2021.06.21 ZEBRAS INSIGHT

GDPや既存VCへのオルタナティブを目指して──「Different scale,Different future」を掲げる理由


GDPや既存VCへのオルタナティブを目指して──「Different scale,Different future」を掲げる理由のイメージ

「Different scale,Different future」

Z&Cでは始動にあたって、このようなコンセプトを掲げています。企業の「スケーラビリティ」やそれに紐づく指標が変われば、異なる未来を描けるのではないか──。そんな思いが込められています。

「Different」を語るためには、既存のスケーラビリティとは何か?を説明する必要があるでしょう。これまではシリコンバレー型のユニコーン企業を目指した成長のかたちが主流でした。「VC投資」は、3-5年で上場・売却する計画を提出できる企業に投資をすることを指し、VCの「ファンドライフ」と呼ばれる時限は、10年ほどが基本となり、なるべく早く事業を成長させ、早く投資を回収したほうが価値が高まる構造になっています。

関連記事:ゼブラ投資とは何か。VC投資との違いと、投資対象になる企業の5つの特徴

しかし「ユニコーン企業」を目指すような成長のあり方にフィットしない企業も存在します。その一例がゼブラ企業です。「ゼブラ投資」の詳細は上記の記事に譲りますが、既存VCがカバーしきれなかったスケールの方法を模索するゼブラ企業を支援すれば、より多様な未来を描けるのではないか、と考えているわけです。

GDPや証券取引所、既存金融機関へのオルタナティブが登場

「Different scale,Different future」という観点からいまの資本主義や経済の動きを捉えていくと、多様な未来が見えてきます。

例えば、ドーナツ経済学という考え方があります。これは、経済学者のケイト・ラワースが提唱した、経済成長だけではなくさまざまな指標から持続可能な未来をつくるための経済モデルです。「ドーナツ」の円の外側には、「プラネタリーバウンダリー(地球の境界)」の9つの分野が配置されています。例えば、気候変動や生物多様性の喪失、化学物質による汚染などです。その内側には、教育や健康、そして社会的平等といった社会における12分野の不足が配置されています。持続可能な未来のためには、GDPのような一元的な経済成長ではなく、環境の超過と社会の不足をなくし、すべてをドーナツの中に収めるという考え方が提唱されています。ほかにも、グリーンGDPや社会進歩指標など、GDPのオルタナティヴを標榜する指標も登場しつつあります。

また、『リーン・スタートアップ』の著者として知られる起業家エリック・リースは、同書のエピローグにて「ロングターム証券取引​所」というコンセプトを提唱しました。構想から約10年経ち、2020年8月から取引が始まりった同証券所は、四半期ごとではなく数十年単位で企業がどのように価値を生むかを考え、長期的な視点での経営をテーマとしています。このようにステークホルダーと長期的な関係を構築するオルタナティブな証券取引所も、多様な未来を描くための動きのひとつでしょう。

ほかにも、メガバンクなどの金融機関に対していま注目されているのが「地域金融」です。地域金融とは、地方銀行や信用組合、信用金庫などによって、特定の地域の活性化のために行われる金融活動全般を指します。社会的インパクト投資や、ソーシャル・インパクト・ボンドなどの登場に加えて、2019年に「金融検査マニュアル」が廃止されたことが、その変化の要因のひとつになっています。金融検査マニュアルとは、財務情報を活用した企業格付けとそれに基づく審査の仕組みのことで、1999年の導入後に企業評価の標準化が進んでいきました。それに対して事業性評価は、「財務実績や担保・保証に過度に依存することなく、取引先企業の事業内容や将来可能性などを適切に評価すること」だと『実践から学ぶ地方創生と地域金融 』では定義されており、例えば第一勧業信用組合はコミュニティの定性情報を取り入れたコミュニティ・ローンというアプローチをとっています。このように地方銀行や信用組合では新しい融資のアプローチが模索されています。

「ゼブラ投資」だけではなく、オルタナティブを志す多様な取り組みが、「Different future」の実装につながっているわけです。

「社会的インパクト」に関する指標化もサポート

「Different scale」にある「違う計り方とはなにか」。

そもそも、現在の企業価値の算定基準にCAPMと呼ばれる約50年前から使われている資本資産価値モデルがあります。何十年も前にできたモデルが未だにIVYリーグのMBAでも教えられているおり、「いかに早く投資を回収することで、他の投資機会ロスをなくしお金を回し続けるか」ということに繋がってきます。この考えは現在のVC投資の考え方にも深く結びついています。
さらに、この考え方では、“自分“への“金銭的“リターン以外を測定することができません。
自分の子供の学校に寄付をしたとしましょう。感覚的には子供にも社会にも良いことにつながることはわかりますが、CAPMの元ではリターンがないことになってしまうのです。

このような過去からの社会潮流のなかで、ゼブラ企業やゼブラ投資のユニークネスはこれらの問題の解消を目指しています。

VC投資との比較については別記事で詳しく説明しますが、「10年で投資回収」などの時間制約がないこと。Z&Cへの投資者へのインセンティブとして「一定額のリターン」と「社会的インパクト」が挙げられること。Z&Cからの投資先企業の評価軸として、リターンだけではなく社会的インパクトを導入し、その際に「指標づくり」を通じて経営支援を行うことなどが挙げられます。

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私たちが描く新しい未来

このような背景の下、これからの活動を通じてわたしたちは次のような未来を描けると考えています。

「わたしたちは、ゼブラ投資を行なったからといって、一朝一夕に社会が変わるとは思っていません。
しかし、フェーズごとに結果を出していくことで未来をつむいでいくことができると思います。

最初のフェーズとしては、ゼブラ投資を行うことで、ユニコーンとは違った成長の軌跡を描くかもしれないがしっかりと成長するゼブラ企業の実例を生み出していきます。そして、経営支援を通じた経営の現場からのリアルな知見を抽出し、ゼブラ企業を経営するというのはどういうことかを理論化していきます。

次のフェーズとしては、それを世に発信することで世の中でのゼブラ企業についての理解が深まり、ゼブラ企業を支援しよう、資金提供をしようというゼブラ企業を取り巻く企業も増えるでしょう。

最後のフェーズでは、長期的にはそういったゼブラ企業を中心とした生態系ができることで、社会課題解決の加速化、長期的でインクルーシブな目線を持った企業の増加、挑戦機会の拡大・企業の多様性の増加を促すことができ、わたしたちがビジョンとして掲げる『優しく健やかで楽しい社会』が生まれると信じています。」

ドーナツ経済学、ロングターム証券取引所、地域金融、社会的インパクト投資……既存の指標や資本主義の仕組みに対するオルタナティブの萌芽がいま見えてきています。そんな社会の変化を推し進め、さらなる「Different future」を描くべく、ゼブラ企業経営とゼブラ投資の社会実装に挑んでいきます。

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「ゼブラ経営の体系化」を目指し、国内外、様々なセクターに関する情報を、一緒に考えやすい形に編集し、発信します。