2022.03.04 ZEBRAS

サステイナビリティは複雑なものだから。オランダ発製品サステナ度アセスメント企業「 Dayrize」


サステイナビリティは複雑なものだから。オランダ発製品サステナ度アセスメント企業「 Dayrize」のイメージ
Dayrize公式サイトより

「この商品はサステイナブルです」…本当に?

だしぬけに失礼ながら、商品やサービスに「地球にやさしい」「環境への配慮」が謳ってあるのを見ると「本当に?」とハスに構えてしまうひねくれた消費者は私だけでしょうか。

個人が一生で残すいわゆる「環境フットプリント」の4分の1〜2分の1は、その人が購入し、利用するものが占めていると試算されています。なるべくその影響が少ないものを選びたいとは思うけれど、いわゆる「グリーンウォッシュ」が市場に溢れるにつれ、何を基準に選べばいいか、ますます分からなくなる。そんなジレンマは、環境への関心が高い人なら一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

「再生紙100%利用しています」――再生の過程でかえって環境に負荷をかけていると読んだけど?そもそもホント?「自然素材100%です」――必ずしも体と環境にやさしくないよね? タバコだって自然素材よ?「プラスチックはリサイクルしましょう」――何かに生まれ変わるような印象を与えておいて、どうせサーマルリサイクルとか言って燃やしちゃうんでしょ?

「環境にやさしい」だけでもこのありさまですから、それが「サステイナブル」となるとさらに大変です。国連のSDGsの17のゴールには、環境問題の他にも人権、貧困、平等、安全などさまざまな領域がカバーされており、「それらを全てクリアする条件で作られている製品などこの国に売っているの?」と気が遠くなります。

そもそも一つの商品が環境や人や社会に与える影響を全て考慮したら、それはバタフライエフェクト満載の複雑なもの。環境への配慮と人権やコストの問題がどうにも相反する、などというケースも多々あるでしょう。全て見通すなんて、普通の消費者には無理ではないでしょうか。

そんな消費者の強い味方、オランダ発サステナ度アセスメント企業「Dayrise」

そんな悩める私たちのためのサービスを開始するために起業されたのが、オランダ・アムステルダムの「Dayrize」社。

ものすごくざっくり言うと、市場に流通する製品やサービスの包括的なサステイナビリティ度を評価する専門の会社です。ドイツのスタートアップ専門メディアEU-Startupsの「2022年にもっとも注目すべきオランダの10のスタートアップ」のうちの1社にも選ばれており、eコマースの新星として熱い視線が注がれています。

共同設立者のうちのひとりは、サステイナビリティ大国のオランダでも大手のサステナ系コンサルタント会社CEOでもある、産業エコロジスト(生態学者)のEva Gladek氏。

Dayrize社の立ち上げにあたっては、そのサステイナビリティに関する知見と経験、環境系科学者をはじめとする各分野の専門家の頭脳を集結。製品が原材料からその役目を終えて廃棄された後までのライフサイクルの中で、環境や社会などあらゆる領域に与える影響(サステイナビリティ度)を包括的にアセスメントするツール「Dayrize Sustainability Assessment Tool」を開発しました。

ツールがあるとはいえ、一つひとつの商品の様々な側面を洗い出し、分析するのは相当な仕事量。それがメインの仕事であるかたわらで、サイドサービスとしてその「Dayrizeスコア」が一定以上と評価された商品を集めたオンラインショップも運営しています。

それぞれの商品のスコアが分かりやすく表示されている(公式サイトより)

同社の目的は、「地球の限界を超えない消費活動」をサポートすること。そのために製品を作る企業と、購入して利用する消費者両者にアプローチして、消費財の社会的・環境的影響を「見える化」しています。

すでに500以上のブランドと提携し、数千点の製品に「Dayrizeスコア」を付与しているとのこと。

Dayrizeスコアの尺度は?

そもそも複雑なサプライチェーンや製品のライフサイクルが発する環境的・社会的インパクトを総合的にアセスメントなど、どうやってするのでしょうか?

公式サイトでもさんざん「話が長くなります」と警告したのちに述べられている説明は、確かに長いのですが、「サステイナビリティとは何か」を明確に表しているとも思うので、分かりやすくまとめたいと思います。

まず、サステナ度を考慮して、Dayrize社にスコアリングをオファーされたブランドは、スクリーニングとして、以下の5つのDayrize社のポリシーを順守する宣誓書に署名します。

1. 人権の尊重
2. 動物福祉の保護
3. 環境、土地、地域社会への配慮
4. ガバナンスと製造プロセスにおけるサステイナビリティと倫理
5. サステイナビリティのための継続的改善への取り組み

実際のスコアリングにはある程度の日数がかかるため、オンラインショップで「スコアリング中」と表示される製品もあるのですが、その時点でこの5項目には同意したことが証明されます。

それから第三者による覆面調査で、ブランド(企業)に児童労働、強制労働、低賃金による労働の搾取、労働環境における何らかの危険、動物実験が存在しないこと、パーム油などの環境リスクの大きい材料や、発がん性物質、遺伝子組み換え、生殖毒性のある原料、マイクロプラスチックが含まれていないこと、製品や製造プロセスで絶滅危惧種などへの悪影響がないことが確認されます。

そこからいよいよブランドから様々な情報を収集して製品のスコアリングが始まるわけですが、Dayrizeスコアは大まかに以下の5項目でサステイナビリティ度を測ります。

Dayrizeスコアの5項目(公式サイトより)
  1. 循環性(サーキュラリティ):「閉じたループ」を描くため、個々の製品がどれだけ資源を再利用・リサイクルして廃棄物を最小限に抑えているか
  2. 気候への影響:製品の生産過程で排出されている温室効果ガスの量
  3. 生態系への影響:製品が生物多様性と水資源に与える影響の大きさ
  4. 生計と幸福:製品の生産に携わる人々の健康と幸福にどのように影響するか
  5. 目的:製品のそもそもの目的にどれほどの意味があるか=製品が直接的に提供する価値と、間接的に促進し得る価値によって計測

この5つの項目総合で20以上と評価されるとDayrizeスコアが付与されるシステムで、スコア100はほぼ不可能です。「40あればかなりいい方と思っていい」という厳しい目標設定には、Dayrize社のサステイナビリティに対する強い野心が表明されています。

さらにこの5項目は多くの下位項目があり、それぞれが国際的に信頼度の高い尺度でアセスメントされます。

 例えば1番目の「循環性」の評価にはさらに4つの下位項目があり、製品自体と包装に関する「サーキュラー資源含有率」「使用後下取りなどリユーズのシステムがあるか」「使用後リサイクルできるか」「製品寿命延長のためのサービスがあるか」が評価の対象に。

「気候への影響」は主に、製品とパッケージの原料採取・生産過程・流通のライフサイクルのプロセスでどれだけの温室効果ガスが排出されているかを、Ecoinventなどの尺度で評価。

「生態系への影響」には「生物多様性への影響」「水資源への影響」の下位項目があります。

例えば「生物多様性」に関しては、ケンブリッジ大学とNatural Capital Impactグループ共同開発の「生物多様性影響度測定法」に基づいて、製品に含まれるすべての原材料を項目別に分類し、それらの原材料を生産するためにどれだけの土地が必要であったか、どのような土地がどれだけ破壊されたかを評価します。

 「水資源への影響」はWorld Resource InstituteのAqueductツールを用いて、製品の原料と、製品自体の生産に要した水の量だけではなく、水の採取元や水質から総合的に水資源に与えた影響を測ります。

特に興味深いのが、4番目の「生計と幸福」。同社は「サステイナビリティは生態系保護とセットで連想されがちですが、持続可能性のもう一つの重要な側面として、バリューチェンに関わる人たちの健康と幸福を忘れてはなりません」と述べ、生産過程に関わる労働者の労働条件にも比重を置いています。

私たち先進国の住人が日々買うものの中で、「これをどうやってこの値段で売れるのだろう」と思うようなものには、多くの場合、生産過程に不当な低賃金労働が含まれています。

Dayrise尺度では製品が生産プロセスで関係者に与える影響を、「児童労働・強制労働がないこと、賃金格差や労働環境の安全・衛生リスクのなさ、労働時間の妥当さ、団体交渉のしやすさ、失業手当や年金の給付」などの下位項目で測っています。

最後に、筆者によって最もユニークに思えるのが「目的」。同社は「基本的に、環境に一切の負担をかけない製品などない」という前提のもと、「完成した製品がその負担に見合うだけの価値を提供するか否か」も評価します。

マズローの欲求5段階説などに従い、「その製品が提供する価値(必要であるか、人の生活や環境に大きなメリットをもたらすか?)」と、「ポテンシャル(例えば自転車ならば、それを手に入れた購入者が自動車の利用を減らして環境負荷が減る見通しなど)」を評価します。

これらすべての評価で総合的に20ポイント以上を獲得した製品だけが「Dayrizeスコア」を冠することができ、だからこそ意味のあるタイトルとして機能するという仕組みになっています。

もちろん、「製品がライフサイクルの中で社会と環境に与える影響を包括的に評価する」という試みは壮大です。同社もこのアセスメントツールの開発と、それによるビジネスの立ち上げがまだまだ「はじめの一歩」であることは自覚しており、今後毎年ツールをリバイズし、スコアを冠するブランドにもさらなるサステイナビリティに向けてサポートしていくプランを表明しています。

オランダらしい、「You have to start somewhere(どこかから、始めなきゃ)」な一歩を踏み出したDayrize社の試み。今後サステイナビリティの議論が深まるにつれ、どんな進化を遂げるのでしょうか。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

PROFILE

ウルセム幸子

3児の母、元学校勤務心理士。出産を機に幸福感の高い国民の作り方を探るため、夫の故郷オランダに移住。現在執筆、翻訳、日本語教育など言語系オールラウンダーとして奔走中。