2022.03.23 ZEBRAS INSIGHT

【創業1周年記念】「150点を取りたかった」——Zebras and Company 創業者3名が2期目にかける想い


【創業1周年記念】「150点を取りたかった」——Zebras and Company 創業者3名が2期目にかける想いのイメージ

2022年3月、「ゼブラ的経営の社会実装」をミッションとするZebras and Companyは創業一周年を迎えました。

「ゼブラ経営」の啓蒙活動から始まり、ゼブラ企業の資金調達を支援する新事業 Finance For Purpose 投資第1号案件を形にしてきたZ&C。この1年間の歩みを、創業者3名はどのように見ているのでしょうか。

今回は、年初にお届けした、 2022年新年のご挨拶 を踏まえ、その裏側にあったやりとりや組織の変化を聞きつつ、2期目の展望について語っていただきました。

予想以上に大きな「ゼブラ」の可能性を感じた1年

左から順に陶⼭祐司さん、⽥淵良敬さん、阿座上陽平さん

ー3月12日、Z&Cは一周年を迎えました。皆さんにとって、どんな1年でしたか?

阿座上陽平(以下、阿座上)さん:
そうですね。改めて振り返ってみると、周囲の力添えのおかげで、大体のことは計画通りに実行でき、多少のインパクトも残せたと感じています。でも、もっと出来た部分があるのも事実。点数にすると100点満点で150点を取りたかったんですが、惜しくも届きませんでした。

上手くいったと思うのは、1年前はコンセプトでしかなかった「ゼブラ的経営」を、いくつかの具体的な形にできたこと。昨年、『群言堂』さんと一緒に形にした「Finance For Purpose」や、先日、投資第1号となってくださった『陽と人(ひとびと)』さんとの協業が、その例です。

これらのリリースを出してから、周囲からの具体的な協業のオファーや投資の問い合わせが増えました。創業当初から応援してくれた方に、具体的な関わり方をわかってもらえたのは大きな前進でした。

陶⼭祐司(以下、陶山)さん:
確かに、いただく相談の数は増えましたね。特にこの1年は、地方で活動されている方からのものが多かったと思います。地方には、短期的な上場を目的とせず、長期的目線を持って経営をする企業がたくさんある。しかし、十分な資金や支援が得られる仕組みは整っていません。そこに課題意識を持っていた方々がゼブラ的経営に共感し、可能性を感じてくださったことは大変嬉しい変化です。

また、地方に限らず、さまざまなセクターの方も興味を持ち始めてくれています。意外なことに、ゼブラの考え方に拒否反応を示す業界はほとんどありませんでした。社会全体でみると、ビックウェーブとまでは言えませんが、小さなさざ波は起きているんじゃないでしょうか。

そうした皆さんの反応から、この1年は、ゼブラ的経営が社会的なテーマであり「時代の変化の芯を食っている」と再確認する年となりました。だからこそ、この取り組み本来の可能性がもっと大きいことも感じています。次の1年は、計画通りを超え、予想外の展開を起こしたいと思っているんです。

⽥淵良敬(以下、田淵)さん:
嬉しいことに、僕らの活動は海外でも一定の評価を得ています。先日グローバルなメンバーを集めて行われた『Zebras Unite(*1)』の協同組合化後一周年のイベントでは、東京の活動が注目されました。さらに、女性起業家支援を目的にした国際起業家プログラム『カルティエ ウーマンズ イニシアチブ』の15周年イベントでも、オルタナティブな投資手法の先行事例として、私たちの活動が紹介されています。

*1・・・「Zebra」の概念を生み出した、アメリカ西海岸発の団体。Zebras and Companyの創業者3名は、その東京チャプターである「Tokyo Zebras Unite(TZU)」としても活動している。

「計画通り」を実現した3つの要因

ーもっとできた部分はあれど、順調な滑り出しだったんですね。振り返ると、計画通りに物事が進んだ要因はどこにあると思われますか?

阿座上さん:
一番大きかったのは、共感してくれる方々からの応援です。まだ実績がたくさんあるわけじゃない僕らを信頼して、相談を持ちかけてくれたり、力を貸してくださったりした方が大勢います。

たとえば、ある行政の職員の方は、県から政府への要望書に「ゼブラ企業の支援」という一文を入れてくれました。県庁の資料に文言を追加するのは簡単なことではないので、相当の想いを持って、今後の布石になるように行動してくれたんだと思います。

陶山さん:
印象的だったのは、特にメディアの方々から力強い応援をいただいたことです。TZUの設立当初から応援してくださっている日経新聞の村山さんや『MASHING UP』の遠藤さん、『ハフポスト』の南さん、村山さんと同じ日経新聞の大岩さんや鈴木さんなど、他にもたくさんのメディア関係者がゼブラの話題を取り上げてくれました。本当に感謝しています。

阿座上さん:
他の要因で思いつくのは、「セオリーオブチェンジ(以下、TOC)」の存在ですね。創業時に作成した、どう社会を変えていくかを絵にしたものです。

セオリーオブチェンジ

この1年の取り組みは初めてのことばかり。金融や投資の領域で活動するには、専門的で複雑な知識が必要で、難しく考えすぎると身動きが取れなくなる可能性もありました。しかし、TOCのおかげで、「大きな方向性が合っているならやってみよう」と物事を進めることができたんです。

ー確かにTOCの下半分に書いてある内容が、具体的な形になっているように見えます。組織やチームといった観点では、何か工夫されていたことはありますか?

陶山さん:
チームの良かった点を自分たちで語るのは少し恥ずかしさもありますが、得意領域やバックボーンの違いを「強み」として活かせたことが大きかったと思います。

田淵さん:
昨年の『群言堂』さんとの協業が、3人で取り組んだ初めてのプロジェクトでした。それまでは、お互いが独立して案件を進めていて、役割分担も明確ではなかった。協業するにあたって、経営支援や資金調達の枠組みを話し合っていくうちに、なんとなく3人の役割が見えてきたんです。

陶山さん:
その経験が活きたのが、先日リリースした『陽と人』さんとの協業でした。もともと僕の知り合いだった『陽と人』さんの事業を見て、阿座上さんが事業の本質性や将来性の高さを見抜いてくれたんです。それで、本格的に経営支援や投資を検討し始めました。阿座上さんって、そういうセンサーみたいな役割をしてくれるんですよ(笑)。

それから、まずは経営支援で阿座上さんが関わり始めて、お金周りの支援を僕が担当。田淵さんと協力しながら投資に関する議論を進め、話がまとまりました。そして最後に、世の中への伝え方やコピーライティングを阿座上さんが整理してリリースに至ったんです。

もちろん最終的な成果は、今後の取り組み次第だと思います。しかし、3人がいなければスタートしえなかったプロジェクトを形にできたことは、私たちの自信にもなりました。

2週に一度、開催し続けた「ビジョンミーティング」

ー組織によっては、得意領域やバックボーンの違いがネガティブに働く場合もあると思います。うまく強みを活かしあう組織を作るために大切にしていたことはありますか?

田淵さん:
私たちの中にも、多少なりともすれ違う部分はありましたよ。仕事のやり方も、コミュニケーションも、意思表示の仕方も全部違いますから、お互いストレスを感じていた部分もあるでしょう。

でも、そうした表面的な差異に囚われず状況を俯瞰して捉える意識や、対話を重ねようとする姿勢は共通して持っていました。

阿座上さん:
具体的には、対話の時間をメインにおく「ビジョンミーティング」をしていました。どんなに忙しくても、2週に一度はなるべくオフラインで集まり、毎回2時間は話していて。しかも、朝早くや夜遅くではなく、頭がちゃんと働く業務時間内に、です。

ビジョンミーティングにアジェンダはなく、会議のスタートは、その時々の状況をお互いに共有する「チェックイン」から。心身の健康状態に関することやプライベートな出来事から得た気づき、仕事の中で気になっていることなどを、素直に共有していきます。

振り返ると、毎回扱うテーマは違いましたが、事業や組織の未来のこと——いわゆる第二象限(緊急ではないが重要なこと)——についてよく話していましたね。

田淵さん:
あるビジョンミーティングで「キャデラックではなくプリウスを目指す」という言葉が出たことがあります。

これは、私の通っているサーフィンスクールの先生の言葉。一生懸命パドリングしている私の姿をみて、先生が「田淵さんは頑張りすぎです!キャデラックのように漕いでますが、(波に乗るには)プリウスぐらいでいいですよ!」と指摘してくれたんです。

この時、私はこの指摘が仕事の取り組み方にも通ずるなと感じました。無意識のうちに「会社を作ったから、もっと上手くやらなければ」と視野が狭まり、燃費の悪い頑張り方をしていることに気づけたんです。

その気づきをビジョンミーティングで共有し、私もチームも働き方が変わっていきました。ビジョンミーティングは、個人と組織と事業の状態を見直し、必要あればメンテナンスをする時間になっていたんです。

計画以上の結果を招く「セレンディピティー」を味方に

ー対話を重視し続けたことが、組織を前に進めたんですね。冒頭、1年の振り返りの中で、150点には届かなかったと仰っていましたが、次の1年で力を入れていきたい取り組みはありますか?

田淵さん:
去年は経営支援や投資など、出資を受ける側の企業と関わる取り組みをしてきました。今年は、「出資側」との取り組みも進めたいと、個人的に思っています。皆さんからの反響も見つつ、自分たちの思いが重なる機会があれば、1件でも2件でも、思いを込めた事例が作れたら嬉しいですね。

また、海外のパートナーシップは引き続き強化したいです。これまで築いた関係性を一段発展させて、MASHING UPさんとの連載企画のような、具体的な動きも始めていければと思います。

阿座上さん:
先ほど話したTOCにあてはめると、来年は上半分の「資金供給の増大」、「ゼブラ企業・サポーターの増加」も狙っていきたいと思います。その一つが、田淵さんの言う「お金の出し手」へのアプローチ。そして、もう一つ考えているのが「ゼブラ企業と人材・企業が集まるハブ」を作ることです。

現在、ゼブラ的な価値観を持つ人や企業と、ゼブラ企業を結びつける仕組みはありません。また、一概にゼブラ企業といっても、フェーズによって求められる人物像が違うにも関わらず、そのことはあまり知られていない。

たとえば、僕らの中では、創業年数が小さい順に「子ゼブラ」、「兄ゼブラ」、「親ゼブラ」と分けて考えています。創業3年目くらいまでの「子ゼブラ」に必要なのは、将来のCxOや取締役になるような人材。創業5年〜10年くらいの「兄ゼブラ」は、企業としてもう一段ステップアップするためのプロフェッショナル人材を求めていることが多い。そして、それを超える「親ゼブラ」には、新陳代謝や若返りのための勢いある若手が必要だったりします。

ーゼブラ企業に関わりたいと思っても、どうマッチングすれば良いかわからない。

陶山さん:
そうなんです。ですから、私たちがプラットフォームを作ることは価値があると思っています。さらに、ゼブラ企業に関わる人には、ゼブラ的な観点とは何かを知ってもらうこと。その逆に、ゼブラ企業側には、たとえば地方と東京で働く人の価値観の違いを知って、働き方を設計してもらうことが重要です。

上から目線ではなく、両者の認識の差を埋める知識や考え方を提供する取り組みもしていけたらと考えています。

ーまだ世の中にないプラットフォームが実現しそうでワクワクします。それでは最後に、おひとりずつ、2期目の意気込みを聞かせてもらえますか。

陶山さん:
先日出した採用募集に対して、何名かから応募が来ました。来年もこういう振り返りの機会を設けると思いますが、その際に1人か2人、メンバーが増えていると嬉しいですね。人数が増えたら、関わり方や働き方も変わっていくかもしれません。でもビジョンミーティングは続けていきながら、今年以上の実績を残せるように頑張りたいと思います。

田淵さん:
先日体験した『カルティエ ウーマン イニシアチブ』のコミュニティの在り方がすごく良かったんです。300人の参加者が全員コミュニティメンバーだからこそ、安心感があって、ランチの時間でさえも会話が途切れませんでした。

しかも、集まっている人は起業家や審査員、投資家、メンター、コーチ、大学教授など多種多様です。さまざまなバックグランドを持つ人たちが共通の価値観に集う。そんなパワフルなコミュニティを、ゼブラでも作っていきたいと思いました。

阿座上さん:
最近、僕らの間で流行っているキーワードは、幸福な偶然を引き寄せる力という意味の「セレンディピティ」です。ゼブラ経営の理論化を一緒に進めているスタンフォード大学で教えているChoi Yue Victoria Woo氏が、理論化のディスカッションの中で「企業の成長に必要なのはセレンディピティだ!」と示唆をくれました。

最初は理解ができませんでしたが、よくよく考えてみると合点がいきます。要するに、予想以上の(150点の)結果を得るためには、計画外の「縁」を引き寄せる余白や、機会を掴みにいくスタンスが大事だということです。

たとえば、この記事を読んで一緒に何かしたいと思ってくれた方々が関われる余白を持つこと。または、周囲の人たちの願いを聞き、少しずつでも実現していくこと。そうした一つひとつの姿勢に、セレンディピティーが宿ると考えています。

引き続き、私たち自身の好機への感度も高めながら、「優しく健やかで楽しい社会」の実現を目指して邁進していきます。ご支援・ご指導のほど、どうぞよろしくお願い致します。

PROFILE

Fumiaki Sato

編集者・ライター・ファシリテーター。「人と組織の変容」を専門領域として、インタビューの企画・執筆・編集、オウンドメディアの立ち上げ、社内報の作成、ワークショップの開催を行う。趣味はキャンプとサウナとお笑い。