2023.10.02 ZEBRAS NEWS

代表取締役の退任と新社外取締役の参画。新体制になったZebras and Companyがつなぐ想いのバトン


代表取締役の退任と新社外取締役の参画。新体制になったZebras and Companyがつなぐ想いのバトンのイメージ

2023年10月2日、Zebras and Company(以下、Z&C)が生まれ変わります。
「分散協働」をテーマに、より大きなムーブメント作りに取り組む体制を作りました。

共同創業者の陶山祐司さんが代表取締役を退任し、非営利・行政・政治領域における経営改革に取り組むこととなりました。今後、陶山さんは「共同創業者(Co-Founder)」として同社に関わりながら、領域横断的な協働を行います。

同じタイミングで、第1号投資先の株式会社 陽と人(ひとびと) 代表の小林味愛さんが社外取締役に参画することが決まりました。地域に根ざし、ゼブラ経営を実践してきた小林さんの知見や感覚が、Z&Cに新たなエッセンスを加えます。

公式のプレスリリースはこちらをご覧ください。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000081881.html

小林味愛さん(左)、陶山祐司さん(右)。二人が働いていた経済産業省を背景に。

体制変更について、共同創業者の阿座上陽平さんと田淵良敬さんを含む、それぞれのメンバーはどのように受け止め、これからをどのように描いているのでしょうか。今だからこそ聞ける言葉を残しておくため、あえて一人ひとりにインタビューを実施しました。

田淵さん→陶山さん→小林さん→阿座上さんの順番で、これまでの活動や新体制移行の経緯に触れつつ、お互いへの期待をバトンをつなぐように語ってもらいました。

「才能を発揮して社会を動かす存在になってほしい」

——一人目は田淵さんです。まずは「これまで」として、創業の原点でもある陶山さんとの関わりについて教えてください。

田淵:陶山さんとは5年以上前からの付き合いです。僕と陶山さんがSIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)にいた頃に、同じプロジェクトで一緒に働いていました。

僕はインパクト投資、陶山さんはVCの経験を積むなかで、既存の金融や投資のあり方に対して同じような疑問を持っていて、よく話し合っていたんです。応援したい企業や起業家像が共通していて、それがZ&Cの原型になっています。

僕にとって陶山さんは、当時からずっと良き相談相手。Z&Cで一緒に活動するなかでも、高い目線と広い視野をチームにもたらしてくれました。彼の大学の友人は、陶山さんのことを知的さとパワフルさを兼ね備えた「体育会系ソクラテス」と表現していましたよ(笑)。

——陶山さんの強みが特に発揮された取り組みはありますか?

2023年6月に「ゼブラ企業」が国家戦略として位置付けられたのは、陶山さんのおかげが大きかったです。

参考記事:https://www.zebrasand.co.jp/1974

国の方針に選出されるには、党や省庁にある小さな勉強会から始まり、良いものが徐々にオフィシャルな勉強会になり、それが政府方針として固まっていく過程が必要です。

陶山さんがZ&Cの創業当初から、経済産業省や内閣府の勉強会にこまめに通い、ゼブラの話を繰り返し伝えてくれた蓄積があったからこそ、今回のことが実現しました。

——今後、陶山さんはその領域に特化していくということで、期待されていることを教えてください。

田淵:非営利・行政・政治の分野は、これまで陶山さんが推進してきた領域です。引き続き精力的に活動して欲しいと思っています。

Z&C創業の話を持ちかけた当時、たしか陶山さんは33歳でした。その頃から彼は「40歳からはパブリックな領域で挑戦したい」と志を語っていた。投資事業は10年くらいのコミットが必要だろうからと、Z&Cの共同創業を少し躊躇していた彼に、「7年間でもいいから、才能を使ったほうがいい」と誘ったのは僕です。

当時、描いていたよりも早くの退任となりましたが、今の社会や世界の動きを見るなかで、ベストな時期を判断したんだと思います。その判断を応援しますし、これからも一緒に切磋琢磨をしていきたい。

非営利・行政・政治の領域には、金融やビジネスの領域とは違った難しさがあると思います。変化するのに時間がかかることも多いはず。それに負けず、陶山さんの才能を十分に発揮して、社会を動かしていく存在になってもらえたら嬉しいです。

「ゼブラ経営の当事者の知見や感覚を共有してもらいたい」

——二人目の陶山さんに聞きたい「これまで」は、今回の退任の経緯についてです。

陶山:僕はもともと金融のあり方に疑問を感じて、Z&Cの活動を始めました。しかし、さまざまな経営者、支援者、共感者と議論をしていくなかで、自身の問題意識が金融の領域に留まらないことを感じたんです。

大きくは2つの気づきがありました。1つは、ゼブラ企業が体現しようとしている「ゼブラ経営」という経営のあり方は、ビジネス領域以外にも求められていることです。大学などの非営利法人、自治体経営、国家経営も経済性と社会性の両方を追求し、非財務的価値と財務的価値を統合的にマネジメントすることが必要だと考えるようになりました。

2つ目は、ビジネス的な手法がどうしても通じにくいような社会課題があることです。たとえば、貧困対策や公教育の変革、過疎地域での事業などは、ビジネス的な手法だけでは対応するのが難しい。フィランソロピーや行政、政治の力が必要になります。

2つの気づきから、非営利・行政・政治の領域における経営改革の必要性を感じました。そして、国家公務員というパブリックが出自の自分だからこそ取り組めることがあるのではないかと考えたんです。

参考記事:詳しい退職エントリーはこちら

——その問題意識が今回の意思決定につながるんですね。これからはどのような活動をされるんでしょうか?

ゼブラムーブメントを加速させるためにも、Z&Cの経営やゼブラ企業への投資促進は、阿座上さん、田淵さんという素晴らしい共同創業者に任せつつ、僕自身は非営利・行政・政治などの領域に挑戦します。

これまでも非営利・行政・政治などに対して、外からの働きかけはしてきました。しかし、そうした領域に活動の重点を移し、内側に入ることでより効果的な働きかけができると考えています。

直近では、休眠預金等を社会課題の解決に活用する機関であるJANPIA(一般財団法人 日本民間公益活動連携機構)のアドバイザーとして制度設計のサポートを行っています。そのほか、今年は内閣府のPEAKSというプログラムでワーキンググループの委員に任命いただき、大学の経営の議論に携わる機会もいただきました。

今後はそうした取り組みを通じて、非営利・行政・政治の領域における経営のあり方について知見を深めながら、ビジネス領域との領域横断的な協働を進めていきたいと思います。

——陽と人の小林味愛さんが参画されるのも大きな変化です。小林さんに期待されていることを教えてください。

陶山さん:味愛さんの強みは、陽と人を創業し、地域に深く根ざしながら事業を続けてきた経験と、関わる人たちの声に耳を傾けられる真摯さです。経営メンバーが持っていない視点をたくさん持っており、それらが今後のZ&Cの経営にプラスに働くと思います。

Z&Cがどちらの方向に向かい、どんな組織体になっていったらいいか、どんな社会を作れるといいかを、ゼブラ経営の当事者として、一緒に考えていただきたいと思います。彼女が見ているものや感じていることを、ストレートに伝えてもらえたら嬉しいです。

「愛のあるムーブメントを一緒に作っていきたい」

——次は社外取締役として参画する小林味愛さんです。まずは「これまで」として、陽と人が行ってきた取り組みについて教えてください。

小林:陽と人は福島県国見町を拠点に、農産物の未利用資源など眠ったままの地域資源を需要に即したカタチで価値化し、求められる場所へ届ける事業を行っています。

規格外品として廃棄されていた桃を契約農家さん達から毎日全量買い取り、その日のうちに東京に届く物流を構築したり、地元の特産品・あんぽ柿を作る際に捨てられていた柿の皮から作った、女性のデリケートゾーンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」を展開したりしています。

会社の特徴は、関わる人の幸せを一番に考え、いつの間にか利益至上主義にならないような経営を追求することです。生産者や社員のメンバーに過度な負荷をかけてまで、1円でも多くの利益を短期で目指すような取引は選ばない。

また、一定規模までの成長は必要だと考えていますが、永遠に右肩上がりで毎年の増収増益を狙うつもりはありません。地域の状況に合わせながら企業規模を調整し、成長自体も一定の段階で止めようと思っています。

私にとって、この経営のあり方は、ある種の社会実験なんです。

高度経済成長期には企業が毎年の成長を目指すことで、社会は豊かに、人は幸せになってきました。しかし、成長の裏にある搾取構造が明るみになったり、環境問題が深刻化したりするなか、「本当にこのままでいいのか」と疑問を持っている人も増えていると思います。

「利益や成長第一で経営することが、果たして人間の幸せにつながるのか?この成長は将来世代や自然に対して迷惑をかけていないのか?」と一つずつ問い直し、本当に幸せな働き方・生き方ができる会社・社会を、陽と人は福島で作ろうとしているんです。

——Z&Cへの参画はどのような意味合いがあり、どんな役割を担っていきたいですか?

小林:陽と人の活動は福島に限定していますが、Z&Cは日本全国、もっといえば世界と関わりながら活動をしています。社外取締役として参画することで、新しい社会や経済のあり方を考えるムーブメントを、より広げていけるのではないかと考えました。

私がZ&Cに貢献できるところとしては、地域で活動しているリアルな感覚を還元することだと思います。たとえば「社会性と経済性の両立」という言葉は、あえて定義を曖昧にすることでムーブメントになりやすく表現していると思いますが、地域側にとっては抽象的でちょっと伝わりにくい。

そうした観点をフィードバックしたり、一緒に表現の仕方を考えていくことで、より多くの人たちにもこの価値観を伝えられたらと思っています。

——ゼブラムーブメントがさらに広がりそうです。逆に、Z&Cや阿座上さんへの期待はありますか?

小林:愛のあるゼブラムーブメントを一緒に広げていきたいと思います。Z&Cが言う「社会性」とは、突き詰めると、人間以外の動物や植物も含め、過去、今そして未来に生きる人たちすべてに対して、愛を持って接することだと思うんです。

そんなムーブメントを作る上で、阿座上さん以上に適任な人はいないと思います。なぜなら、阿座上さん自身が「愛の人」だから。緩やかな成長と適正規模の成長を模索する経営について、「女性は上を目指さない」などと色々と否定されてきた私を応援し、投資をし、同じ船に乗ってくれました。関わる人を大切にする経営に、誰よりも共感してくれたんです。

そんな阿座上さんがコミュニケーションをしているからこそ、Z&Cの周辺には、周りのことを考えられる人がたくさんいらっしゃいます。このコミュニティから広がっていく愛のあるムーブメントを、一緒に作っていけることが楽しみです。

「知識や価値観という宝物を貯め続けてほしい」

——最後は阿座上さんです。まずは「これまで」として、Z&Cの取り組みを振り返っていただけますか?

阿座上:2021年の創業から2年半経過し、ようやく種を巻いてきたものが、少しずつ形になってきました。セオリーオブチェンジに描いた通り、1年目はムーブメントから始め仲間や共感者を作り、2年目で社会実装の具体例として投資や経営支援の実績を作る。ゼブラ企業の経営者の考えや実践を発信することで、社会性と経済性の両立とはなにかを、少しは体感してもらえたかなと思っています。

最近では、6月に発売されたWIREDという雑誌の「THE  REGENERATI COMPANY 未来を作る会社」の特集号で、我々にとってのゼブラ企業とほぼ同義である“リジェネラティブカンパニー”に企業がシフトをするためのステップを可視化した「BUILDING REGENERATIVE FUTURES」という企画を編集部と共同制作しました。また、8月には初の書籍「ZEBRA CULTURE GUIDEBOOK Vol.01 ゼブラ企業が分かるガイドブック「ゼブラ企業カルチャー入門」」も出版し、ゼブラ経営の理論化も進めています。

昨年から女性誌FIGAROと取り組んでいる、新しい時代の豊かな生き方と働き方を模索するコミュニティを作る「Business with Attitude」というプロジェクトなど、メディアとの協業も始まったり、金融業界のなかにもゼブラ企業をサポートする企業が増えたりと、「コンセプトへの共感」から「コンセプトの実践」へとフェーズが変わり始めました。

——そうした流れのなかで、陶山さんの退任、小林さんの参画をどう捉えていますか?

阿座上:陶山さんの退任を「分散協働」というコンセプトで僕たちは捉えています。領域横断的な協働という新しい形が面白いなと思っているんです。また、Z&Cはもともと、お互いのやりたいことを応援できるような企業でありたいと思っていました。それを陶山さんが体現してくれて嬉しい気持ちです。

新たに取締役になってくれた味愛さんの参画は純粋に楽しみですね。地域において自分が責任を持つと決めた範囲に対して、徹底的に考え抜く彼女の姿勢は美しく、尊敬し、信頼しています。

彼女自身が悩んだり困ったりしていることは、他のゼブラ経営者にも共通する部分が多いはず。みんなの代弁者の視点がZ&Cのディスカッションに加わっていくのはすごい楽しみです。

——今後のZ&Cはどのような会社になっていくのでしょうか?

阿座上:大事にしたいのは、もし会社がなくなったとしても自分らしく生きられる自立した人たちが集まり、お互いに成長できるような場所であることです。

そのためにも、世界観やカルチャーをきちんと作って、支援する経営者が成長するのと同じように、社内の人が成長したり、サブ(本記事の執筆者)のように社外で色々な関わり方をしてくれている人たちの成長のきっかけを作れたりする会社でありたいと思います。

今後は引き続き、創業から種まきしてきたものを形にし、より深く広く進めていきます。そのためにも、一人ひとりが強く逞しく、目の前のことに向き合い、お互いを大切にできるチームでありたいです。

——では最後のパスとして、田淵さんへの期待を教えてください。

阿座上:田淵さんは宝箱みたいな人です。外見も素敵ですし、内側にも素晴らしい知識や価値観といった宝物をたくさん持っています。

たとえば、僕らのコンセプト「DIfferent scale, Different future」も、田淵さんの発言がきっかけで生まれました。対話のなかで「金融の世界には長い間、投資回収のスピード(時間)と金額(量)の尺度しかなかった」と話してくれたことで、「測る尺度(scale)が変われば、これまでと違う企業成長(scale)が起こり、社会全体でこれまでと違う未来が作れる」と気づけたんです。

そうした話を思いつく田淵さんの感性は、Z&Cの方向性を考える上で欠かせないもの。宝箱の中にある宝物を、これからも増やし続けてもらえたら嬉しいです。

ただ、自分で取り出すのは少し苦手みたいなので、外に表現するのは僕の役割かなと(笑)。お互い信頼し補完しあいながら、新体制で進めるZ&Cのこれからを作っていきたいと思います。

執筆:佐藤史紹
撮影:澤圭太

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。