2023.09.21 ZEBRAS NEWS
日本の地域でつくる「ハッピーシナリオ」が世界を変える!Z&C第4号投資先は、不動産に新しい価値を作りながらまちづくりを行なう会社 NEWLOCAL
2023年9月、Zebras and Company(以下、Z&C)は、不動産開発を中心としたまちづくりを行なう、株式会社NEWLOCALへの投資を実行しました。
プレスリリースはこちら。
今回は普通株による投資ですが、リターンの形は様々な可能性を考慮して柔軟に設定しています。また、経済的なリターンだけではなく、「地域づくりにも繋がる新しいファイナンスの形」を協業的に考えていくことによって、地域やゼブラ企業の支援に応用できる投資スキームの研究開発にも取り組みます。
なぜZ&Cは投資第4号の先として、NEWLOCALを選んだのか。2社で研究開発する新しいファイナンスとはどのようなものか。記事の前半は、NEWLOCALによるまちづくりと地域の可能性について、NEWLOCAL代表の石田遼さんに聞いています。後半では、今回の投資の詳細と今後の展望について、Z&C代表の田淵さんも含めてお二人に聞きました。
右:石田遼さん 株式会社NEWLOCAL 代表取締役
東京大学大学院で建築・都市設計を専攻。卒業後、マッキンゼーアンドカンパニーにて国内外の企業・政府の戦略策定・実行を支援、主に都市開発、公共政策などを担当。2017年に株式会社MYCITYを設立、都市·不動産向けのIoTプラットフォームを提供。2019年 株式会社point0 取締役就任、企業共創のコワーキング施設を企画・運営。2021年 APイニシアティブ プログラムフェローとして全国のスマートシティーをリサーチ。2022年 「地域からハッピーシナリオを共に」をミッションに掲げる株式会社NEWLOCAL創業。
左:田淵良敬さん 株式会社Zebras and Company 共同創業者 代表取締役
同志社大学を卒業後、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)に入社。IT、航空機ファイナンスを行い、米国ボーイング社にてアジア・パシフィック地域のマーケティング部門で経験を積んだのち、再生可能エネルギー投資・事業開発に従事。その後、LGT Venture Philanthropyに移り、東南アジアの起業家に向けたインパクト投資を行う。その後、ソーシャル・インベストメント・パートナーズを経て、独立。Zebras and Companyを立ち上げ、ゼブラ企業への投資・経営支援を行う。
地域のコンテクストを尊重し、「スピード」「スケール」「再現性」のあるまちづくりを
——まずはNEWLOCALの事業内容について教えてください。
石田さん:NEWLOCALは、人口減少などの課題を抱える地域において、不動産開発を中心としたまちづくりを行なっています。現在は、長野県の野沢温泉と御代田町、秋田県男鹿市の3つの地域で、それぞれの地域が持っている魅力やコンテクスト、抱えてる課題に合わせた事業を展開しています。
スキーで有名な長野県野沢温泉では、冬季以外にも観光客が楽しめるように、借り上げた古いホテルや飲食店などをリノベーションし、運営しています。秋田県男鹿市では、食がテーマのまちづくりや、地域の未来を担う人材輩出を推進。また、長野県御代田町では、教育移住者向けの新居住宅と環境共生型コミュニティの開発を行なっています。
野沢温泉で行なったリノベーションの様子
——不動産のリノベーション、施設運営、住宅開発など様々な事業を行なっていますが、なにか共通するこだわりはありますか?
石田さん:共通項だけではないのですが、「共創」「多地域展開」「ファイナンスハック」という3つのアプローチによって事業を考えています。
「共創」とは、ローカルの価値観やコンテクストを徹底的に尊重し、地元のキーパーソンと共に活動することです。あくまでも、その地域だからこその事業や活動を考えるのが先で、不動産開発やビジネスの知見は、それを実現するために活用します。地域に根ざしたものであればあるほど、自然と独自性や求心力が生まれると考えているんです。
次に「多地域展開」は、複数地域で同時に活動することを言います。一つの地域で活動するよりも、ネットワークが広がったり、事業の相乗効果が高まったりすることで、人や情報、資金などの流動性を高めることができます。
最後の「ファイナンスハック」は、多様なスキームを活用し、様々な種類の資金を集めてくることです。たとえば、野沢温泉では、元プロスキーヤーで野沢の観光協会会長である河野健児さんらと一緒に「株式会社野沢温泉企画」を設立しました。男鹿市では地元のクラフトサケブランド「稲とアガベ」のメンバーと「株式会社男鹿まち企画」を設立し、投資や融資、助成金を受けられる体制を作っています。
他にも、私募債やクラウドファンディング、「不動産の価値化」などを用いて、多様な手段でまちづくりの資金を集めようと考えています。
——「不動産の価値化」とはどういうことでしょうか?
石田さん:不動産の価値化とは、不動産への投資メリットや出口を見える化し、資金を受けられるようにすることです。
都会では、マンションやビルへの投資が日常的に行われています。これは資産価値やリターンが計算できるからです。しかし、地域の不動産は土地や建物の資産評価がつきにくかったり生み出す経済価値が予測しにくいことからリスクを嫌う銀行などが資金を出しづらいという課題があります。また、ファンドなどのスキームを組成してリスクマネーを呼び込むには今度は規模が小さすぎる。
そこで例えば、僕らがいくつかの地域の不動産を束ね、ある程度の規模感の収益モデルを作ります。投資するメリットが示せるようになれば、外部からの資金も集めやすくなり、その地域のローカルベンチャーも活動しやすくなる。地域で活動する企業と、外の資金をつなぐという意味では「不動産×地域に特化したZ&C」と言えるかもしれません。
魅力的なカフェやレストランなど、コンテンツを作れる人は地域にもいます。しかし、それらを支える金融の仕組みを含めたなエコシステムを作れるプレイヤーは、ほとんどいません。都市開発や不動産開発の知見を持つNEWLOCALだからこそ、貢献できる領域だと思います。
人口減少などの地域の問題は大きく、想像以上に早いスピードで進行しています。取り返しがつかなくなる前に解決策を見出すために、3つのアプローチを通じて「スピード」「スケール」「再現性」のあるまちづくりを実現しようとしているんです。
地域から生まれる「ハッピーシナリオ」が世界を変える
——もう少し、NEWLOCALについて伺っていきます。“地域からハッピーシナリオを共に”をミッションに掲げていますね。ハッピーシナリオには、どんな意味が込められていますか?
石田さん:1つは、「地域課題を解決しないといけない」という義務感からではなく、「この地域に関わると面白い」という楽しさや喜びから、地域創生をしようという意味です。プラスの感情で活動したほうが、人と資金は動きます。常に楽しみながら、仲間と資金を集めていくという意味で「ハッピー」という言葉を使っています。
もう1つは「人が幸せに生きていける“新しいシナリオ”」という意味です。20世紀までの人類は、「人口増加と経済成長によって幸せになる」というシナリオを描いてきました。しかし、人口減少と経済停滞が始まった21世紀に、そのままこのシナリオを当てはめるなら、「人類総不幸せ」な未来しか描けません。
新しい幸せの価値観が求められているんです。「こう考え、こう過ごすと、人類は幸せになれる」というマクロなものから、「この地域は100年後も残っている」「自分の子供や孫たちも、幸せに暮らせている」というミクロなものまで、希望を感じられるような新しいシナリオを、生み出していきたいと思っています。
——地域にフォーカスしているのは、そのハッピーシナリオが特に地域から生まれてくるという仮説があるからですか?
石田さん:そうです。地域のライフスタイルや暮らしの在り方に、新しいシナリオの可能性を感じています。自然や地域の歴史などのコンテクストを大切にし、その地域ならではの価値を、顔が見えるコミュニティのなかで磨いて未来につなごうとする。そんな在り方に、「卒近代」や「資本主義2.0」という言葉で表現されるような、市場経済や利潤追求を基本とするだけでは得られない「幸せ」や「豊かさ」のある未来を感じます。
また、課題先進国の日本の地域で生み出されたソリューションは、同じような課題を抱える国が増えていく世界のなかで、大きな意味を持つはずです。この領域こそ、日本人が人類に対してインパクトを出せるところだと思います。
実際、そうしたことを敏感に感じ取っている人たちが、地域に目を向けはじめています。富山県では、安宅和人さんが中心となり、ビジネスやアカデミアの第一線で活躍する人たちが県の成長戦略を議論し始めました。また実体験としても、都会では会えないような著名な経営者たちと、地域のサウナやバーでご一緒する機会が増えてきたんです。
——もともと地域にあった様々なアセットや課題に、可能性を見出し始めている、と。
石田さん:「都会中心から地域へ」のティッピングポイント(転換点)は、もう目前まで迫ってきています。NEWLOCALはこの流れの先陣を切りたい。まずは、現在3地域で展開している事業を、5年後には10地域まで拡張しようとしています。1地域10億円規模の事業を10箇所に作り、総額100億円程度のインパクトを生み出していくのが、直近の目標です。
「地域づくりの新しいファイナンス」のR&Dを目指す、今回の投資
——石田さん、ありがとうございました。ここからはZ&Cの田淵さんに、今回の投資について伺っていきます。まずは投資の経緯を教えてください。
田淵さん:NEWLOCALとの出会いは、鹿児島県で開催されたソーシャルアントレプレナーが集まるカンファレンスで、陶山さん(Z&C 共同創業者 陶山祐司)と石田さんが話したことです。お互いの事業について話すうちに、課題意識や取り組みに共通する部分を感じました。地域向けの事業作りや、新しいファイナンスの在り方を一緒に模索できないかと考えたんです。
Z&Cにとって投資とは、金銭的リターンのみを目指したものではありません。投資第1号である「陽と人」と開発したスキーム「LIFE type1」のように、ファイナンスや投資の仕組みを知見化し、他の地域やゼブラ企業の支援に活かせることもリターンの一つと捉えています。
参考記事:https://www.zebrasand.co.jp/1254
今回の投資においては、NEWLOCALとのR&Dで「地域づくりの新しいファイナンス」の形を模索しようとしています。
——先ほど石田さんから「地域の不動産を価値化する」という話がありましたが、これは田淵さんの目線から見るとどのようなファイナンスの在り方なんでしょうか?
田淵さん:日本ではまだ馴染みのない言葉ですが、「Place based impact investment」という投資手法がそれに当たるかなと思います。これは、個社ではなく物理的に区切られた地域に対し、「この地域をよくする」という共通目的のもと行なうインパクト投資のことを言います。「点ではなく面」としてのソーシャルインパクトを生み出そうとしているのが、一つの特徴です。
石田さん:Place based impact investmentのもう一つの特徴は、「相乗効果」が期待できることです。これは、不動産開発に例えるとわかりやすい。1軒の施設を立てるよりも、10軒の施設を立てたほうが、人や知見、資金などが循環し地域が盛り上がります。投資の成功確率は高くなり、リターンも大きくなることから、資金が集めやすくなると考えられます。
——両社ともに、そうしたファイナンスの在り方をイメージしていたからこその投資なんですね。そもそも、NEWLOCALは、なぜ資金調達をしようとしていたのですか?
石田さん:色々な地域のまちづくりをみて学びつつも、そのスピード感に課題を感じていたんです。解決したい課題の大きさや緊急度に対して、インパクトが間に合わないという危機感があり、いまからやるのであれば同じやり方だけではダメだ、と感じていました。そこで、変えることのひとつとして資金調達をして、事業を加速させたり人を採用したりしようと思っていました。
また、融資ではなくエクイティを受けたのは、一緒に志を共にする仲間が欲しかったからです。リターンを急かすのではなく、事業や価値を一緒に作ろうとしてくれる株主を求めていました。
——Z&Cからの投資を受けた決め手はなんだったのでしょう。
石田さん:先ほど話したように「地域づくりの新しいファイナンス」を作りたいという部分で、共通の考えを持っていたことです。ファイナンスの専門家であるZ&Cがいてくれることで、目下の事業運営によって優先順位が下がりそうになる「ファイナンス作り」の構想を進めやすくなると思いました。僕にとってZ&CとNEWLOCALの協業は、大学研究室とベンチャー企業による共同研究の形と似ているんです。
「新しいエグジット」を模索し、得られた知見を次代にも伝播していく
——Z&Cとしては、経済的なリターン(エグジット)はどのような形を想定していますか?
田淵さん:NEWLOCALによる一般的な上場・IPOによるリターンもふくめ、様々なパターンを想定しています。たとえば、NEWLOCALが各地域に設立する会社が上場・IPOし、本体に潤沢な資金が貯まってきたら、買い戻しをしてもらう可能性もあるでしょう。上場と言っても、一般的な東京証券取引所だけでなく、結びつきが強くなった地域の地域証券取引所に上場するパターンもあり得ます。
もっと長期的には、NEWLOCALや各地で設立する会社がアメリカで設立されたロングターム証券取引所(LTSE)のような市場への上場や、社会的企業とインパクト投資家をつなぐソーシャル証券取引所への上場などといった、日本にはまだ仕組みも前例もないエグジットの形を実現できるかもしれません。Z&Cとしてはそういった、これまでとは違う仕組み作りにも関わっていけると、NEWLOCALとの相乗効果も産んでいけると思っています。
参考記事:https://www.zebrasand.co.jp/329
石田さん:ほかにも、僕らの株式と、僕らが運営する不動産の受益権を交換するエグジットの形もありそうです。株式を1%持っていたら、不動産事業の利益の一部を受け取ることができ、またその受益権を売買することもできるようなエグジットです。
どういう形になるにせよ、今回のリターン・エグジットは、金融市場におけるある種の大きな発明にしたいと考えています。ここ数年のなかで、パタゴニアによる全株譲渡や、神山まるごと高専による100億円基金、まったく逆の文脈でいえば、株式市場におけるSPACの仕組みなど、これまでになかった様々なスキームが生まれ始めています。そうした事例と並ぶような、新しいリターン・エグジットの在り方を模索したいです。
——NEWLOCALとZ&Cによるリターン・エグジットの実現は、「新しい地域づくりのファイナンス」の先駆けになりそうですね。
Z&Cに対してきちんとリターンを出していくことは、今後の構想にとっても非常に重要だと考えています。多地域展開によって事業規模が100億円になれば、第二第三のNEWLOCALが出てくるでしょう。僕らがリターンを出した実績があれば、他のプレイヤーも新たな投資も受けやすくなるはずです。
——R&Dやエグジットが形になるのはもう少し先だと思いますが、直近ではどのような取り組みをしていきますか?
田淵さん:直近は、セオリーオブチェンジやロジックモデルの策定、情報発信などに取り組んでいきます。NEWLOCALとゼブラの周りには、興味関心が近かったり、価値観の重なりが大きい人たちがいるはず。それぞれの知見を交換し合う機会を設けていきたいと思います。
石田さん:今回のように話した内容を発信していきたいですね。「株式と不動産の受益権の交換」のアイデアは、今日話すなかで浮かんできましたし、こうしたアイデアはまだまだ生まれてきそうです。
僕らは、まちづくりに携わる人たちと議論するポッドキャストをやっています。そこで、ゼブラとNEWLOCALと、ゲストを呼んで、生配信のブレスト会議をやっても面白そうです。定例会議や、投資家ミーティングなどもコンテンツ化できるかもしれません。
——「地域づくりの新しいファイナンス」を作るプロセス自体を、広く共有していこうとされているんですね。
石田さん:「不動産×地域」以外にも、様々な領域でのティッピングポイントが訪れています。気候変動やジェンダーエクイティの問題など、まさに世の中の価値観が大きく変わろうとしているタイミングです。
そうしたティッピングポイントを乗り越え、新しい社会の在り方を作ろうと考えているプレイヤーに対して、取り組みの中から得た学びや知見を共有していきたいと思います。2社での取り組みに閉じるのではなく、領域や業界を超えた新しいムーブメントを作っていきたいです。
田淵さん:既存の仕組みをうまく組み合わせた、新しい時代の価値観に合うようなファイナンスモデルは、様々なところで求められています。今回の取り組みが、次世代の人たちの一助になればと願っています。
PROFILE
Fumiaki Sato
編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。