2022.06.10 ZEBRAS INSIGHT

投資家こそが社会を変える活動家である。海外で進む「セオリーオブチェンジ x 投資」が作る未来


投資家こそが社会を変える活動家である。海外で進む「セオリーオブチェンジ x 投資」が作る未来のイメージ

こんにちは。Zebras and Company(以下「Z&C」)共同創業者の田淵です。

セオリーオブチェンジ(以下「TOC」)という言葉を聞いたことがありますか?ESGやインパクト投資などの業界でよく使われる手法の一つです。私が働いたヨーロッパのLGT Venture Philanthropyでも、投資先の社会的インパクトを定めるのに使われていました。それまでの仕事で投資の経済性は見ていましたが、経済性に加えて社会性もこうやって見るのかと衝撃を受けた覚えがあります。

TOCは、直訳すると「変化の理論」ですが、「社会に起こしたい変革の地図」とも言えると思います。経営の骨子の考え方としてアメリカで考案された世界的方法論で、投資先企業に対して使われることが多いですが、Z&Cでは投資家自身がこれを持つことも重要と考えており、今後投資家の皆様のTOC設計やインパクトマネジメントのご支援を行なっていきたいと考えています。今日は、投資家にとってのTOCについてお話ししたいと思います。

Z&CのTOC

お金だけを重視することに社会が疑念を感じ始めている

ESG、SDGs、CSVなどさまざまな経営における新たなキーワードがありますが、昨今では経済活動においても自分たちの住む社会や地球環境について考えることが求められてきています。GAFAのようなグローバルテクノロジー企業の台頭や金融工学の発展によって、富を持つものが富を増やし社会に大きな格差が生まれるという課題も大きくなってきています。それだけ一企業の影響力の大きくなっていることでFacebook、Uber、WeWorkなどによる(かつての)ユニコーン企業の倫理観が社会問題として問われる事態にまで発展したことも記憶に新しいと思います。

これらに危機感を感じた欧米諸国が、ESG投資、インパクト投資といった概念を創り、2019年のアメリカのビジネスラウンドテーブルではシェアホルダー(株主)重視主義からステークホルダー重視主義へ移行する宣言など、企業のあり方を再考する動きが出てきています。

日本でも、911や311を経て周りを顧みずどこかの国だけが良い、どこかの企業だけが良い、どこかの誰かだけが儲かるということで人類が今まで通りに地球に住みながら子孫を育てていくことが難しいことが目に見えてきました。こうした背景を経て「ゼブラ企業」というコンセプトが日本を含めた世界中で広がってきています。

経営者だけでなく投資家も自らの社会変化の地図をもつ

Z&Cは投資活動を通じて投資先だけでなく投資家としてのTOCを持つことも重要だと感じています。投資家として何を目指すのか、投資活動を通じて社会にどういった変革を起こすのかといったことを定めることは、投資家としての長期的目線を養うことに加えて成功の定義ともなります。投資先の選定に当たっては、その企業のTOCが達成されることが自らのTOCの達成に寄与するかを見定めることが重要になります。

Z&Cでは、創業前に自らのTOCを設計しました。外部の方からフィードバックも得ながら、作りたい未来、自分たちが本当にコミットしたいことなどを考え議論し、時間をかけて作りました。ゼブラ企業への投資・経営支援活動によってゼブラ企業を増やしていくだけでなく、ゼブラ企業の成功が人々に意識変容を与えゼブラ企業やゼブラ企業への資金提供者が増えていく社会を目指しています。

2022年3月には株式会社陽と人へ投資を行った際には、デューデリジェンスの過程の中で、ジェンダー問題における人々の意識変容を起こすことが、男女格差の存在する地方の活性化につながるというTOCを共同作成しました。陽と人が成功しTOCで定義した変化が起こっていくことは、Z&CのTOCにあるゼブラ企業の成功に繋がるだけでなく人の意識変容を起こすような多様な社会を形成していくことにもつながるため、陽と人の成功がZ&Cにとっても成功につながることに確信を持てるようになりました。

株式会社陽と人のTOC

投資家自身のインパクト設計(TOC)が進む欧米

世界でのインパクト投資の投資額は2020年に4,040億ドル(約51兆円)に達しています。2007年にロックフェラー財団によってインパクト投資という言葉が作られて以来、今ではKKR(Kohlberg Kravis Roberts & Co. L.P.)Bain Capital(Bain Capital, LP.)Barclays(Barclays PLC)Goldman Sachs(Goldman Sachs & Co. LLC)といった投資ファンドや金融機関もインパクト投資ファンドを持っています。

また、インパクト投資という言葉ができるずっと以前から欧米では社会的インパクトをビジネスに組み込むことを専門にしたアドバイザーなども存在し、社会的インパクトの投資戦略への組み込みも行われています。今回は、FSG(FSG.Inc)BrightLight(Brightlight Group Pty Ltd)Sagana(Sagana GmbH)といったアドバイザーが企業・ファンド・財団のインパクト投資を立ち上げる支援を行った具体事例をあげようと思います。

FSGの支援によって設立されたダウ社のビジネス・インパクト・ファンド

Business Impact Fundより

FSGは、CSVやシェアドバリューなどで知られるマイケル・ポーターとマーク・クラマーによって共同設立されたソーシャルインパクトを専門にしたアドバイザリー会社です。

ダウ社はサステイナビリティや企業の市民活動への投資について長い歴史を持っており、2011年から2016年にかけて循環型経済、食料安全保障、コミュニティの福祉、手頃な価格の住宅、STEM教育などを支援するため、世界中の数千の助成金にわたって2億5900万ドルを投資してきた企業です。

2016年に社会的にも経済的にも利益のある機会を創出しようとし、FSGのサポートのもと、ダウ・ビジネス・インパクト・ファンドを立ち上げました。このファンドは社会的インパクトを生み出し、新たなビジネスチャンスを開くことのできる可能性を持つ組織を探し出し、資金提供を行うもので、FSGはダウのファンド申請プロセスや評価フレームワークを開発するのをサポートし、インパクトが大きく、ビジネスと整合性のあるプロジェクトを探し当てることを成功させました。

世界中のダウの従業員から多くの提案がよせられ、FSGは、提案書作成プロセスにおいて社員を指導・支援し、最終的に選ばれたプロジェクトにおいては、パートナーとなってくれる重要な外部の専門家やステークホルダーとつなげる役割を果たしました。

ダウ・ビジネス・インパクト・ファンドの設立以来、ダウはNPOと協力して社会的インパクトを推進する機会を得、資金を受ける企業側は毎年最大100万ドルの助成金を申請できるような仕組みを作り出しました。結果として、ダウ・ビジネス・インパクト・ファンドは現在、企業の優先分野に沿った幅広いプロジェクトを支援しています。 例えばタイ赤十字とのパートナーシップでは、ダウの浄水技術をタイ全土の50の農村部の学校に配備し、子供たちにきれいな水を提供するとともにダウの浄水技術の価値を実証しています。他にも、テキサス州ヒューストンのモンゴメリー郡フードバンクとのパートナーシップでは、ダウの包装技術を活用して農産物の保存期間を延長し、困っている人のために新鮮で栄養のある食品の供給量を増やすための農産物救済センターを設立しています。

Brightlightによるアジア女性インパクト基金(AWIFのTOC作成支援

BrightLightはオーストラリアで150万ドルのファンドを運営するChristian Superから2016年にスピンアウトして作られたあるインパクト投資 / アドバイザリー会社です。インパクト投資家、財団、政府などに向けて幅広くサービスを提供している企業で、現在、笹川平和財団の「アジア女性インパクト基金」のTOCの改良版の作成を支援しています。

笹川平和財団は、国際協力・国際相互理解を推進する公益財団法人です。重点目標の一つである女性のエンパワーメントへの取り組みの一環として2017年に資産の内100億円を上限に、アジアでジェンダー投資を行う「アジア女性インパクト基金(AWIF)」を設立しました。設立前に、スイスに本社を置き世界24カ国にオフィスを持つ国際的なインパクト業界専門のコンサルティング会社であるDalbergにジェンダー投資のマーケット調査に加えてTOCの作成支援を依頼し、女性に貸出を行うマイクロファイナンス機関への投資やジェンダー指数の開発などを含む6つのキーアクティビティをベースに、ファイナンスを活用した社会的インパクト創出とエコシステムづくりを通じた間接的なインパクトを生み出すTOCを作成しました。

その後、活動を行う中で当初の想定と違った点も出てきたため、現在はBrightlightの支援を受けながら当初作成したものをベースに新たなTOCを作成中です。

TOCもある種の仮説であることから、ただ作って終わりではなく、使いながら見直し、常にアップデートしていくことも必要であるという良い事例だと思います。

Saganaの支援によってBarlow財団の寄付金がインパクト投資へ

Saganaはインパクト投資機関であるLGT Venture Philanthropy(以下「LGT VP」)の創業者と東南アジアの共同責任者であった、Wolfgang HafenmayerとRaya Pappにより設立されたグローバルなインパクト投資アドバイザリー会社です。

Barlow財団は2014年に発足し、2019年にかけて、恵まれない環境にある女性や子どもたちの自立と自己啓発を育む慈善団体に430万ドルの助成金を交付しました。30以上の非営利団体に助成し、社会変革のためのインパクト投資にその4倍を投資しました。それまでBarlow財団の助成金は、教育プログラム、女性の経済的地位向上、司法への働きかけを通じて女性と子どもを支援し、不平等の削減に重点を置いてきました。

SaganaはBarlow財団がBarlow Big Impact Groupとしてインパクト投資を行う組織にステップアップする際の支援を行いました。具体的には、Barlow財団が起こそうとする社会的インパクトを設計することから始め、そこに詳細なSDGsクライテリアをマッピングし、投資における指標を設定しました。

その後財団はすべてのアセットクラスにおいて寄付金の100%をインパクト投資に移行し、Barlow Big Impact Groupとしてより大きなインパクトを社会に与えられるようになるという、新たなるミッションを掲げました。現在はBarlow Impact Groupとして、投資ポートフォリオを通じて、病院やグリーンビルの建設、代替エネルギー源、教育アプリやサービス、低コストの医薬品や金融サービスへのアクセスなど、社会的にインパクトを持つ取り組みを支援しています。

本記事の執筆にあたり、Saganaの共同創業者Raya Papp、笹川平和財団のジェンダーイノベーション事業部 松野部長に取材に協力してもらうことができ、その内容について詳しく知ることができました。海外では、投資家が自らが起こす社会的インパクトについて考えTOCを作成するということが行われています。取材を通じて、両者とも、社会的インパクトへの意識は高く大きなビジョンは持っていたことがわかりました。さらに、アドバイザリーとの協業後やTOCの作成後には、そのビジョンへ到達するために、具体的に何をどういった優先順位で行っていけば良いかといったことが明確化されたのだと思います。

今後のZ&Cの活動

Z&Cは、メンバーによるLGT VPや社会変革推進財団(SIIF)を含む国内外での累計15年以上のインパクト投資経験およびゼブラ企業への投資を通じてインパクト設計を経営や投資戦略に組み込むことに関する知見があります。上述したように、我々もゼブラ企業への投資を検討する過程で投資検討先のTOCを作成し自分たちのTOCとも重ね合わせます。両者のTOCを見ることで単純な数字のリターンだけではない価値を投資先に見出すことができ、企業と出会うたびに新たな発見があります。

投資家がTOCを持つことで、企業側にとっても自分達に合うかどうか、ただの資金の出し手ではなく長期間に渡るパートナーになってもらえるかという判断軸にもなってきます。自らの投資活動の目的、投資哲学、提供するお金の色などを考えるに当たって、TOCは優れたツールです。数字のリターンという平面的なものだけでない視点を与えてくれ、投資先と投資家が本当の意味で共創していく社会を作れると思います。

TOC策定お悩みの方はいつでもご相談ください。一緒に新しい尺度を持ち、新しい成長を作り、新しい未来を作りましょう。

代表アドレス

hello@zebrasand.co.jp

参照
https://dalberg.com/our-experience/sasakawa-peace-foundation-asia-womens-impact-fund-strategy/https://www.fsg.org/projects/creating-business-and-social-impact-fund/
https://barlowfoundation.com/

PROFILE

ゼブラ編集部

「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。