2021.08.03 ZEBRAS INSIGHT

金融業界を牽引してきた三尾徹氏に聞く、業界の根本課題と解決の糸口


金融業界を牽引してきた三尾徹氏に聞く、業界の根本課題と解決の糸口のイメージ

2021年、Z&Cの監査役として就任した三尾徹さんは、日産・ルノーの資本提携や、ダイエーの企業再生、ライフネット生命の立ち上げに関わるなど、30年以上の長きに渡り、日本の金融業界のプレイヤーとして活躍してきました。

今回は、三尾さんからみた金融業界の変遷と現状の課題について。Z&Cの目指す未来も含めて話を聞きました。

マネーゲーム化していったM&A

ー三尾さんのこれまでの経歴と、その中で感じている金融業界の変遷を教えてください。

1988年に大学院の修士課程を卒業し、外資系投資銀行のソロモンブラザーズ(現シティーグループ証券)の投資銀行部門M&Aグループに所属しました。比較政治経済学を学ぶ中で「社会を変える手段」として知ったM&Aは、日本では怪しい「乗っ取り」というイメージを持たれている時代。自身の目で真価を確かめてみたいと、その世界に飛び込みました。

その頃の日本は「ジャパンアズナンバーワン」と言われ、バブルが始まった時期。日本企業による海外企業への出資や買収が盛んでした。実際にM&Aの仕事をしてみると、海外、特にアメリカで行われるM&Aは、日本で持たれているイメージとは全く異なるものだとわかりました。法律や会計の知識、人間臭い交渉など、総合的な力が求められる仕事だったんです。

90年代にバブルが弾けてからは、海外から資本を持ってくる流れがメインとなり、日産とルノーの資本提携の際には、日産側のアドバイザーを務めます。また、ダイエーやマイカルの企業再生、当時の日本企業としては最大の買収額だった、JTによる海外企業のタバコ事業買収にも関わりました。

-規模が大きい案件を多数経験されたんですね。2005年に転職をされていますが、何が原因でしょうか

大きな理由の一つは、業界全体の風潮が変わってきたことです。90年代は、日本のM&Aの礎を築く時代で、企業としての戦略的な意味合いがある買収が盛んでした。しかし2000年代に入ると、ITバブルや、必要以上の財務レバレッジを用いた買収行動が盛んになる流れを受け、M&Aは少しずつマネーゲーム化していきます。

アメリカを中心とする金融市場にお金が余りはじめ、業界全体や会社で「意味」よりも「儲け」が求められるようになりました。その流れが、あまり肌に合わなかったんです。

さらに、個人的には、財務面のみを考慮したM&Aではなく、経営者の相性や従業員同士の文化の融合など、人や組織に関することまで企業戦略に位置付け、企業の成長を手がけてみたいと考えるようになっていて。画に描いた餅に止まらず、プランの実行まで関われる仕事をしようと転職に至りました。

起業家の生態系をつくる

-その後はどのような活動をされていたんですか?

そんなことを考えていた時に、長い付き合いの友人から声を掛けてもらい、目指していた形に近いファンドを創業。他のファンドがやらないような挑戦的な投資をしていくという方針で運用し始めました。

例えば、ライフネット生命の創業では、「ネットで生命保険会社」というアイディアを自分たちで考え、米ハーバード大学経営大学院に在籍していた岩瀬大輔さんに事業計画書を書いてもらいました。それを、当時日本生命の子会社の役員だった出口治明さんに見せると「自分がやりたかったことです」と共感していただいて。2006年に、岩瀬さんと出口さんの共同創業という形で会社がスタート。ゼロからビジネスプランを書いて創業に立ち会う体験はとても刺激的でした。

2012年にライフネット生命は上場し、お二人はそれぞれ別の世界で挑戦し始めました。現在、岩瀬さんは香港を拠点にVCファンドの運営に従事しつつ、個人でもエンジェル投資家として活動。出口さんは立命館アジア太平洋大学の学長として、グローバルな人材育成をされています。お二人の姿を見ながら、成功したベンチャー経営者が「経験・知識・資金」を若い世代に還元していく生態系の重要性を実感しました。

そのファンドで数年勤めたのち独立し、現在は、アドバイザーや社外取締役としてスタートアップや大企業の経営支援、新規事業創出支援をメインに行いながら、起業家の生態系作りに取り組んでいます。

ソーシャルセクター支援の課題=「時間軸のミスマッチ

-大切にされてきたことがよく理解できました。そうした経験を経て、三尾さんがZ&Cに参画された理由について教えてください。

Z&Cとの接点は、2015年頃にソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)で田淵さん(共同創業者・田淵良敬)と出会ったこと。寄付によって原資を集めるベンチャーフィロンソロピー(VP)で、社会起業家支援をしていた頃です。

そこでソーシャルセクター支援をする中で感じていた二つの課題感が、ゼブラ参画につながっています。一つは、投資対象になり得る団体や企業が少ないこと。今でこそ、力のある社会起業家が出てきはじめていますが、当時は、志はあっても、資金面を含め事業の継続や拡大をするための十分な力を持っている経営者は少なかったんです。また、その人たちが互いに学び合い、かつステークホルダーときちんとした対話のできる、多様性のある環境も不足していました。

もう一つは、社会課題と助成や投資の時間軸がミスマッチしているという課題。当時のSIPでは、おおむね3年間で一区切りという条件で支援していましたが、その期間で企業が失敗できるのは1・2回程度。社会課題解決の難易度からすると短すぎます。もっと長期的に柔軟な関係性で伴走できるサポーターの必要性を実感しました。

社会的意義の高い活動を支える、多様なステークホルダーの交わる生態系と、柔軟な時間軸の投資の重要性を感じていた中で、ゼブラ企業というコンセプトやZ&Cの考え方に共感し、監査役として参画させていただきました。

リテラシーを持つ投資家と起業家が出会うプラットフォーム

-改めて三尾さんが考える、金融業界の根本的な課題とはなんでしょうか?

世界全体で見るとお金が余っていますが、本当に必要とされている場所に、意味のあるお金が行き渡っていません。一つの大きな要因は、巨額の資金を扱う機関投資家や、彼らにお金を預けるアセットオーナーに、きちんとした哲学と目利き力を持った人が少ないことだと感じています。インパクト投資やESG投資などの重要性への理解は進んできましたが、流行に乗っているだけの「Me too投資家」も多いのが現状。

-なぜ、哲学や目利き力を持った投資家は少ないのでしょうか?

原因の一つは、機関投資家やアセットオーナーが、プロフェッショナルである以前にサラリーマンであるということだと考えています。要するに、投資リターンと個人の経済的地位や収入が紐づいていない。その結果、欧米と比べてリターンに対する動機が薄くなり、リスクはあるけれど、将来的に伸びる可能性がある分野への投資には後ろ向きになります。

日本では社会貢献の文脈で語られることの多いインパクト投資も、ゴールドマンサックスなどの企業がいち早く乗り出した理由は、そこに大きなリターンの可能性を感じたからです。横並びの投資で結果が出ないと考えた欧米の投資家たちが、新しい領域を開拓しているのに、日本でそのような動きはずいぶん遅れてやってきました。

良い面ばかりだとは言えませんが、運用のリターンが投資家に還元される欧米的な環境の方が、新しい挑戦の気概を持つプロフェッショナルな人材を育てるのも事実。そうした雇用環境の変革も含め、機関投資家やアセットオーナーの投資リテラシーを向上していく必要があると考えています。

-解決の糸口となることものはなんでしょうか?Z&Cの活動への期待を含めて、教えてください。

起業家が間違った性質の出資を受け、投資家に翻弄されてしまうことは日常茶飯事です。Z&Cには、支援者・投資家であると同時にプラットフォーマーとして、哲学とリテラシーを持った投資家と、志を持ったスタートアップ起業家の出会う場所を作っていくことを期待しています。

そこで財務的・社会的リターンを出していけば、徐々に機関投資家などのメインプレイヤーを呼び込める座組みを作れるかもしれません。数年で出来ることではないですが、自分たち自身がゼブラ企業だという自覚を持って、10年先まで見ながら一緒に歩んでいけたらと考えています。

三尾徹 Toru Mio
1988年ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社入社、東京・ニューヨークの投資銀行部門に勤務。2000年より日興シティグループ証券株式会社マネジング・ディレクター、2005年より株式会社あすかDBJパートナーズ代表取締役等を務め、2010年株式会社ミオアンドカンパニー設立、代表取締役就任(現任)。2021年Zebras and Companyの監査役に就任。

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。