2022.06.10 INSIGHT

「投資家に社会的意義を説明しても、無意味だと思っていた」 クーデターで倒産危機に陥ったミャンマー企業の1億円調達から見えたもの【Finance For Purpose】


「投資家に社会的意義を説明しても、無意味だと思っていた」 クーデターで倒産危機に陥ったミャンマー企業の1億円調達から見えたもの【Finance For Purpose】のイメージ

「あるべきところに、あるべきお金が流れていない」──

Zebras and Companyが、ベンチャー企業の資金調達をサポートする新事業「Finance For Purpose(以下F4P)」を発足させたのは、そんな課題意識からでした。

社会課題解決と持続可能な経営を両立する「ゼブラ企業」を社会に増やすために、既存の投融資のあり方“以外の”選択肢がもっと必要であり、それをサポートしたいとの考えから生まれた事業です。

2021年9月より始まったこのF4P事業で、ある企業が約1億円の調達を達成。Zebras and Company も同社に出資し、更なる成長をともに目指すことになりました。

その会社の拠点はミャンマー。地方の零細事業者や生活者に金融や物流のサービスを提供していた同社は、2021年2月にミャンマーでクーデターが起きてから、事業継続の危機に立たされていました。不安定な社会情勢が大きなリスクになり、当初予定していた資金調達が困難になってしまったためです。

結果的にこの会社の窮地を救ったF4Pのファイナンスプランは、どのようなものだったのでしょうか?

※ミャンマーでの社会情勢を鑑み、安全確保のため、事例企業及び関係者の名前を伏せさせていただきます。

農村部にモノを届ける……で終わらないビジョン

ミャンマーで事業を展開していた同社は2015年に設立。マイクロファイナンス機関向けSaaSと、個人商店向けB to Bコマースを行うスタートアップ企業です。国内トップシェアの金融システムを全国に拡げつつ、郵便も届いていない村々にまで電話一本で翌日配送する物流基盤を築いてきました。

理念は「排除される人のない、誰しもが参加できる経済の仕組みを作る」こと。

人口の約8割が農村で生活しているというミャンマーでは、食品や日用品が手に入る農村の個人商店はくらしに欠かせない大切な場所。加えて、その商店を営む約8割が女性の起業家です。

クーデターによって「マイナス18%成長」という急激な経済悪化に見舞われた中でも、同社コマース事業の収益は前年比2倍の成長を記録しました。

同社の代表は、この事業について次のように語ります。

「農村に日用品をただ毎日お届けする、ということが最終的なゴールではないんです。将来的には独自の流通網と物流網を基盤に、さまざまな経済サービスや生活関連サービス、また金融サービスが効率的に届くプラットフォームへと発展させたいと考えています」

「農村部には、必要とされているにも関わらず十分に行き渡っていない商品やサービスが数多くあります。農業資材には大きなニーズがありますし、ソーラー発電パネルや安全な飲み水、マイクロ保険、オンラインでの医療相談などは住民の生活を大きく改善するでしょう」

ミャンマー農村部の隅々にまで流通のプラットフォームを構築することで、そこに暮らす人々のベーシックヒューマンニーズ(衣食住や水、教育をはじめ人間生活にとって最低限かつ基本的に必要とされるもの)を整えていくことにつながるのではないか。

同社のビジョンが、Zebras and Companyが目指す「ビジネスの可能性」と共鳴したことも、今回の協業が実現した大きな理由の一つでした。

クーデターという壁が立ちはだかる

さて、この会社を支援する今回の「F4P」プロジェクトは実際のところ、どのように進んでいったのか?

実は、同社は2021年の後半にシリーズAの資金調達をする予定でした。しかし、2月に国軍によるクーデターが勃発。従業員の安全確保や、オペレーション停止、通信遮断への対策、現地通貨のドルへの換金など「止血」の対応に追われます。カントリーリスクを抱えることになり、「とてもじゃないが、VC(ベンチャーキャピタル)の望む時間軸で事業計画を立てられる状況ではなくなった」と代表は振り返ります。

VCは通常、3年から5年以内にIPOをし数十倍のリターンが得られる可能性がある企業を対象にすると言われています。

年内に事業をクローズさせるか、という判断もちらつく中で知ったのが「F4P」でした。

相談を受けたZebras and Companyの陶山祐司さんは、同社の事業を知ると「ミャンマー農村部の生活を一変させる可能性がある」と直感。

しかし、問題は「VCが望む時間軸」です。

同社の事業は、経済合理性を備え、中長期的な投資価値を見込むことができる。しかし、クーデターが大きなカントリーリスクとなり、短期間で大きなリターンを望む通常のVCからの投資は見込めない状況でした。株主や投資家への説明が必要な上場会社・機関投資家からの投資も同様です。

毎週日曜日、2時間の定例会議。事業の棚卸しに並走

このような状況下で始動したF4P。同社代表と陶山さんが毎週日曜日、2時間の定例ミーティングを行い、事業の“棚卸し”と戦略策定を実施しました。

最初に議論したのは、セオリーオブチェンジ(Theory Of Change:TOC)。従来のように売上げや事業規模などの数値目標を起点にするのではなく、同社が起こしたい社会的インパクトを起点に、事業戦略を整理、再定義するものです。

TOCが出来上がったあとは、それを元に新たな事業戦略や資金調達プランの議論に移ります。

Finanace For Purposeにおいては、まず最初に「Theory of Changeの策定」を行う。社会的インパクトを起点とした戦略を描き、その上で、ヒト・モノ・カネの調達プランを練る

ミーティングを重ねた結果、IPOを目指す前提で資金調達をしていこうという話になりました。(事業を通じた社会課題解決を目指す企業の中には、IPOというゴールが適さず「配当」という形で株主還元することを前提とするケースも少なくありません。今回もその検討も行いましたが、同社の場合は10年後も成長している(むしろ成長が加速する)可能性も高く、IPOを目指していくという方針となりました)

といっても、「3~5年以内にIPOして上場益で株主に還元」という”通常セオリー”ではありません。新しい時間軸でのIPOを目指す道です。

当然、これは”茨の道”でもあります。同社のビジョンや社会的インパクトに共感してもらえて初めて達成しうるであろうチャレンジでした。

代表と陶山さんの定例ミーティングは毎度毎度、白熱の展開に……。

ゼロベースで事業を一緒に棚卸しするF4Pの姿勢に加えて、Zebras and Companyが有する豊富なネットワークも大きな特徴だったと代表は振り返ります。

「本当にいろんな方と繋いでいただいて、その方々が共感してさらに人を紹介してくださる、という広がりがありました。おそらくZebras and Companyさんの理念や、培ってきた信用がなければ実現し得なかったことです。同じ志でつながるコミュニティの強さを感じました

個人投資家や中小の事業会社にプレゼンテーションのターゲットを絞って、どんどん当たっていきました。さらに段階的に株式投資型クラウドファンディングも実施し、そこで約100名の投資家を集めます。

驚くべきことに、全てのプロセスを「リモート」で完結。クーデターやコロナ禍の影響もあり、代表は一度もミャンマーから出ることなく、日本国内での約1億円の資金調達をやり遂げました。

Finance For Purpseの後半戦では、実際の資金調達にしっかり並走する。投資家やその他金融機関への提案、さらなる選択肢の検討など、あらゆる手段を尽くす

株主に社会的意義を説明しても「意味がないと思っていた」

クーデターという危機に直面しながらも無事、事業成長のための資金調達を達成した代表は、F4Pを経て大きな「意識の変化」があったと振り返ります。

「従来のセオリーで言うと、投資家は少なければ少ないほどいいんです。そのほうが経営の自由度も上がりますし、IRのコストも下がるので」

それでも、今回はセオリーとは真逆。官民両セクターを含む様々な調達を組み合わせた「ブレンデッドファイナンス」を実施し、これまででは考えられないような多様で多数の投資家からサポートを受ける結果となりました。

「これまで、僕は投資家に対しては社会的意義に共感してもらうというわけではなく、『これだけ事業が伸びます』『これだけ儲かります』という説明の仕方をしてきました。正直にいうと、社会的意義を投資家に話してもあまり意味がないと感じていました。彼らが求めているものはそこにはないと

「でも今回、クーデターという特殊要因があって資金調達をオルタナティブなやり方に変えざるを得ませんでした。そうなって改めて考えると、投資家が50人でも100人でも、毎年数千万円ずつ個人から集め続けて、ちょっとずつ多くの人を巻き込みながら地道に成長していくというのも、今のミャンマーの状況、僕たちの状況には合致しているかもしれないと思ったんです」

約1億円の資金提供者は、非常に多種多様な結果になった。100を超す投資家に支えてもらうことになったのも特徴的だ。

IRメールに「頑張ってください」の返事が届く

資金調達はしたものの、投資家と意見が合わないという悩みは多くのベンチャー企業が抱える悩み。多様な株主を抱え、コミュニケーションは煩雑にならないのでしょうか?

「こういう期待を持って、こういう関心を寄せてほしい、というメッセージを一貫してお伝えできたおかげで、今回入っていただいた投資家さんとのスコープのズレはほとんどないと思います。投資家の方に提示する将来の見通しや、数値データ、図表の見せ方、ワーディングひとつとっても、細かく陶山さんとミーティングを重ねたおかげです」

今回の資金調達では、株式型クラウドファンディングを通じて10万円から投資した個人投資家もいます。代表は、「そういった個人投資家、関係者の方々の思い、期待といったものがいい意味でプレッシャーになっている気がします」と語ります。

非上場企業でありながら月に1回、事業の状況を株主に開示するためのIRメールを送っている同社。メールには、「頑張ってください」というエールを返信してくれる株主もいるそう。

そんな時に感じられる『和』は、弊社にとって大きな資産になったと思います。クーデターという事態で従来のセオリーからは外れましたが、結果としてすごくゼブラ的な成長軌道に乗ったのかなと思いますし、とてもワクワクしますね」

まさに、F4Pの理念である「思いあるファイナンスプランのデザイン」を実現した1号事例となりました。本プロジェクトに並走した陶山さんは、経済合理性と社会的インパクトを織り交ぜたアプローチが資金調達の成功に繋がったと振り返ります。

「この会社さんは、農村に物流を敷くことで『社会的不公正を是正する』といった理念をずっと掲げていました。でも、これは慈善事業でもお涙頂戴のストーリーでもなく、この事業には経済的合理性があり、長い目で見れば大きな成長・リターンが見込めます。そこをバランスよく、うまく伝えたことで、応援投資、共感投資を受けることができたのだと思います」

「まさに、長期的な視点で社会性と経済性を両立しているゼブラ企業だと思い、今後ともご一緒したいということで僕たちとしてご出資させていただくことになりました」

***

社会的な意義を理念に掲げつつ、投資家にそれをアピールしても、これまでは「資金調達につながるとは思えなかった」という代表の言葉が印象的でした。このような企業も、F4Pを通じて投資家から共感を得ることができ、新しい形の資金調達を実現してみせた、今回の1号事例。

F4Pが掲げる「思いのあるファイナンスプラン」によって、社会的意義を持った持続可能なビジネスがより広がっていくことが、今後も期待されます。

約7ヶ月のプロジェクトが無事完了。“Finance For Purpose”の資金調達成功1号事例になった。

構成・編集:南 麻理江 
執筆:清藤千秋
グラフィック:田中 暢
撮影:澤圭太

PROFILE

ゼブラ編集部

「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。