2021.09.21 ZEBRAS INSIGHT

ゼブラ企業における創業者株主間契約 -ゼブラな法律の使い方 vol.1-


ゼブラ企業における創業者株主間契約 -ゼブラな法律の使い方 vol.1-のイメージ

今回から協業パートナーである弁護士の石田幹人先生と一緒に作る「ゼブラ的法律の使い方」をお届けします。
ゼブラアンドカンパニーは創業者が三人いるため、創業者間契約というものを作っています。Z&Cの創業者間契約の根底にあるのは「未来に向けて社会課題にコミットし続けるための約束」という考え方ですが、今回の記事では一般的な創業者間での契約にどのようなポイントを気をつけるべきか。石田先生にまとめてもらいました。

創業者株主間契約の特徴

最近は日本においても、スタートアップ企業の創業に際し、創業メンバーの間で創業者株主間契約を締結することが多くなってきました。創業者株主間契約において、創業者たちは、何らかの理由により創業者のうちの誰かが退任・退職した場合に、その後の会社の成長の果実を退任した人が取りすぎないよう、創業者として保有する株式について一定のルールを設けます。 もっとも、多様な価値観や、長期的な視座が重視されるゼブラ企業においては、一般的な創業者株主間契約とは違った要素も考慮する必要があるように思われます。

では、ゼブラ企業に特徴的な要素を踏まえて創業者株主間契約を作成する場合、どのような内容が考えられるでしょうか。

多様な関与・貢献に報いる手段とは

ゼブラ企業の場合、創業者であっても、関与の仕方は多様となりえます。全員が急成長に向けて同じ方向でフルコミットできるとは限りません。企業としての長期的な持続性を重視しますので、長期間に亘る成長の過程で、途中退出せざるを得ない人も出てきます。育児や介護など、家庭の事情で一時的に抜けざるを得ない方もいらっしゃるかもしれません。

また、ゼブラ企業には、IPOやM&Aなど、大きなキャピタルゲインを得られる明確な「イベント」は生じない可能性が高いです。とはいえ、ゼブラ企業は適切なリターンも追及する営利企業ですので、創業者として関与された方には適切なリターンを得る機会を確保してあげたいところです。以下では、その具体的な手法について考えます。

卒業時の「時価」での買戻し

一般的な創業者株主間契約では、創業者が退任・退職した場合に、その株式を取得時と同じ価格で買い戻すと合意します。それには理由があり、①上場していない企業の株価を決めるのは容易ではない、②仮に株価を決めることができても、急成長するスタートアップ企業では株価が極めて高くなり、他の創業者が買い取れない可能性がある、という背景があろうかと思います。

もっとも、ゼブラ企業においてはIPOやM&Aなどの典型的なエクジットが生じにくいとすると、むしろ経営からの卒業(離脱)を、一種の「エクジット」と捉え、リターンを享受できるような仕組みを創業者株主間契約に組み込んでおくのも一案です。

すなわち、ゼブラ企業では、創業者が経営から卒業する場合、取得時と同じ価格ではなく、敢えて「時価」で買い戻すことが考えられます。もちろん、時価の算定が難しいのはゼブラ企業でも変わりがありませんが、純資産や利益の額など、客観的に決まる数値をベースに時価的な要素を組み入れた算定式を決めることはできます。また、ゼブラ企業として持続的な成長を目指すのであれば、買戻しが不可能と言える水準まで株価が上昇するリスクも高くはないと考えられます。

利益還元手段としての「配当」の活用

一般的に、ユニコーンを目指すスタートアップ企業においては、配当をほとんど行いません。事業の急成長のためには加速度的な資金投入が必要であることが多く、事業において得た利益は投資に回す必要があるからです。そして、配当を行わない代わりに、事業成長により株価が大きく上昇することによって、株主はキャピタルゲインを得ることができます。

一方、ゼブラ企業においては、そのような大きな株価上昇を期待することはできません。そこで、株主への利益還元の手段として、配当をより積極的に活用することが考えられます。例えば、創業者株主間契約において、利益の一定比率を配当することを合意すれば、創業者として関与した期間に応じて一定のリターンを享受できることになります。

従業員の参加

スタートアップ企業の従業員に対するインセンティブとしてはストックオプションを付与することが一般的であり、生の株式を付与することは多くありません。IPOやM&Aを目指す場合、インセンティブを与える手段としてストックオプションを利用することに経済合理性があり、かつ、会社も色々な面で柔軟な設計をできるからです。

しかし、ゼブラ企業においては発想を転換し、”exit to community”の一種として、最終的に従業員に多くの株式を保有してもらうことも考えられます。このようなエクジット手法を視野に入れた場合、創業時に、将来的に従業員に一定の株式数を譲渡するような合意を、創業者同士でコミットしても良いように思われます。昔ながらの日本企業における従業員持株会に通じるところがあるかもしれません。

最後に

このように、創業者株主間契約において、ゼブラ企業であることによって考慮すべき事項は決して少なくありません。上記では触れませんでしたが、

・リバースべスティングの期間の長期化

・退任事由の緩和

・一旦離脱した後の復帰を認める条件の追加

なども、ゼブラ企業の特性を踏まえると、一般的な創業者株主間契約を修正できる点と思われます。

そして、ゼブラ企業の在り方が多種多様である以上、創業者株主間契約の内容も多種多様とならざるを得ません。そもそも、ゼブラ企業において、「株主」となることの意味は、従来のスタートアップ企業の株主とは異なる文脈で捉えられる余地もあるように思います。今後、ゼブラ企業のコンセプトが深化していくに伴い、創業者株主間契約にも新たな発想が出てくると思われ、これからが楽しみです。

文:石田幹人
イラスト:カワグチタクヤ

PROFILE

石田幹人

銀行経営企画部でのコーポレート業務や、ベンチャーキャピタルでの国内外投資・組合運営を経て、弁護士資格を日本及びニューヨーク州で取得。現在は森・濱田松本法律事務所 パートナー。