2021.06.21 INSIGHT

ゼブラ企業とはなにか
〜夢幻のユニコーンより、身近なゼブラ〜


ゼブラ企業とはなにか<br/>〜夢幻のユニコーンより、身近なゼブラ〜のイメージ

日本語には「馬車馬のように働く」という表現があります。

馬の視野は350度と広いものの、見えないものは気にならないため、左右の視界を制限するブリンカーという覆いを装着されると前進あるのみ。今でも競馬や農耕作業をする馬には装着されることもあるようです。

ひと昔前の企業なら、小型化・効率化・高速化など、取り組むべき課題と目標が明確で、脇目も振らず、馬車馬のように働く社員を多く抱えた企業が、成功しやすかったのかもしれません。

しかし、ITソフトウェアの時代になり、プレイブックは書き換えられました。優れたアイデアがあれば、すぐにそれを形にできる。少人数の会社でも多くの投資を集めて、一気に世界中のシェアを奪うことだって夢ではない。そのようにして、わずか数年で爆発的な成長を遂げた非上場企業のことを、いつしか私たちは「ユニコーン」と呼ぶようになりました。

0.07%から始まった幻のユニコーン・クラブ

きっかけは、2013年に米国の人気メディアTechcrunchにて公開された記事「Welcome To The Unicorn Club: Learning From Billion Dollar Startups」でした。当時、米国で39社あった評価額10億ドル以上のITソフトウェア会社のことが「Unicorn Club(ユニコーン・クラブ)」として取り上げられたのです。それは当時のベンチャーキャピタル(VC)が投資していた米国企業のうち、わずか0.07%という非常に限られた数でした。

記事が公開された約1年半後には、ユニコーン・クラブのメンバーの数は早くも84社にまで増加したと同メディアは報告しています。エグジット後の多額の見返りに味をしめたVCの間では、将来ユニコーンになれそうな企業を見つける競争が始まり、シリコンバレー全体が「起業するならユニコーンを目指すべき」という風潮に流されていきます。

身近な課題解決に10億ドルもいらない!

やがて、みんながユニコーンを目指すべきという世の流れに違和感を覚え、声を上げる人たちが現れました。

マーラ・ゼペダとジェニファー・ブランデルは、とても気の合う創業者仲間でした。スタートアップを起業する前は、二人とも公共ラジオのレポーターとして活躍していて、その経験をもとに、身近な社会課題を自らの手で解決するために、会社を立ち上げていました。

マーラは、母校のリード大学で、大学生のキャリア支援を行うなかで苦労した経験をもとに、同大学の大学生や卒業生をつなぐローカルなオンライン情報交換サービス「Switchboard」を2013年に立ち上げました。知りたい情報が聞けて、持っている情報があればシェアできる、という単純な仕組みながら、大学生のキャリア支援には最適なソリューションでした。現役大学生は、興味のある分野の仕事の話を直接卒業生から聞くことができ、卒業生同士でも仕事の情報交換ができるなど、とても有益な交流の場になったのです。

ジェニファーは、2015年にメディア向けのテックコンサルティング会社「Hearken」を創業しました。自身もレポーターとして関わっていたシカゴ放送の「WBEZ’s Curious City」の成功例をベースに、市民から街の疑問をオンラインで集めて取材するという、新しいジャーナリズムの形を広めることをミッションに掲げ、活動を始めていました。

しかし、どちらの会社も特定の顧客やユーザーに向けたサービスであり、評価額10億ドル以上の事業規模を見込めるようなものではないため、VCからの評価は厳しかったようです。インパクト投資が集まるような業界でもないため、投資を集めるのに大変苦労したようです。

そこで二人は話し合いました。既存の枠に収まらないために投資の課題に悩んでいるのは、きっと自分たちだけではないはず。それなら問題提起をして、新たなモデルを提案してみたらどうか。意気投合した二人は、2016年2月にブログ記事「Sex&Startups」を共著で公開します。

爆発的な成長を遂げて「エグジット(事業売却・株式上場)」を目指す、既存のスタートアップの仕組みでは、精子が卵子に受精するくらいの成功確率しかない。それは「もはやクリエイティブではなく、マスターベーションである」と二人は痛烈に、ユニコーン型投資に偏る、男勝りなシリコンバレーの世界を批判しました。

もちろん、二人とも事業規模を拡大し、経済的に成功したいとは願っていましたが、長期的に取り組む覚悟を持って始めたことであり、短期的な利益を追い求めてエグジットしたいという考えはありませんでした。大事にしたいのは、コミュニティーの課題を解決すること、ユーザーが成功するのを手助けすること、人々の生活の改善を実現し、またそれを測れるようにすること、あるいはカルチャーを変えていくことであって、「成長は、数字だけで推し量るべきものじゃない!」と二人は記事の中で訴えました。

ゼブラを特殊な小さな枠に収めないで!

記事を読んだ人たちの反応から、確かな手応えを感じた二人は、1年後の2017年3月に「Zebras Fix What Unicorns Break」という題名のブログ記事を公開します。ここで初めて、既存のユニコーン企業と対比する意味を込めて、「Zebras(ゼブラ企業)」と名付けました。

ゼブラ(シマウマ)は、ユニコーンのような空想上の生き物ではありません。そして、常にグループで行動し、互いを支え合い、守り合うことを大事にしています。でもやはり最も目立つ特徴は縞模様です。

ゼブラ企業は、黒でもあり白でもある。つまり、利益を上げることができ、同時に社会課題の解決にも貢献できる。どちらか一方を犠牲にするものではない。従来の経済的成功に加えて、インパクトを与えたい社外の領域に対しても「どれほど針を動かせているか」を考慮して成功を測るべきだ、と二人は主張します。

このステートメントが言外に示しているのは「会社として利益を上げて、社会にも貢献する」という一見当たり前のようなメッセージを、わざわざ声を上げて主張しなければならないほど、シリコンバレーでは経済的成功が最優先で、他は蔑ろにされていたという事実です。

ゼブラのメッセージに共感し、Zebras Uniteの共同創設者兼スペシャルアドバイザーとして関わるようになったアニヤ・ウィリアムズは、ゼブラのイベントに集まった投資目線の人たちの多くが誤解をしていたと、2018年の米Techcrunchの公開インタビューで話しています。いわゆる「ソーシャルインパクト企業」とか、「人や社会のことを気にかけて起業した人たち」といった、何か自分たちとは関係のない、特殊な小さな枠に収めようとする人たちがいたけれど、そういう風には分類しないで欲しい、と訴えます。「実際、どんな事業でも社会に何らかのインパクトは与えているんです!」

「高さ」より「形」の時代へ

ユニコーンの夢を見続けているうちに、まるでブリンカーを装着された馬のように、スタートアップはみんな10億ドルという、幻の数字を追いかけてきた。その結果、事業利益と社会貢献のバランスは崩れ、企業として当たり前のことをみんな見失っている。アニヤはそのようなメッセージを伝えようとしていたのかもしれません。

スタートアップ企業を熱帯雨林の木に例えると、グングン成長して、周りの木よりも高く伸びて、日光に当たる背の高い木になれることを、これまではみんなが目指していました。もし十分高く伸びることができなければ、他の高い木に邪魔されて日光を十分に受けられず、その企業は枯れて倒産すると考えられていました。しかも、背の高い木として成功できるのは、全体の極わずかであると。

しかし、実際の熱帯雨林では様々な動植物がいるからこそ、その生態系は維持されています。日光があまり届かない背の低い木でも、元気よく生きています。そうした木も、熱帯雨林に確かなインパクトを与えています。

昔はひと握りの人間しか起業はできませんでした。でも今なら、どんな年齢でも、どんな学歴でも、どんな性別でも、あるいは、どんな人種でも、アイデアとパソコンが一台あれば、スタートアップを立ち上げることができる、実に自由でクリエイティブな時代となりました。

国や地域ごとに社会課題は異なります。誰かが立ち上げた事業によって、他の誰かが救われ、その社会が少しでも良い方向に進むのであれば、たとえ10億ドルの事業規模になれるほどの見込みはなくても、事業の立ち上げと継続に必要な投資は、十分に受けられるべきでしょう。

みんなが一様に背の高い木を目指して「高さ」を競い合っていたのは、夢幻の世界だったのではないか。ゼブラ企業というオルタナティブな概念に今注目が集まっているのは、むしろ各々が自身に最適な「形」を見つけて、それに見合った成長を遂げながら、互いに支え合っていくという、より身近で現実的な未来に、共感が集まり始めているからではないでしょうか。

馬車馬よりも視野が広く、ユニコーンよりも身近で現実的な、ゼブラが多く活躍できる世の中になれば、「Grow or Die」などと、スタートアップ創業者にかけられるという過度なプレッシャーも減ることでしょう。そうしたプレッシャーに耐えられる一部の人だけしか起業ができないのは、実にもったいない。より多くの人が、解決したい身近な社会課題にフォーカスした事業を自らの手で立ち上げることができ、クリエイティブに社会と関わり、みんなで支え合いながら、適切な利益を得て、サステイナブルに事業を続けられる時代へ。

そのような時代を「ゼブラ企業」が牽引してくれるというのならば、注目に値するはずです。

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