漏れによるとされる健康被害は現在も解決していません。サトウキビ農場を作るための原生林の伐採は自然の水循環システムを破壊しました。

これらによりハワイの水資源はすでに深刻な不足に陥っていましたが、さらに年々拡張し、パンデミック前は1000万人以上の訪問者数を誇った観光業が追い打ちをかけ続けています。現在もハワイ州の収入の4分の1を占める観光産業はとにかく水を大量に使います。私たち観光客がラグジュアリーなホテルのお風呂で大量の水を流しっぱなしにしている一方で、地元住民は時期により「不要不急の水の利用は罰金500ドル」などの厳しい節水を迫られています。

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ハワイの魅力は何と言ってもその美しい自然とネイティブの文化ですが、それも私たち観光客があまりに多すぎるために脅かされています。ビーチも山もオーバーツーリズムにより汚染され、ゴミが堆積し、2,6000種以上ともいわれる豊かな生物多様性は持ち込まれる外来種に侵されているそうです。ネイティブにルーツを持つ人たちのコミュニティは、生活を脅かすレベルで高騰する物価や犯罪率の一方で、祖先の文化がアメリカや日本の資本による観光業に都合よく利用されているのを、どんな目で見ているのでしょうか。

ネイティブハワイアンで活動家・教育家でもあった故Haunani-Kay Trask氏は、こうしたハワイの観光の現状を「文化的売春」と表現しました。

25年の歴史を誇る「持続可能な観光協会」 

そんなハワイは「サステイナブル」という言葉が今ほど普及していなかった25年前から、NPO「持続可能な観光協会(Sustainable Tourism Association in Hawaiʻi=STAH)」を設立して、島の自然とネイティブな文化の保護に取り組んできました。実はそのルーツはさらに古く、1994年にハワイで開催された「エコツーリズム会議」。700名以上が参加したこの国際会議の中から、当時まだ「エコ」という言葉を使って表現されていた持続可能性について、観光客・企業・政府に啓蒙する団体が発足しました。

現在の活動は、主に地元住民、企業、観光客に対する教育活動とサステイナブルな観光関連ビジネスの認定。観光業界における「ポノ(pono=ハワイ語で正しい行い、という意)」­=トラベル・ポノを普及することをミッションに、サステイナビリティへの貢献度が高い地元のサービス業を認定・表彰したり、啓蒙のためのイベントを開催したり、正しいハワイ伝統文化や生態系、サステイナブルな街づくりに関する知識などの教材の作成・配布などを行っています。

彼らの活動に直接貢献したい観光客向けには、公式サイトで認定サービスと観光客をつなぐ「トラベルプランナー」を提供しています。

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サステイナブルなハワイの旅を提供するために生まれた「The Coconut Travel」

前置きが長くなりましたが、そんな同協会のパートナー企業の一つが、今回ご紹介するゼブラツーリズム会社、「The Coconut Travel」。ハワイで唯一のB-corp認定企業です。

Image : The Coconut Traveler Official Facebook

創業者のDebbie Misajonさんは、この島で生まれ育ち、世界を股にかけて30年間ホスピタリティ業界でキャリアを積んだ後に帰省した際、自分が熱意をもって取り組んできた産業が故郷に破壊的なダメージを与えている様子を改めて目の当たりにしました。

観光客に責任あるツーリズムを提供し、その利益で環境を再生するための会社The Coconut Travelを創立したのは2018年のこと。その後パンデミックなどによる紆余曲折を経て昨年Bコープ認定を取得し、今年5周年を迎えました。

同社のミッションは「クレアナ(kleana=ハワイ語で相互的な責任の意)」あるツアーを提供すること。「観光客の訪問を善の力として利用し、そのお返しにハワイの隠れた魅力を提供する」をモットーとしています。顧客のライフスタイルと希望に基づいて、ビーチでのアクティビティから野生動物の観察、ハイキング、星空観察まで、地元のサステイナブルなサービス業者と提携して、ありふれたツアーでは得られない特別な体験をアレンジし、その利益をパートナーである各種団体に還元しています。

The Coconut Travelがサポートしている団体と活動には以下のようなものがあります。

ハワイ流域パートナーシップ協会

ハワイはサンゴに有害なオキシベンゾンとオクチノキサートの販売を禁止した米国で最初の州です。ハワイのサンゴ礁は美しいだけでなく、海洋野生生物種の25%、1,000を超える固有種と植物を保護し、異常気象から島を守っていますが、上記のような化学物質や気候変動、乱獲、無責任なシュノーケリングやプラスチック汚染などの影響を受けやすく、絶滅の危機に瀕しています。寄付された利益は同団体がサンゴの生育に必要な生態系を回復するための植物の購入資金になります。

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アロハツリーアライアンス

この団体は、気候変動と観光による自然環境へのダメージ緩和に取り組んでいます。具体的には森林の再生や生態系に関する教育活動、アグロフォレストリーの構築、観光客が生態系を破壊せずに自然を楽しむためのハイキングコースの整備などを行っています。

Conservation Dogs of Hawaii (ハワイ保安犬協会)

専門家による訓練により犬の嗅覚の力を借り、生態系の保護のために活動する団体です。具体的な内容は大きく2つ、侵入的な外来種を検知・回収し在来種への影響を緩和することと、研究と保護のために在来種を検出することです。

このほかにもちろん、ウミガメの保護活動に取り組むマラマ・イ・ナ・ホヌ、ハワイ島から州全体の在来鳥とその環境を守るハワイ・ワイルドライフ・センターなどにも寄付をしています。

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実は筆者もハワイの虜で歴史や文化も少しは勉強し、リスペクトをもって訪れていたつもりでした。しかし、旅行した時に冒頭で触れたようなハワイの深刻な問題は一切目に入って来ませんでしたし、あの美しい自然や文化がこんなに多くのNPOベースの団体の活動によってなんとか保たれ、それでも様々な面で危機に瀕しているとはつゆ知らず、観光客の立場を享受していました。お恥ずかしい限りです。

旅行者でいる時には「いったんお休み」にしてしまいがちなサステイナビリティですが、その旅行者をひっきりなしに受け入れているがために悲鳴を上げている美しい景勝地は、ハワイだけでなく世界中で後を絶ちません。パンデミック中に世界中の人が旅行を控えたためにその美しさを取り戻して話題に上がった観光地の数々は、今どうなっているでしょうか。

世界が「日常」を取り戻し、そろそろまた海外に旅行に行こうか…と考え始めている人も多いかもしれない今は、まさに「トラベル・ポノ」を考えるための最高のタイミングかもしれません。

文:ウルセム幸子

編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。