2023.06.16 ZEBRAS INSIGHT

事業フェーズや目指す社会的インパクトに応じて、柔軟に関わり方を変えるZ&C流の経営支援。AsMama、Helical Fusion代表に聞く


事業フェーズや目指す社会的インパクトに応じて、柔軟に関わり方を変えるZ&C流の経営支援。AsMama、Helical Fusion代表に聞くのイメージ

Zebras and Company(以下、Z&C)は、資金調達のサポートや経営・マーケティング戦略の策定、組織開発など、ゼブラ企業に対する多面的な支援を行っています。社会性と経済性の両立を目指すゼブラ企業にとって、どのような経営支援が有効なのでしょうか。共同創業者の田淵良敬さんが担当する2社の経営者から、支援の内容とその特徴、支援を受けたことによる会社の変化について聞きます。

社会的インパクトを目指すも、経済との両立に課題感

——まずは、AsMamaとHelical Fusionがどのような企業なのか教えてください。

AsMama・甲田さん(以下、甲田さん):AsMamaは、全国の自治体や事業者様と連携しながら、地域ごとに子育てを支え合ったり、ものの貸し借りをしたりできる「子育てや暮らしを頼りあう」コミュニティを作っています。地域の活動の主体を担うのは、有志の方々。その地域を良くしたい、子育てを支援したい思いを持つ方々を「シェアコンシェルジュ」として認定し、AsMamaがコミュニティ作りのノウハウを提供し、地域イベントを一緒に企画しています。

そうしたアナログな支援とともに、自社の「子育てシェア」「マイコミュ」「ロキャピ」という、住民同士の「共助」を促進するアプリを実装するなど、デジタルの支援も行っています。最終的に目指しているのは、AsMamaの支援がなくとも、住民同士の自発的な頼りあいによって子育てや暮らしの孤立・孤独の問題を解消し、コミュニティが「自立自走した地域」を増やすことです。

株式会社AsMama 代表取締役CEO 甲田恵子さん
1975年大阪府生まれ。1998年、省庁が運営する特殊法人環境事業団に入社。役員秘書と国際協力関連業務を兼務する。2000年、ニフティ株式会社入社。マーケティング・渉外・IRなどを担当。2007年、ベンチャーインキュベーション会社、ngi group株式会社に入社し、広報・IR室長を務める。2009年3月退社。同年11月に子育て支援・親支援コミュニティー、株式会社AsMamaを創設し、代表取締役CEOに就任する。

——ありがとうございます。続いて、田口さんお願いします。

Helical Fusion・田口さん(以下、田口さん):Helical Fusion(以下、HF)は、核融合エネルギーを生み出す技術の開発と社会実装を目指す企業です。核融合は、世界のエネルギー問題を解決する可能性がある技術ですが、持続的・安定的にエネルギーを共有するには、越えなければならない壁がたくさんあります。

我々が採用している「ヘリカル方式」は、他の核融合の方式と比べて安定したエネルギーを生み出せることが特徴です。その技術を用いた核融合炉を開発し、核融合エネルギーの社会実装を早期実現させます。

株式会社Helical Fusion 共同創業者 田口昂哉さん
京都大学卒業後、みずほ銀行、国際協力銀行(JBIC)、PwCアドバイザリー(M&A)、第一生命、スタートアップCOOなどを経て、株式会社Helical Fusionを共同創業。

——孤立・孤独という社会問題を解決するAsMamaと、ディープテックでエネルギー界にイノベーションを起こすHF。社会的意義の高い事業だからこそ、経済性とのバランスが求められますね。

甲田さん:おっしゃる通り、AsMamaは昔から、実現したい社会的なミッションと経済性の両立に試行錯誤してきました。創業当初の事業は、無料アプリの「子育てシェア」の提供と、地域のつながりを作るためのイベント事業。アプリは無料のため、売り上げはほとんどありませんし、イベントは「顔の見える関係性」を重視してあえて小規模のものを開催していたため、企業スポンサーが付きづらかったんです。

その後、イベントの方針を変え、参加者にだけ企業のPRをするのではなく、参加者を募る過程で企業コンセプトや商品の開発背景を丁寧に伝える枠組みにしました。ローカルなクチコミマーケティングに価値を感じていただき、きちんとスポンサー費用をいただけるようになったんです。ただ、それでも経済性はおろか、ミッションコミットメントも不十分な状態でした。

そこで生まれたのが、マンションや自治体に対して共助のノウハウや仕組みを提供する事業です。共助のコミュニティがあることは、マンションや自治体にとっての付加価値になります。数年単位で伴走をしながら仕組みを実装する事業なので、安定した収益をあげられるようになりました。

——信頼関係を土台とした共助のコミュニティの本質はぶらさずに、持続的な収益モデルの構築に奔走されてきたんですね。田口さん、HFの経済面はどのようになっているのでしょう?

田口さん:HFはディープテック特有の課題を抱えています。簡単にいえば、技術を開発して社会に実装するまで、事業収益がありません。核融合エネルギーの早期実現を目指しているとはいえ、商業化の目標は2034年。それまで、要素技術の提供は可能ですが、基本的には資金調達によって会社を継続しなければならない。経済面がうまくいかなかったディープテック企業が、資金ショートしてしまう事例もたくさん見てきたので、そうはならないようにしたいと考えています。

現場のカウンセリングから、投資家のネットワーキングまで

——目指す社会的インパクトと、経済性を追求する難しさがよくわかりました。そんな両社が受けられた支援内容を教えてください。

甲田さん:経営課題の相談、経営陣へのメンタリング、マネージャー陣への理念浸透、現場メンバーへのキャリアカウンセリング、業務フローの改善とそれに伴うシステム導入の支援など、本当に幅広く、経営全般を支援していただいています。

特に印象的なのは、入退社するメンバーへの関わりです。入社したばかりのメンバーが抱えている相談事を、田淵さんが聞いてくれます。評価に関係ないからこその話しやすさもあるようですが、田淵さんが客観的にAsMamaのカルチャーや人のことを共有する「道先案内人」をしてくれるので、置いてけぼりになる方が減りました。

また、退社しようとするメンバーの相談にも、田淵さんは乗ってくれています。退社の意思は尊重したいと思いつつ、残るメンバーのことを考えるとソフトランディングできるとありがたい。そんな会社側の背景も理解しながら、辞めるメンバーにとっても、残るメンバーにとっても、最善な選択肢を一緒に考えてくれるんです。

——メンバーと深い関わりを持っているんですね。そうした人への支援を通して、会社に何か変化はありましたか?

甲田さん:チームの一体感が強くなりました。AsMamaには、ビジネス意識の強いメンバー、社会貢献意識の強いメンバー、その間のメンバーと、大きく分けて3つの層が在籍しています。それぞれのモチベーションが少しずつ違うからこそ、組織作りの難易度は高い。

田淵さんはそうした状況を理解してくれた上で、経営が数字的な成果や目標ばかりに目を向けてしまっている時は、現場の声をあげてくれます。メンバーが働く意義を感じづらくなっている時は、自己肯定感が高まるような声かけをしてくれます。それぞれの層に対して、必要な関わりをしてくれるおかげで、多様性を担保しながら一体感もあるチーム作りができているんです。

——HFはいかがでしょうか。具体的にどのような支援を受け、会社にどのような変化がありましたか?

田口さん:HFは、陶山さん(共同創業者 陶山祐司)と田淵さんのお二人に支援をいただいています。陶山さんからアドバイスいただいているのは、お役所や政治家の方との折衝や、ディープテックの資金調達のコツについて。田淵さんからは、海外での資金調達の準備や、投資家とのネットワーキングを支援いただきました。田淵さんは、ご自身がアメリカに出張にいく際も、投資家に対して弊社を紹介してくださるんです。

もちろん、他にもたくさんの方々に力を借りていますが、お二人のおかげで、日本とアメリカの両方で勝負していく土台が整いました。お役所や政治家の方とのコミュニケーションは、ここまでミスなく進められていますし、海外とのプロジェクトにおいても提案書の書き方のポイントを教えていただき準備ができました。

経営者の孤独に寄り添い、伴走してくれる存在

——実際に関わってみて思う、Z&Cの経営支援の特徴について教えてください。

甲田さん:Z&Cおよび田淵さんの特徴は、フィランソロピーの考えを持ちつつ、事業拡大と社会的インパクトの両方の知見をお持ちなところだと思います。私の感覚ですが、この3つを兼ね備えている方は、日本に100人もいません。その上で、AsMamaのカルチャーに共感し、事業だけではなくメンバーの働き方やキャリアまでケアしてくれる人は、本当に希少。また、田淵さん自身が、AsMamaが取り組む「孤立・孤独」の問題を、社会にとって非常に大きな課題だと捉え、投資すべき部分だと心底信じてくださっているのも心強いです。

田口さん:いわゆるコンサルのように戦略を描くだけではなく、手足を一緒に動かしてくれる支援スタイルが特徴だと思います。また、陶山さんと田淵さんの持っているケーパビリティが、僕たちのようなエネルギー関連のディープテック企業と相性がいいんです。新エネルギーを開発するには、行政や政治との関わりが必要であり、海外投資家との繋がりも不可欠。その分野の専門家を雇う余裕がまだないスタートアップからしたら、非常にありがたいフォーメーションだと思います。

——経営者であるお二人から見ると、田淵さんはどのような存在なのでしょうか。

甲田さん:友人とも取締役とも違う、メンターのような存在ですかね。経営者は、社内に対してネガティブなことを共有しづらく、孤独を感じがちです。取締役会でそうした議題を扱うこともあるけれど、その場合はある程度の整理が必要になる。まだうまく言語化できていない段階で、気になることや心配なことを聞いてもらえるのが、すごく助かっています。

田口さん:田淵さんは、精神的な安らぎを与えてくれる人というイメージです。もちろん、具体的なサポートもしてくださいますが、僕のようにビジネス側を一人で担っている経営者からすると、そうした存在がいるだけで救われます。雰囲気も柔らかくて、話しててストレスもないし、相談するハードルがいい意味で低いことも嬉しいポイントですね。

新しい挑戦に対しても継続的な支援を期待

——心理的安全性が高くて気軽に相談できることが、経営する側にとってはありがたいんですね。では、今後Z&Cに期待している支援はありますか?

甲田さん:新しい挑戦に対しても、引き続きお力を借りられたら嬉しいです。いまAsMamaは、ご近所同士でものの貸し借りを行うアプリ「ロキャピ」の開発と社会実装に力を入れています。

これまではAsMamaが主体となって共助のコミュニティを作ってきました。しかし、コロナ禍をきっかけに、コミュニティの希薄化や孤立孤独の深刻化のスピードが早まったことを感じ、住民一人ひとりの内発的動機によって、ご近所の繋がりが生まれる仕組みを作ろうと挑戦しているんです。

この構想を人に話すと、大体の方から「やっと収益が安定したのに、また開発費をかけて大丈夫?」と言われます(笑)。そんな一見無謀にも見える私のチャレンジを、支えていただけたら嬉しいです。

——新しい挑戦が楽しみですね。田口さんが期待されていることはなんでしょうか?

田口さん:ひとつは、陶山さんにお力添えいただきたいことです。昨今、日本政府が核融合に力を入れ始めているので、役所や政治家の方とのお付き合いについて、引き続きアドバイスいただきたいと思っています。

もうひとつは、田淵さんに対するもの。最近、田淵さんに組織作りのアドバイスをいただいているんです。経営者の先輩として、引き続き、採用、人材育成、マネジメントなどの知見も学ばせていただけたらと思っています。

——ありがとうございました。この記事は、Z&Cへの入社を検討している方に読んでもらいたいと思っています。最後に、お二人から見たZ&Cで働くことのメリットや意義を教えてください。

甲田さん:利益を追求する会社を作るだけでも大変なのに、社会課題を解決しながら事業成長を目指すことはすごく難しく、そしてぜいたくな選択肢だと思います。ひとつの会社を経営するだけでも得られるものがたくさんあるのに、Z&Cなら、そうやって本気で社会を変えようとしている複数の企業の経営に携わることができる。1回の人生では経験できないようなチャレンジだと思います。田淵さんをはじめとする創業者の3名を追い越すような勢いで、この贅沢なチャレンジを楽しんでもらえたら、私も嬉しいです。

田口さん:Z&Cは成長できる環境だと思います。これだけいろんな視点やバックグランドを持った創業者と、少人数のチームで一緒に働けることは滅多にない機会です。それに、いわゆるコンサルティングファームではなく、ほとんどクライアントの一員として働くので、経営を疑似体験できるはず。きっと、クライアントから学べることも多いでしょう。圧倒的な成長をしたい方にとって、魅力的な選択肢のひとつだと思います。

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。