2024.09.18 ZEBRAS INSIGHT
女性起業家コミュニティが成長した姿。〜カルティエが18年間取り組むCartier Women’s Initiativeアニュアルイベント参加レポート〜
こんにちは。
Z&Cの田淵さんはZebras Uniteの世界的カンファレンス(昨年にもレポート記事を書いています)や、パートナーとして参加しているCartierによるCartier Women’s Initiative(以後、CWI)のアニュアルイベント、AVPN(Asia Venture Philanthoropy Network)など海外でのカンファレンスに招待され参加することが多くあります。
今回の記事は6月に中国深圳で開催されたCWIのアニュアルイベントにCWI東アジア地区のコミュニティ・リードとして田淵さんが招待され参加してきたので、その様子をレポートします。
CWIとは。そして、中国で行われた今年のイベントについて
CWIは2006年にカルティエがマッキンゼーとINSEADビジネススクールと立ち上げた女性社会起業家支援プログラムです(詳細はMashing Upの記事をご覧ください)。毎年、カルティエグローバルのCEOシリル・ヴィニュロンがアワード期間中に数日間滞在して登壇したり、フェローや審査員、アドバイザーなどの参加者との親交を深めたりと、カルティエとしてもコミット度の高い取り組みです。
今年のアワードは中国の深圳で行われ、33人のフェローが世界の9地域とサイエンス&テクノロジー、ダイバーシティ&インクルージョンの2つの分野から選出されました。アワードの前後では、3日間、参加者によるクローズドなイベントや勉強会などもあり、次のような会に参加してきました。
・プレナリー・セッション
シリルとINSEADの教授などによるキーノートスピーチ
・リージョナル・ラウンドテーブル
各地域のフェロー、審査員、アドバイザー、各国のカルティエ代表などで情報交換
・Movilizing Investors
CWIが始めたコミュニティ内の投資家とフェローをつなぐCapital Programの説明
・コミュニティ・リード グローバル会議
アワード以外にも今年から始まった世界9地域から一人ずつ選ばれているコミュニティ・リードによる各地域のこれまでのフェローや関係者のコミュニティをどう作っていくか
・東アジア地区審査員とのランチ
・その他
これまで例年はアジア地区でのフェロー選定審査員として参加し、自分達が選出したフェローたちがとのリアルで接したり、彼女たちが受賞されるのを見るという場でしたが、今年からコミュニティ・リードという役割に変わり、違った目線で見ることができました。私が関わり始めた頃、カルティエグループの中でもCWIは比較的独立した存在のイメージが強かったのですが、最近ではローカルコミュニティを作っていくことも目標に掲げ、各国の支社との連携も強くなってきました。
私が、ファシリテーターを務めたリージョナル・ラウンドテーブルでは、韓国、日本、香港のカルティエの代表がいて、特にフェローを過去に多く輩出している香港や韓国でカルティエとCWIがどう連携しているかなどが話され、より地域とのつながりが強くなっていくであろう未来を感じました。
ラグジュアリーブランドの社会的責任、AIと社会課題、そしてCWIとしての投資との新しい関わり
その中でも興味深かった3つのトピックについてご紹介します。
1. ヨーロッパのラグジュアリーブランドが環境や社会課題にコミットするWatch and Jewerlly Intiative 2030
ヨーロッパでは金融機関を始めとしてESG投資など環境や社会課題を重視するアクションがスタンダードになりつつありますが、大企業に置いてもその動きが加速しているのを感じました。キーノート・スピーカーの一人イリスが自身も所属する欧州の時計・宝石メーカーが署名しているイニシアチブであるWatch and Jewerlly Initiative 2030の取り組みについて説明。カルティエ、グッチ、スヴァロフスキなどの名だたる大企業や、宝石では世界最高峰の学術機関のGIAおよび業界に関わる中小企業なども参画して、気候変動、生態系、インクルーシブネスの3分野での貢献についてコミットしているそうです。全ての取り組みを把握してるわけではありませんが、ラグジュアリーブランドと呼ばれるような企業が数多く参加している取り組みは新しく、これからの動きに注目しています。
2. AI x 社会課題を扱う起業家の増加
現地では社会課題解決にAIを使った起業家に多く出会いました。その中でも印象に残っているのは視覚障害者向けにAIアプリを提供しているトルコのスタートアップBlind Lookです。盲目の人のコミュニティとアプリを持っており、様々な企業に提供しています。例えば、レストランと提携してメニューを音声で読めるようにしたり、服飾ブランドと提携してタグを音声で読めるようにしたりとさまざまなサービスを展開します。
彼女自身も視覚障害者であり、レストランで現在の共同創業者から「何食べたい?」と聞かれたときに「メニューも見ずにどう答えるの?」というやりとりがあったことから、プロダクトのアイデアを思いついたそうです。
また、コロンビアでマイクロレンディングとAIを組み合わせたEquipoというサービスを立ち上げた起業家のBidartも興味深かったです。 アルゼンチン出身のBidartは、アメリカのMIT在学中にMIT Design X Acceleratorというプログラムで優勝し、その後既存の金融ではカバーしきれてない人がいることを問題意識として持ち、コロンビアで創業しました。インフォーマルビジネスとも呼ばれる小さな商店の人たち(日本で言えば個人事業主として営んでいる地域の商店のようなもの)に対して、取り扱っている製品の写真やビデオなど文字だけでない情報もデータとして活用した独自の審査を行い1日〜数日で融資を行います。この審査は基本的にAIによって行われており、人の判断を介さないで情報分析のみをもとにした融資となっています。写真やビデオから信用情報をどう集めるのか細かくまでは聞けなかったのですが、これまでの銀行融資などとは全く違った角度からの情報で審査カテゴリーを作っており、17,000の融資先を持つまでに広がっています。
3. 「お金の色」を考えた投資家と起業家のマッチング
昨年からCWIでは新しくCapital Programを始めました。過去からのCWIフェロー向けに資金調達に特化して、専門家からのレクチャーや投資家とのマッチングを行うプログラムです。CWIフェローの中には既存の金融の仕組みにマッチしないゼブラ企業が多くいます。一方で、CWIコミュニティの中にはさまざまなタイプの資金(=「いろんな色のお金」)を提供できる投資家も存在しています。そういった投資家に向けてフェローの企業情報をまとめた冊子が作ることで企業理解を促進しマッチングを推進しています。また、シリコンバレーをベースとし発展途上国を中心にローンファンドを手掛けるBeneficail Returnと協働でCWIフェロー向けの融資ファンドも作り、創業初期の段階でも低金利での融資を受けれるような仕組みの提供も開始しています。
今回の参加を通じて、 CWIに参加する女性社会起業家の環境も変わりつつあることを感じました。AIや障害者向けサービスなど参加起業家のバラエティが増えてきていることや、過去のフェローの中には会社が成長し売却するような起業家も出てきています。
また起業家の成長に伴って資金提供環境などもCapital Programなどで整えられつつありました。女性社会起業家を取り巻く環境は国によっても違いがあり、難しい環境であることも多いですが、CWIは今後もより魅力的なプログラムになっていくでしょう。
来年は日本で開催。万博にもオフィシャルパートナーとして女性パビリオンが
来年は大阪で開催される万博において、女性パビリオンを日本のカルティエが経済産業省や内閣府、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会とプロデュースしています。そのためCWIアワードも来年は大阪で開催される予定です。CWIが取り組むジェンダーギャップの解消に関しては、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数ランキングにおいて日本は世界146国中125位と大きな課題の一つです。日本人には語学の壁などもあり、過去にCWIのフェローに選ばれた日本人は一人しかいないのですが、来年大阪で開催されるアワードを通じて世界で活躍する女性起業家を見て、日本からももっと応募が増えてくれることを願っています。
PROFILE
ゼブラ編集部
「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。