2021.06.28 NEWS INSIGHT

革新的な企業と忍耐強い資本を結びつけることを使命とする唯一の米国国内証券取引所「LTSE(ロングターム証券取引所)」とは?


革新的な企業と忍耐強い資本を結びつけることを使命とする唯一の米国国内証券取引所「LTSE(ロングターム証券取引所)」とは?のイメージ

2021年6月24日、ロングターム証券取引所(LTSE)は、同取引所の初の上場企業として、プロジェクト管理ツールを提供するAsana(アサナ)と、音声通話やチャットなどの様々なコミュニケーションツールのAPIサービスを提供するTwilio(トゥイリオ)の2社が、2021年8月26日にLTSEに上場する予定であると発表しました。

 私たちとLTSEは類似の理念を掲げており、どのような企業が上場するのだろうと楽しみにしていました。本記事では、速報として、AsanaとTwilioのLTSEへの上場についてお伝えします。

LTSEとは

 みなさんは、ロングターム証券取引所(LTSE)という証券取引所について聞いたことがあるでしょうか。
 その名の通り、長期的な目線に立って経営する企業と、長期的な目線に立つ投資家を結びつける米国の証券取引所であり、自らを、「革新的な企業と忍耐強い資本を結びつけることを使命とする唯一の米国国内証券取引所」と位置付けています。
 世界中でベストセラーとなった書籍「リーン・スタートアップ」の著者であるエリック・リース氏が主導して、2019年に創設されたことでも注目されてきました。

 LTSEは、以下の5つの原則を掲げており、上場企業には、その原則と、それをベースにした上場基準に従うことや、日々の株価の推移ではなく長期的な成長に基づいて成功を定義することを求めています。

1.長期のステークホルダーに関する方針:長期志向の企業は、より幅広いステークホルダーと、それぞれの成功において果たす重要な役割を考慮すべきである

2.長期の戦略に関する方針:長期志向の企業は、数年から数十年の単位で成功を測り、長期志向の意思決定を優先すべきである

3.長期の報酬に関する方針:長期志向の企業は、長期的な成果に経営陣・取締役の報酬を合わせるべきである

4.長期の取締役会に関する方針:長期志向の企業の取締役会は、長期戦略に関与し、明示的に監督すべきである

5.長期の投資家に関する方針:長期志向の企業は、長期志向の株主と対話を行うべきである

 既存の証券取引市場とは異なる理念を謳っていること、これまでLTSEに上場している企業が一社もいなかったことから、どのような企業が上場するのかと注目を集めてきました。

LTSE登場の背景

 「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」

 1970年9月13日、ミルトン・フリードマンはニューヨークタイムズにそのように寄稿しました。
 それから約50年、米国発の株主資本主義(shareholder capitalism)は世界中を席巻し、今に至っています。一方で、リーマンショックの発生は株主至上主義、短期志向(Short-termism)への反省を促し、また、気候変動やその他の地球環境問題の深刻化、貧困問題などを受け、ビジネス・投資を通じて社会課題を解決しようというCSV、ESG投資、インパクト投資などの潮流が広がってきています。

 2019年には、米国のビジネス・ラウンドテーブル(BRT)という経済団体が、「株主至上主義」を見直し、顧客や従業員、サプライヤー、地域社会、株主などすべてのステークホルダーを重視する方針を表明し、トップ企業の181人の経営者がその声明に署名したことが話題になりました。既存の金融市場に対しても、短期的な株主価値の最大化を過度に追求していることへの批判が高まっており、そうした背景の中で、長期的な経営と投資を志向するLTSEは注目を集めていました。

上場2社の顔ぶれ(AsanaとTwilio)

 今回、LTSEへの上場を発表した2社は、いずれもサンフランシスコを本拠地とするテック企業です。両社とも、世界最大の証券取引所であるニューヨーク証券取引所にも上場しており、既存の上場市場にくわえて、LTSEを通じて多様な投資家と対話を重ねていくとしています。

Asana公式サイトより参照

 Asanaは、Facebookの共同創業者であるDustin Moskovitzと同社のエンジニアであったJustin Rosensteinによって2008年に設立されました。
 日常業務から大規模なプロジェクトまで、ユーザーが、チームメイトとさまざまな作業を調整できるプロジェクト管理ツールであり、現在、世界で190カ国、数百万の組織に使われており、そのうち有料顧客が10万以上いると発表しています。直近四半期の売上は85億円程度、直近の時価総額は1兆円超のテック企業になります。
 同社創業者のDustin Moskovitzは、今回のLTSEへの上場に際し、「LTSEに上場することを通じて、長期的志向に対するコミットメントを高め、戦略を実行するための仕組みをさらに発展させ、同様の価値観を共有するステークホルダーとのと連携していきます」とコメントしています。

Twilio公式サイトより参照

 もう一つの企業であるTwilioは、電話やSMS・ビデオ・チャット・SNSなどといったコミュニケーションツールのAPIを提供している企業です。
 100カ国以上で30億以上の電話番号を準備し、20万以上の顧客にサービスを提供、直近四半期での売上が650億円、年間50-60%程度で成長する急成長企業です。
 Twilioの共同創設者兼最高経営責任者であるジェフ・ローソンは、LTSEの上場に関して、「私たちは、企業というものは社会に対して、ポジティブなインパクトを与えるべきだと信じています。私たちは、常に、すべての利害関係者のために持続可能な価値を創造することに焦点をあててきました。長期的な成長へのコミットメントを共有するステークホルダーコミュニティに参加することを楽しみにしています」とコメントしています。

”社会性”や”サステナブル”の観点は今後に期待

 私たちZebras and Companyも、ゼブラ企業の特徴の一つとして「長期的でインクルーシブな経営姿勢であること」を掲げており、短期的な時価総額の追求ではなく、長期的にステークホルダー皆が幸せになれるような企業の支援を進めています。
 そうした意味でも、類似の理念を掲げ、米国証券取引委員会に証券取引市場として認められていたLTSEの動向はかねてより非常に注目しており、どのような企業がLTSEに上場するのだろうと楽しみにしていました。

 いずれの企業も経済的に急成長を遂げているテック企業であること、また、従業員への配慮、顧客への貢献を謳う企業であることは認識していましたが、“社会性”、“サステナブル”という観点からの日本での認知度・注目度は必ずしも高くなかったと感じています。
 今後、両社がLTSEに上場した背景や、上場までの経緯(LTSEに対して提示した書類など)より具体的な情報を分析して、またお届けできればと考えています。

(参照)米国証券取引委員会のLTSEでの2社の上場に関する告知
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1477720/000147772021000035/a624218-kexhibit991.htm

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ゼブラ編集部

「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。