2021.09.28 ZEBRAS

温かいお金の流れをつくる。世界遺産・石見銀山を舞台に「群言堂」と作る、思いを込めたファイナンシャルプランとは


温かいお金の流れをつくる。世界遺産・石見銀山を舞台に「群言堂」と作る、思いを込めたファイナンシャルプランとはのイメージ

島根県の世界遺産、石見銀山のふもとにある大森町。人口たった400人のこの場所で、日本の素材を使ったものづくりを行うブランド「石見銀山 群言堂(ぐんげんどう)は生まれました。

創業後、日本中にファンを増やした群言堂は、今ではアパレル製品のみならず、大森町の梅の花から採れる「梅花酵母」を活用したスキンケア用品や発酵食品。さらには、飲食店や宿泊施設「暮らす宿 他郷阿部家」を運営するなど、衣食住美のすべてを扱うライフスタイルブランドへと進化しています。

この度、Zebras and Company(以下、Z&C)は群言堂と協業し、事業に取り組むことを発表。リリースを機に、群言堂・取締役及び、石見銀山生活観光研究所・代表取締役の松場 忠さんと、Z&C・代表取締役の田淵 良敬さんに、協業の背景と今後の展望について語っていただきます。

緊急事態宣言下のためオンラインで対談。Z&C 田淵さん(左)、群言堂・松場さん(右)

 

「日本のものづくり」と「大森町の未来」を守る

-今回協業に至った背景を教えていただけますか?

群言堂・松場忠(以下、松場)さん:群言堂は世界遺産・石見銀山のある町、島根県大田市大森町に根をおろし、製造小売業や宿泊業を営む会社です。創業から30年経ち、代替わりの準備や会社のホールディング化に伴い、今後の事業の方向性や資金の運用について考えていました。

ユニコーン企業のような急成長や上場は目指さないけれど、「守りたいものを守る」ために規模を保たなければならない。適切な会社の姿を模索していた時に、田淵さんと出会い、ゼブラ企業という考え方を教えていただいたんです。

-守りたいものとはなんですか?

松場さん:一つは「日本のものづくり」です。現在日本には、職人の高齢化や後継者不足によって、廃業に追い込まれているメーカーさんがたくさんいます。ものづくりは一社で完結せず、私たちがやっているアパレルも、生地を作る機屋(はたや)さんや仕上げ屋さんなど多くの方が関わっている。一つの会社がなくなってしまうと、他を探さなくてはいけなくなったり、その商品自体が作れなったりします。そうした事態が所々で出てきているんです。

「布は日本以外でも作れる」と言われることもあるのですが、日本の湿度が高い気候風土で快適に過ごすには、日本で生まれた素材がぴったりなんです。長い歴史の中で、暮らしとものづくりは密接に関わっているもの。

それこそが地域の特性であって、これからの日本の独自性や競争力にもなると思うと、無くしてはいけないものです。なるべく日本の職人さんに対して、仕事を出し続けられるブランドになっていきたいと思います。

-日本のものづくりは「守りたいもの」の一つ、とおっしゃいましたね。もう一つはなんでしょうか。

松場さん:もう一つの守りたいものは「大森町の未来」です。大森町は重要伝統的建造物群保存地区に認定されている、観光が主産業の町。約15年前、石見銀山が世界遺産に登録された直後は、大勢の人が訪れました。

しかし、それに合わせて整備が進むと、以前とは人の流れ方が変わってしまって。せっかくこの町らしいコンテンツを持っている事業者さんの所に、あまり人が行かなくなってしまったんです。

観光客を増やし続けなければ、町の経済が成り立たないモデルでは、住民が暮らしづらくなったり、地域の魅力が埋もれてしまうリスクもあります。人の数はそれほど増やさず、効率よく地域内の収益が高まるビジネスモデルが必要なんです。

Zebras and Company・田淵良敬(以下、田淵)さん:Z&Cの立ち上げと同じタイミングで、群言堂さんが経産省の「地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業」に採択をされて。その事業の一部を、一緒にできないかと打診いただきました。

経産省の事業で計画をつくったとしても、継続していくためには資金が必要になる。群言堂さんの目指す会社や町を作るためには、どんな資金と仕組みが必要なのか、ゼロから一緒に構想したいと思っています。

-なぜ、松場さんはZ&Cを選ばれたんですか?

松場さん:田淵さんから「ゼブラ企業」の話を聞いて、会社の成長の仕方や資金の流れが、僕らが想像していたものと近いと感じたんです。拡大成長を急ぐのではなく、無理なく継続的に成り立つ仕組みを作るイメージ。なんとなくですが、スーツをバリっと着たコンサルティングの方々には、理解してもらえなそうだと感じていました(笑)。


資本主義的な考えをベースに持ちながら、片足はドロップアウトさせている。そんなZ&Cさんの「曖昧さ」も、僕らのブランドと近いものがあります。皆さんとなら、感覚的な部分まで共有しながら取り組めるかもしれないと思ったんです。

観光客と住民、どちらも豊かにする「地域一体型経営」

-今回の協業の具体的な内容を教えてください。

松場さん:今回の協業は、先ほど話したうちの「大森町の未来」について取り組ませていただくもの。取り組みのテーマは「地域一体型経営」。これまで、企業や個人事業者が個別で収益を上げていたモデルを、みんなで一緒に商品開発やサービス提供をすることで、利益を分配できる事業モデルに変える構想です。

具体的に今考えているのは、町を観光するフリーパスを導入して、施設への入館や、交通のレンタサイクル・バスの利用をワンチケットで可能にする仕組み。上手くいけば、観光客のストレスも減るし、町としても事業者ごとの収益を増やせるんじゃないかと考えています。

-観光客と町の事業者の両者に、メリットがある取り組みですね。

松場さん:また、町の空き家の有効活用にも取り組んでいます。大森町には現在80件近くの空き家がある。それらをきちんと整えることで、宿泊や滞在がしやすい町にしたいと思っています。イタリアでは「アルベルゴ・ディフーゾ(*1)」という考え方があるのですが、町全体をホテルと見立てて、滞在中にさまざまな施設に訪れてもらう。そんな仕組みを作りたいです。

*1 アルベルゴ・ディフーゾ:イタリア語で「分散したホテル」という意味。 町の中に点在している空き家をリノベーションし、レセプション、客室、食堂などの機能を分散させることで、町をまるごと一つのホテルとする考え方。

フリーパス事業と古民家再生の事業が成り立てば、大森町に訪れた人にいいサービスを提供できるし、町を好きになってくれた方に、移住先や多拠点生活の拠点としての受け皿を用意できます。それが、町の持続性につながるはず。

ただ、この事業の目指すところは、事業価値を高めて売却することではありません。自分たちの生活の場を誰かに売ったり、リセットしたりする発想ではないんです。だからこそ、Z&Cさんのような、僕らの考え方や世界観に共感してくれる方と、長期的な関係性を築きながら、進めていくべきだと思っています。

事業目的と、資金の期待値を合致させる「Finance for Purpose」

そうした中で、松場さんがZ&Cに期待していることはなんでしょうか?

松場さん:一緒に「温かいお金の流れ方」を作りたいですね。お金自体に色があるわけではないですが、意志や思いは乗っていると思うんです。お金を媒介にして、そうした思いが循環するようなモデルを作れたらいいと考えています。

田淵さん:「温かいお金」という表現、素敵ですね。たしかに資金には、さまざまなバリエーションがあって、松場さんが仰ったように、提供元それぞれの思いや期待が込められています。

例えば、ベンチャーキャピタル投資は、素早い成長と何倍ものリターンの期待がかかっているし、銀行融資は「金利を手堅く返して欲しい」という期待値がある。一方、寄付や助成金には、お金のリターンよりも「社会の課題を解決して欲しい」という気持ちが込められていたりします。

しかし、資金に種類があることも、そこにはそれぞれの期待値があることも、多くの事業者の方は知りません。その結果、「起業したらとりあえずVCに投資を頼む」といったことがよく行われている。

ですから、Z&Cは資金提供側と事業者の間に入って、事業の目的と資金の期待感を合致させていく役割を担いたいと思っています。今回の協業もまさにそれ。今後行っていくこの支援事業を「Finance for Purpose」と名付けました。

具体的にどんな資金があっていると思いますか?

田淵さん:まだ群言堂さんのお話を聞きながら構想している段階なので、変わる可能性はあります。ただ、群言堂さんは上場を目指していないので、ベンチャーキャピタルではなさそう。

そうなると、おそらく群言堂さんや大森町が描く世界観に共感するようなお金が必要になります。例えば、クラウドファンディングで集めたり、プライベートの会社さんから出資していただくのが考えられる。もちろん慈善事業ではなく、一定のリターンは出せるので、銀行融資も混ぜられるかもしれません。

また、我々としてもチャレンジになりますが、大森町の文化や伝統に価値を感じてくれる、海外の財団や事業会社、インパクト投資家なども可能性としてはあります。

持続可能な開発とは「既にあるもの」を生かす暮らし

松場さん:海外を視野に入れるのは、とても良いですね。実は大森町は、ユネスコのESD(持続可能な開発のための教育)に関する国際会議の受け入れをしています。一昨年には、アジアを中心に8ヶ国から教育部門のリーダーが集まり、国の教育方針に生かすために、大森町の取り組みを視察されました

会議に参加した、ブータン教育大臣「Jai Bir Rai」氏が、大森町について語る映像→

松場さん:大森町に来られた当初は、持続可能な開発のための教育というと、最先端のテクノロジーをイメージする方もいたようです。しかし、滞在される中で視点がガラリと変わられて。「持続可能な開発とは、新しいものを作ることではなく、すでにあるものを生かして暮らすこと」だと、提言書の中で言及してくださいました。人間や地球の未来にとっても、大森町の存在が重要なんだと感じた出来事です。

Z&Cさんには、僕らの活動を客観的にみていただきながら、地元だけのスケールじゃなくて、世界とつながるような活動を一緒に作っていけたら嬉しいです。皆さんが持っている広い視野や高い視座が、取り組みにブレイクスルーを起こしてくれるのを期待しています。

-最後に意気込みを伺えますか?

松場さん:Z&Cさんと関わる前は、自分の人生の中に資金調達の概念は全くなくて。まさか自分が、こんなことを真剣に議論するなんて、思いもしませんでした。

きっと日本中の地域で頑張っている事業者の中にも、同じような境遇の方はいらっしゃると思います。今回の協業が、そうした方々に希望や可能性を感じらえるようなものにできたら嬉しいです。

田淵さん:本当にそうですね。Z&Cのコンセプトは「Different scale, Different future」と言っているのですが、今回の協業は、まさにそのモデルケース。資金調達や企業の成長に関する既成概念やバイアスを取っ払い、成功した事例にしたいですね。

群言堂さんと、この取り組み単発ではない、長いお付き合いができる関係性を築いていきたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。